評価:★★★★★ 5.0点
この映画の最後、日本語の発音で切り裂くように「メリークリスマスミスターローレンス」と発せられた時の、たけしの表情のイノセントさは一体何事かと思う。
赤ん坊の笑顔のような無邪気な輝きは、人が生まれ出でる時に本来持っている善性を示しているようで、その顔を見るだけで心動かされる。
「戦場のメリークリスマス」あらすじ
第二次世界大戦中の1942年、ジャワ日本軍の浮虜収容所。日本軍軍曹ハラ(ビートたけし)は、捕虜で通訳の英国軍中佐ロレンス(トム・コンティ)に、オランダ兵デ・ヨンに朝鮮人軍属カネモト(ジョニー大倉)が性的暴行をしたので断罪すると言った。軍属カネモトに切腹を強要するハラ軍曹の前に、収容所長ヨノイ大尉(坂本龍一)が現れ処分の保留を命令した。ヨノイ大尉は軍律会議のためバビヤダへ向かい、英国陸軍少佐ジャック・セリアズ(デイヴィッド・ボウイ)のスパイ嫌疑を裁く場で、周囲の反対を押し切り助命しヨノイの浮虜収容所へ送った。収容所でヨノイは浮虜長ヒックスリ(ジャック・トンプソン)に捕虜の詳細情報を要求するが、ヒックスリは国際法を盾に拒否する。収容所と捕虜の間には、日本的な規律とそれに抵抗する捕虜との間で、摩擦が絶えなかった。そんなある日、ヨノイはカネモトの処刑をいい渡し、処刑場にはヒックスリ以下浮虜も立ち会わされ、カネモトの切腹と介錯が成されたとき、デ・ヨンが舌を噛みきった。彼等の間には愛があったのだ。更にある日は無線機を持ちこんだスパイ容疑で、ロレンスとセリアズは独房に入れられ、処刑を覚悟した二人は壁越しに話をする。ロレンスは、女性の思い出を、セリアズは弟に対する背信の後悔を語る。その中、2人は司令室に連行され酒で酔ったハラ軍曹がいた。ハラは笑いながら「クリスマスのサンタ」だと言い、2人を収容所に戻す。
しかし運命の日、ヨノイは浮虜全員を整列させヒックスリに、「銃器の専門家は」と問う。「おりません」と応えるヒックスリに対し、ヨノイは軍刀を抜き「南無阿弥陀仏」と唱える。そのとき、セリアズが捕虜の中から抜け出しヨノイの振りかざす剣の前に立ち、ヨノイを抱きしめ唇を頬に寄せる・・・・・・・・・・
(イギリス・日本/1983年/125分/監督・大島渚/脚本・大島渚、ポール・マイヤーズバーグ/原作ローレンス・ヴァン・デル・ポスト)
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「戦場のメリークリスマス」感想・解説
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「戦場のメリークリスマス」感想・解説
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第二次世界大戦のさなか、ジャワ島の日本軍捕虜収容所における、日本人とイギリス人等外国人捕虜との、相克を描く。
戦争中の敵対関係の中で、平時よりも強い摩擦・衝突が発生するのは必然であり、日本文化と西洋文化の厳しい「せめぎあい」が繰り広げられる。
そんな文明間の戦争として第二次世界対戦は有ったのであり、その文化の担い手こそ、その社会におけるエリート達だった。
日本文明の権化が坂本龍一が演じるヨノイで
あったとすれば、西洋文明を代表して
登場するのがデヴィッド・ボウイ演じる
セリアーズだったろう。
ヨノイはエリート青年仕官として日本軍人としての教育を、骨の髄まで浸み込ませた人物だ。
その真髄は武士道に基づく厳しい「ストイシズム=禁欲主義」であったはずであり、その究極は、その命を自らの誇りのためにいつでも投げ出す事が可能な自己統制にあったろう。
その究極の武士の発露として、切腹という儀式があったのである。
日本武士にとって死とは、己の誠を証明する場であった。
そんな彼が、二・二六事件の3ヵ月前満州に左遷されたため決起に参加できず、自分だけが生き延びた。
これはヨノイにとってみれば、死に遅れたという後悔が、常にその心のうちにあったはずである。
彼は既に、自らの武士道の規範から言えば、生きていてはいけない恥を得た状態だったろう。
それゆえ彼は、収容所内の捕虜に対しても、自らの文化的な規範を持って対処する。
つまり「生きて俘囚の辱めを受けず」という日本軍の価値観からすれば、収容所にいる捕虜は恥を得た死すべき存在なのである。
そして、死を救済と捕らえるヨノイにしてみれば、彼等を処断するのに死を持ってするのは、名誉を与える事に等しいと考えてはいなかったか。
対するセリアーズは、英国上流階級に属する支配者層の一員だ。
階級制度が厳然としてある欧州社会において、寄宿学校に通っているのは裕福な支配者達の子弟であることを意味する。
そんな、英国上流階級に属する者たちにとって「ノブレス・オブリージュ」という言葉は、幼いうちから慣れ親しんだ言葉で有るに違いない。
それは「エリートは弱きを助ける義務がある」という意味を持ち、その義務を果たさないのは名誉に関わる重大事なのだという。
そんなセリアーズは、障害を持った弟を寄宿学校の新入生に課される通過儀礼の生贄にし、見殺しにした。
彼は上級生として、それを阻止できたにもかかわらず、自らの学校内の立場を優先し弟を裏切った。その悔恨の記憶は「ノブレス・オブリージュ」に背いた己に対する厳しい罰として、
彼の人生に影を落としていただろう。
それゆえ彼は、あえて敵軍の真っ只中に降下する、ゲリラ戦という危険な任務を求めたのだろう。
その自罰的な行いは、収容所内に置いても止む事はなく、危険を承知であくまでも「弱きを助ける」行動を取り続けるのだ。
結局、この二人は似た者どおしであり、お互い自らの過ちに対する贖罪を求めて生きてきたのだろう。
その悔恨は、エリートである事と、教育による高い知性と倫理感によって、更に強い思いとなって胸の内にあったはずである。
しかし、この両者には相容れない一点があった。
それは、日本の武士道に有って、西洋の騎士道には決して無い、死を求める心だ。
一見すると、セリアーズも命の危険を顧みない行動を取っているように見えるかもしれないが、彼は決して死を求めているわけではない。
それは、冒頭のセリアーズ処刑前に見せる、朝の髭剃りの
一人芝居に表れていただろう。
そこで示されたのは、死を前にしても日常生活にこだわる、死のその直前まで生に執着し続けるという、心情の表れだったろう。
そしてまた、その命に対する東西の概念の違いをお互いに理解しあえなかった。
しかし、命を巡る問題は、仮に相互に理解されたとしても、文化の核にある中心的命題であるゆえに、決して譲れない一点だったろう。
結局そう考えれば、この教育と文化的道徳律に強く縛られた二人は、決して生きて結ばれる事はできなかったのである。
ただ、通訳のロレンスが語るごとく、そこには種が播かれた。そこで示されたのは、文明同士の衝突は「愛」によって乗り越えられるという事実だ。
文化的な対立と言う荒野に、ヨノイとセリアーズの二人は希望の種を間違いなく播いたのである。
確かにこの二人は、生きて結ばれることは無かったが、間違いなくその可能性を示して見せた。
こう見てくれば、たけしが表わしていたのは「無垢な愛」を身にまとった存在としての人間だったろう。
嬰児のごとく愛を求め、同時に愛を分け与える者。
文化や教育に毒されない、人間本来の叡智を持った者。
そんな人間の根源的な光を持った、たけし演じる軍曹ハラが「メリークリスマス」というとき、文化のコードを超えた「寿=ことほぎ」が人類に与えられた瞬間だったろう。
この真の人間性に与えられた感動的な祝いの詞も、軍曹ハラの死という悲劇の前に切なく響く。
それは、現代においても文明間の対立により、多くの人々が日々喪われている悲しみを示すものでもある。
坂本龍一が作った、この映画のテーマ曲が流れるとき、その完璧な東洋と西洋のリズム・メロディのハーモニーの美しさに陶然とする。
坂本龍一「Merry Christmas Mr. Lawrence」
この曲こそが、まさに文化の融合によって生み出された力であり美であったろう。
そのテーマ曲を背景にして語られるとき、更にいっそう、映画内の文明間の対立による悲劇が痛々しく胸を刺すのである。
いつの日か、この曲の完璧な調和のごとく、世界中の人々が無垢な輝きを発する時が来たらんことを・・・・・・・その日の為に、この映画で描かれた人々は犠牲となったのだから。
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【付録】デヴィッド・ボウイ来日特番
戦場のメリークマスのスタッフがボウイと一緒に語ってます。
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以降「戦場のメリークリスマス・ネタバレ」を含みますので、ご注意下さい。
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浮虜長ヒックスリを斬首しようとするヨノイの前に立ったセリアーズは、ヨノイを抱きしめ頬に口づけをした。崩れ落ちるヨノイ。セリアーズは日本兵によって暴行を受け、首だけ出して生き埋めにさせられる。
ある夜、月光の中からヨノイが現れ、無残な形相となったセリアズの金髪を一房切り落とし、どこへともなく立ち去った。
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「戦場のメリークリスマス」ラストシーン
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時は流れ、1946年、戦犯を拘置している刑務所に収監され、処刑を翌日に控えたハラの元に、ロレンスが面会にやってくる。
この映画で、たけし演じる軍曹ハラが突き抜けたような笑顔とともに「メリークリスマス」というとき、文化のコードを超えた「寿=ことほぎ」が人類に与えられた瞬間だったと、再度言わせていただこう。
しかし現代世界は、この軍曹ハラが搾り出した「メリークリスマス」という言葉に価しない方向に進んでいるように感じられて成らない・・・・・
【付録】
この映画のヨノイ大尉のイメージは、アンジェリーナ・ジョリー監督の映画『不屈の男 アンブロークン』の日本軍捕虜所長の造形に影響を与えているように思います。
当ブログレビュー:『不屈の男 アンブロークン』アンジェリーナ・ジョリー監督の不屈の男の実話は反日か?
日本軍捕虜収容所を描いた秀作
当ブログレビュー:『レイルウェイ 運命の旅路』戦争の苦悩と再生を語る実話映画をネタバレ解説
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もちろん未見ですが(;´д`)
坂本龍一さんの名曲、戦場のメリークリスマスが印象的でした。
ありがとうございます(^^)クリスマスネタで上げてみましたが、途中でまたあげてしまったようなm(__)m
ありがとうございますm(__)mクリスマスネタですが・・・・・また中途半端で上げてしまいました・・つかいずらいですこのブログ。
映画の方は、個人的には愛する一本です(///∇///)
ちょっと違いますけど異文化のかかわりといえば「アバター」を思い出します。
というのもこの映画はインドの学生と一緒に見に行ったから。自分の立場はあのまんま、彼らのコミュニティーでの自分の在り方に悩んでいたころに見たので非常に心に残っています。
こちらこそ、ご無沙汰しています。(^^)
「アバター」は異邦人の身には迫ってくる映画ですね。
個人的に感じるのですが、日本人の文化コードというのは強固過ぎて融通がきかないのと、日本人は圧倒的に他民族との接触経験が無いという点で、世界一異文化に過剰反応を示す民族ではないかとも思いますm(__)m