評価:★★★★★ 5.0点
フェデリコ・フェリーニというイタリアの映画監督をご存知だろうか?
その映画はグロテスクでドギツいビジュアルが持ち味で、胸焼けするほどコッテリしたシーンがこれでもかと展開される。
しかし、そのドロドロの高カロリーの映像は、間違いなく中毒性を持って見る者に迫ってくる・・・・・
<カサノバあらすじ・ストーリー>
カーニバルに沸き立つ18世紀中盤のヴェネチア。カサノバ(ドナルド・サザーランド)は、マッダレーナ(マルガレート・クレメンティ)という尼僧からの手紙を受け取る。指示されたサン・バルトロ島に赴いたカサノバは“のぞき”性癖の大使のため、大使に見られつつ色事を披露し期待に応えた。海を嵐の中帰るカサノバは、邪悪な書物を保持した罪で、宗教裁判所の審問官に逮捕され、入牢を余儀なくされる。牢でカサノバは、伯爵夫人ジゼルダ(ダニエラ・ガッティ)や、お針娘のアンナマリア(クラリッサ・ロール)との一時を回想する。カサノバは牢を脱獄しパリに行き、神秘的な人々とデュルフェ候爵夫人(シセリー・ブラウン)のサロンで出会う。時は過ぎ、彼は最愛の女アンリエット(ティナ・オーモン)と出会うが、ロンドンでは娼婦の母娘に屈辱を味わされるが、次のローマでは馬車の御者と“絶倫”競争をし見事勝つ。更にスイスのべルンに行き、ドレスデンで彼を愛さない母親と会い別れる。そして数年後、冬のボヘミアに図書室の司書として老いて寂しくカサノバはいた・・・・・・・・
(イタリア/1976年/154分/監督・フェデリコ・フェリーニ/脚本・フェデリコ・フェリーニ、ベルナルディーノ・ザッポーニ/音楽・ニーノ・ロータ)
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カサノバ感想・解説
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カサノバ感想・解説
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いまの欧米中心の歴史観からいえば、想像しにくいかもしれないが、そもそも産業革命(18世紀後半)以前のヨーロッパとは世界的にみて辺境国だった。
中華圏やイスラム圏の大帝国に挟まれ、青息吐息だったのだ。
文化的にも魔女狩りあり、風呂は入らない、排泄物は道に捨てる、あげくの果てにコレラが大流行するなどという、どこかどす黒い、澱んだ、悪夢的な社会だったのである。
実際この解釈はさほど間違っていないと思っているのだが、実は、この暗黒ヨーロッパのイメージを持った理由の大半はこの映画の仕業のようにも思う。
この映画のビジュアルの見事さゆえに、それ以外の中世の絵が浮かばないのである。
そんなこの作品は18世紀のヨーロッパを生きた実在の人物、性豪として知られる「カサノバ」を題材にしたモノだ。
ジャコモ・カサノヴァ(Giacomo Casanova、1725年4月2日 - 1798年6月4日)は、ヴェネツィア出身の術策家(aventurier)であり作家。その女性遍歴によって広く知られている。彼の自伝『我が生涯の物語』Histoire de Ma Vie(邦題『カザノヴァ回想録』)によれば、彼は生涯に1,000人の女性とベッドを共にしたという。
彼の最大の才能はベッドの上で発揮されたが、同時代人にとってのカサノヴァはそれ以外の面でも傑出した存在だった。オーストリアの大政治家シャルル・ド・リーニュはカサノヴァを彼の知りえたうち最も興味深い存在であると評し「この世界に彼(カサノヴァ)が有能さを発揮できない事柄はない」とまで言っている。またランベルク伯爵は「その知識の該博さ、知性、想像力に比肩しうる者はほとんどない」と記している。カサノヴァがその生涯にわたる遍歴において知遇を得た人物には、教皇クレメンス13世、エカチェリーナ2世、フリードリヒ大王(カサノヴァの美貌に関してコメントを残している)、ポンパドゥール夫人、クレビヨン(カサノヴァにフランス語を教えたともいう)、ヴォルテール、ベンジャミン・フランクリンなどがいる。彼はまたモーツァルト『ドン・ジョヴァンニ』初演(1787年)に列席しており、また同オペラでロレンツォ・ダ・ポンテの台本に最後の筆を入れたのではないか、との説も唱えられている。(Wikipediaより引用)
こんな稀代の色事師カサノバのエロチックな人生を、この映画はドーミエの絵をさらに俗っぽく、暗く、厚塗りしたようなイメージ、で中世ヨーロッパを濃厚に描くのである。
誰でもこの映画を見てもらえば、例えばマスカレードや、怪しげな宮廷風景、サーカスなどの映像イメージの原型が、この映画に在ることを納得してもらえると思う。
映画「カサノバ」カーニバルシーン
また、このフェリーニの「映像魔術」の強烈さは、凡百のミュージックビデオがはだしで逃げ出すほどの濃厚さで、それが2時間半続く。
老若美醜を超えて全ての女性に奉仕することを喜びとするカサノバをドナルド・サザーランドがマッタリと演じ、それをニーノ・ロータのミステリアスな音楽が盛り上げる。
正直言って、物語は無いと思ったほうが良い。
ストーリーはこの監督にとって、新たなビジュアルイメージの展開上のキッカケのようなモノで、映像こそがこの映画の全てだと思っている。(右フェデリコ・フェリーニ)
その、こってりドロドロの高カロリービジュアルこそ、フェリーニが描きたかった「映画の中核」だと信じている。
そんなこの映画のビジュアルは、全てイタリア・チネチッタ・スタジオで撮られた濃密な人工美の構築により、やはり芸術の域に達していると思う。
そもそも、このフェリーニという人はビジュアルイメージの天才で、『魂のジュリエッタ』などを見れば、モダンな美から、古典的な絵画イメージまで、派手で豪華な表現からシンプルで抽象的な形まで、あらゆるスタイルを完全に手中にしているのが分かる。
「魂のジュリエッタ」予告
ところが「フェリーニの映像魔術」と呼ばれる、そのビジュアル・イメージは後半になればなるほど、この映画のように下世話で俗っぽく下品でエログロの度が高くなっていくのが、不思議だった。
しかしある日、その理由が分かったような気がした。
実はフェリーニと同時代に、イタリアの産んだもう一人の天才「ルキノ・ビスコンティ」監督がいたことによるのではないかと閃いたのである。
ルキノ・ヴィスコンティ(Luchino Visconti, 1906年11月2日 - 1976年3月17日) は、イタリアの映画監督、脚本家、舞台演出家、貴族(伯爵)。映画監督・プロデューサーのウベルト・パゾリーニは大甥。
1906年11月2日、イタリア王国ミラノで生まれた。実家はイタリアの貴族ヴィスコンティ家の傍流で、父は北イタリア有数の貴族モドローネ公爵であり、ヴィスコンティは14世紀に建てられた城で、幼少期から芸術に親しんで育った。1936年にはココ・シャネルの紹介でジャン・ルノワールと出会い、アシスタントとしてルノワールの映画製作に携わった。(Wikipediaより引用)
ヴィスコンティの描く高踏的な美は、貴族階級に生を受けた、その伝統の上に築かれた圧倒的な力を持っていた。
その芸術性は何代にも渡って伝承され得て初めて可能となった美である。
基本・基礎から違うと言うべきであって、たまたま芸術的才能を持って生まれた個人が対抗するには、あまりにも遠く高いところに在る美だ。
当ブログのビスコンティー映画レビュー
『地獄に堕ちた勇者ども』ビスコンティーの描くファシズムのエロス
『ルードヴィヒ神々の黄昏』王族の芸術映画のあらすじと感想・解説
そしてフェリーニである。
才能があって生まれた一個の人間として彼は、才能があればこそ認めざるを得なかったはずである。
伝統的美、芸術的品格、古典的洗練においてビスコンティに及ばないことを。
それゆえ、ビスコンティが絶対描けない庶民的なエログロを含んだ、スノビズムの持つ脂っこい美を描かざるを得なかったと想像する。
そして、ビスコンティが表現した「貴族的な美」が持つ力と拮抗しうる、「俗悪な美」を間違いなく築き上げた事を考えれば、フェリーニの戦略は正しかったと言えるだろう。
そして、大衆芸術としての「映画」に寄与する映像的な影響を考えるならば、フェリーニの方が大きいとも思えるのだが・・・・・・
如何だろうか?
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以降「カサノバ・ネタバレ」を含みますので、ご注意下さい。
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数々の女達と浮名を流してきたカサノバも老年となり、ボヘミアでヴァルトシュタイン伯爵の城で図書室の司書として朽ちようとしていた。
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カサノバ・ラストシーン
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しかしそんなカサノバは心の中で、幻影の如く人形とダンスを踊るのだった。
まるで、自らの過去の経験が「うたかた」のうちの、甘く儚い夢だったように・・・・・・・
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ありがとうございます(^^)何かパソコン大変だったみたいですね💦
どっちかというと、エロ・グロ系ですね・・・・サザーランドの代表作と言いたいぐらいなんですが・・・・
見逃していました〜。評価5.0もかなり古い映画っすね!
ブログが内部リンクもけっこう入れていい感じになってきましたね。
PVも順調に伸びていることでしょう。
この映画の監督なかなか独創的な感じの様ですね(*‘∀‘)
ありがとうございます(^^)
地道に精進です・・・・PV徐々に上がって着ましたが、いごっそうは富士山のような存在ですm(__)m
この監督はイタリア映画界の歴史に確実に残る方だと思います・・・