評価:★★★★ 4.0点
むかし遠足で級友が勝手に、私のオヤツを食べたことが有った。
お互いにもめまくって、ついには今すぐ返せと迫った事がある。
そうしたところ、涙眼の相手は何を思ったか「今出す」と言うと口に指を突っ込み・・・・・・失礼。
この映画は、そんな子供のケンカのような「おとなのけんか」を描いた一本だ。
そんな「おとな」達を、芸達者の俳優4人が、お互いのプライドをかけて演技合戦を繰り広げるさまは迫力に満ちている。
ニューヨーク、ブルックリンで11歳の男の子二人が喧嘩をし、ついには一人は顔を棒で殴られた。子供達二人の両親が話し合いのため集まることになった。被害者の親は良識的な市民であるロングストリート夫妻、夫マイケル(ジョン・C・ライリー)は金物商を営み、妻ペネロピ(ジョディ・フォスター)は作家でもある。加害者の親はカウワン夫妻であり弁護士の夫アラン(クリストフ・ヴァルツ)と、投資ブローカーの仕事に就くおとなのけんか妻ナンシー(ケイト・ウィンスレット)で、ロングストリート家に謝罪に訪れた。お互い棘を見せつつも、平和的に収まったはずの話し合いは、カウワン夫妻が帰路に着こうとすると、なぜか話が後戻りし再び妥協点を探る事になる。何度も引き戻される話し合いは、次第に激しさを増し、それぞれの利害が露になっていくのだった……。
映画『おとなのけんか』ストーリー
(原題Carnage/製作国フランス・ドイツ・ポーランド/2011年/79分/監督ロマン・ポランスキー/脚本ヤスミナ・レザ、ロマン・ポランスキー/原作ヤスミナ・レザ)
映画『おとなのけんか』予告
ペネロピ・ロングストリート(ジョディ・フォスター)/ナンシー・カウワン(ケイト・ウィンスレット)/アラン・カウワン(クリストフ・ヴァルツ)/マイケル・ロングストリート(ジョン・C・ライリー)
映画『おとなのけんか』出演者
2011年第68回ヴェネツィア国際映画祭、金若獅子賞
映画『おとなのけんか』受賞歴
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映画『おとなのけんか』感想・解説 |
この映画は、子供のケンカのような「おとなのけんか」を描いた一本だ。
徐々にエスカレートしていくさまは、見ているこちらですら、イライラしストレスがたまるほどだ。
客観的に見れば馬鹿な奴等だと笑っていら何せ原題は「大虐殺」だ、覚悟した方がいい。
れるのだが、この日常で起こりえる事件を
基にして、智的で豊かな恵まれた生活をし
ている人々が、揉め続けた先にエゴイステ
ィックになっていく様子を見ていると、こ
の映画は観客側に「お前もこうなるだろ?」と詰問されてるような気になってくる。
映画の話し合いは最初のうちは、双方とも礼儀を持って応対しているが、徐々にトゲが現れ出す。
話の区切りが付いて帰ろうとするたびに、気に障る言葉が出てまた逆戻りするところなど、コントかと思う。
まとめようとすると誰かが異議を唱え、その歪みが少しづつ拡大していくところなどは、見ていてほんとにイライラする。
「どうしてそうなるの」「もう〜タイガイにしろ!」などと言いたくなるだろうが、これが世界の現実だ、しっかり見つめよう。
どんな偉そうな理由を付けたところで、揉め事とは紛争や虐殺だろうと戦争であっても、この映画で描かれたような利己主義から起きていると、この映画は告げているのだ。
その揉め事解消のための外交的努力から始まって、お互いの利害の一致を目指してもその溝が埋まらないとき相互の主張は強くなり、ちょっとした偶発事件を元に武力衝突が始まる。
それも、事故だという観点から外交的に収めようとしても、相互不信が解消されなければ、ついには理性も吹き飛び全面戦争に突入し、ついには世界が崩壊するというわけだ。
この映画は実に丹念にその「揉め事・紛争」のエスカレーションの過程を描いており、それゆえ人間の理性など最終的には何の役にも立たないことを思い知らされ、自己嫌悪に近いフラストレーションを観客に抱かせる。
しかし、それこそがこのドラマの狙いだったろう。
たかだか70分見ただけで、こんなにストレスを感じるのだとすれば、実際の紛争当事者達はどれほどの苦悩を抱えているか、想像するだけでも気が滅入る。
このシュミレーションを目の当たりにして、現実の紛争地にいる人々の気持ちを想像してみろというわけだ。
それゆえどれほど鬱陶しくとも、特に平和な世界に住む人々はこのストレスを我が事として注視しなければいけないだろう。
この映画の、何千倍、何万倍の苦痛が世界のあちらこちらで、今このときも生じているのだ。
やはりこの悲劇的な結末を迎える前に、妥協点を見出す努力を成さねば成らないと個人的には思う。
本当に、この作品は「ドラマ=劇」として高い完成度を持っていて、これが舞台上で一期一会の姿で目前に繰り広げられたら、その迫力は如何ばかりかと思う。
しかし一番感心したのは、舞台劇をもとにして、その表現が舞台的ではなく、映画的な魅力に満ちていることだ。
カット割りやモンタージュなど舞台劇である事を忘れさせるほど見事で、たぶん私が舞台を見たとしても、映画を懐かしんで楽しめないだろうと想像する。
実に都会的で、アイロニーに満ちた、しかし同時にメッセージの強い作品だと思う。
出演者の迫力有る演技も含め、必見ではないだろうか。
しかし、ホントにロマン・ポランスキーが撮ったの?
嘘でしょう?
ポランスキーにしてはセンスが良すぎるって!
この映画、主演がジェーン・フォンダで、監督がウッディ・アレンだって!
ウソジャナイモン!!
ウルサイヤい!ぜったい、ソウダモン!
吐くぞ!
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映画『おとなのけんか』出演者 |
彼女は、『羊たちの沈黙』と『告発の行方』で二度のオスカーを獲得している。
ジュディ・フォスター、インタビュー
【インタビュー大意】
[質問:本作の設定は?]二人の子供が喧嘩をし二組の親が交渉をする、4人は節度のある大人で知的レベルも高く、上流中産階級に属して、話し合いは上手く行きそうに思えるのに実際にはどんどん悪くなる。
[質問:舞台を見たか?]実は券を買ったけど仕事で行けなくなった、見ると恐くて演じられない可能性もあるから良かったかもしれない。見てなくてもドキドキするけど、見たらもっと緊張した。
[質問:どんな映画か?]各キャラクターが書き込まれ個性が際立っている。人間の関係の脆弱さ、身に付いた体裁の愚かさを描く。セリフの全てがお互いの関係性を際立たせている、良い脚本。静かに始まりテンポ良く展開し火が付く。「大人のけんか」は良いアイデアで、年齢を重ねないと分からない所もあるけど、単純な事を単純に描いている、ちゃんとした大人が壊れていく姿を描いている。
[質問:映画的か?]いいアイデアで心理学的な背景がある、人の相互作用でどう怒らせるのか、ケンカする2時間を切り抜いている。それをリアルタイム撮影に挑戦した。カメラが切り替わっても演技をし続ける必要があった。でも脚本のおかげで意識の切り替えは容易だった。
[質問:密室劇は魅力的か?]6週間を過ぎスタジオを出たいけど、これまでの密室劇の経験が役立っている。こういう劇だと4人が親しくなる。みんなヤケクソだから、冗談抜きで、みんな良い人で一番の友情を築けた。会えなくなるのが寂しい。
関連レビュー:ジュディ・フォスターのオスカー受賞作 『羊たちの沈黙』 アカデミー賞五冠に輝く、フェミニズム映画 アンソニー・ホプキンスの怪人レクター博士 |
そしてクリストフ・ヴァルツ。
彼も、『イングロリアス・バスターズ』と『ジャンゴ 繋がれざる者』で二度の助演男優賞を得ている。
クリストフ・ヴァルツのインタビュー
【インタビュー大意】
[質問:映画的か?]私は密室で演じるのが好きなんだ。この監督の密室劇は素晴らしいと思う。この映画が完全に映画的だとは思わないが、ロマン・ポランスキーが撮ると映画になる。
[質問:密室劇は魅力的か?]密室劇が魅力的になる必須要素ではないが、今回は3人の共演者が密室を楽しませてくれた。才能と知性と洗練された大人の役者達だから。密室劇自体が魅力に寄与しているわけではない。
[質問:脚本を毎日通しでリハーサルしたが?]そう、いろいろなオプションや可能性を確かめられた。まだリハーサル中だがそうして作り上げてる。今回はリハーサルは不可欠、もちろん相互理解のためにリハーサルで演技を練るべきだと思う。本番で極端な演技をすればその撮影が使われてしまう可能性がある。リハーサルをすれば事前にやってはいけない演技が分かるし、演技の足がかりもつかめる。普通の映画ではここまでリハーサルに時間はかけない。
関連レビュー:クリストフ・ヴァルツのオスカー受賞作 『イングロリアス・バスターズ』 ブラッド・ピット主演のヒットラー暗殺計画 アカデミー賞・カンヌ映画祭、W助演男優賞獲得 |
さらに ケイト・ウィンスレット。
第81回アカデミー賞では『愛を読むひと』で主演女優賞を受賞。
そしていぶし銀 ジョン・C・ライリー。
舞台で、トニー賞にもノミネートされる実力派。映画は50本近く出演し『シカゴ』(2002年)でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされている。
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以降の文章には 映画『おとなのけんか』ネタバレがあります。ご注意ください。 |
子供のけんかを離れて、4人の間でそれぞれの人間性まで責め始め、ナンシーはケーキを食べすぎ吐くしまつ、それでも話し合いに酒まで入り、事態はますます収拾がつかなくなる。
カウワン・ナンシーが酔っぱらうシーン
【意訳】
ナンシー:みんな怪物よ!怪物!/アラン:もう止めとけ/ナンシー:イヤ!もっと飲むの、もっと酔いたいの!このメス犬は私のバッグを壁に投げつけたのよ!でも誰も助けてくれない!私は飲んで酔い潰れたいの!/アラン:十分酔ってるだろう/ナンシー:私達の息子をどう犯罪者みたいに、この女が呼んだか分かってるの?この家に来て努力してるのに、こいつ等は我々を侮辱し、威嚇し、この星の良い市民になれと説教したのよ!私はうちの子がアンタの子を蹴っ飛ばしてくれて喜んでるわ!私はアンタの人権とやらでお尻を拭いてやる!/マイケル:ちょっと飲んだだけで、スゲー!
映画『おとなのけんか』ラストシーン |
大人達の「大虐殺」の修羅場をよそに―
子供達はあっという間に仲直りして共に遊び、アランが捨てたハムスターは動物虐待も何のその、今日も元気に公園で暮らしていた・・・・・・・・・
【関連する記事】
かなりレアですね!しかもコメディっすよね?
コメディも見るんスね〜!いい経験さしてもらいました。
ありがとうございます(^^)役者さん上手いですよね。
コント見たいに帰れないんですよね〜
満点付けようか相当迷いました(笑)
新しい映画でしたね〜(^^)
もう〜なんでも片っ端から、貪る感じです・・・・
これは70分の短い映画なんですが、だんだんヒートアップしていくカンジが面白かったですm(__)m