2016年12月13日

映画『恋愛小説家』一歩踏み出す勇気/感想・あらすじ・ネタバレ解説・ラスト

「人生ソコソコでいいの?」



評価:★★★★ 4.0点

ジャック・ニコルソンとヘレン・ハントが、共にアカデミー主演男優賞と主演女優賞を受賞した、このラブコメディ。

2人の名演もすばらしいのですが、私の好きなところはハリウッド黄金期のロマンチックコメディの薫りが、そこはかとなく漂っているところです。

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恋愛小説家あらすじ
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マンハッタンのアパートに住む、メルヴィン・ユドール(ジャック・ニコルソン)は人気恋愛小説家。しかし、私生活は中年を過ぎて独身で、潔癖症で毒舌家。そんな彼が、ある日隣人でゲイの画家サイモン(グレッグ・キニア)の飼っている犬を押し付けられる。潔癖症の彼が、犬に心の安らぎを見いだし、毎日ランチに通うカフェのウェイトレス、キャロル(ヘレン・ハント)とも話を交わすようになる。シングルマザーの彼女の境遇を知り、彼女がいないとランチが取れないと言い、キャロルの病弱の息子のため自費で彼女に医者を紹介する。キャロルは、息子が元気になりユドールに感謝するが、そんな彼女にユドールは相変わらず毒舌で応える。そんな時、隣のサイモンが破産し彼の両親に援助を乞いに、郷里ニュー・オーリンズへ旅立つことになり、ユドールとキャロルが同行することになった。キャロルとユドールはディナーを共にし、ユドールはキャロルに愛の告白をする。しかし、いつもの癖でつい毒舌が出る。キャロルは傷つき二人は不仲なまま旅を終えた。ニューヨークに帰ってもユドールは後悔しきりで、ある日決心し、朝の4時にもかかわらずキャロルの元を訪ね、彼女に愛を告白する・・・・・・・

(アメリカ/1997年/138分/監督ジェームズ・L・ブルックス/脚本マーク・アンドラス、ジェームズ・L・ブルックス)
1997年度(第70回)アカデミー賞で最優秀主演男優賞・同女優賞を受賞

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恋愛小説家感想・解説
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軽快で、笑えて、見ている間は飽きさせないドラマを持っていて、キャラクターの面白さが際立ち、観客の期待を裏切らないラストシーンを迎えます。
ホント安心して楽しめます。

mibu-katinko.jpgでも考えてみて下さい―
こんな、いかにもハリウッド映画の「ラブコメ」の
要素を持った映画って、その昔からもう見飽きるほど
繰り返されていますよね。

そういう使い古された筋立てを成功させるための一番の秘訣は、見ている人が主人公に肩入れ(=感情移入)する事です。

もっとハッキリ言えば「主人公に恋」してもらえば成功です。

それは若くてカッコいい(カワイイ)俳優を使うというのが一番早いんですが・・・・・・
renai-jack.jpg 
主人公役はジャック・ニコルソンです。

そう言っては何ですがジジイです・・・・
渋いとは思いますが、見ている人に「恋」しろっていう俳優では無い。

実はここにこの映画の仕掛けがあるように思うのです。
roman-guiter.gif
ハリウッド黄金期のロマンチック・コメディーを楽しんだ世代がジャック・ニコルソンと同世代で、実はもう人生の晩年というのに近い方々です。

これは、その世代に向けた恋愛映画だと思うわけです。

実際、主人公のメルヴィンと、キャロルとも年相応に問題を持っていて、自分の人生にある種のアキラメを感じています。

しかしそれでも、仕方がない、今更新しい事を始めるよりは、今の生活を続ける方がマシ。
そんな心境がうかがえます・・・・・・

特にジャック・ニコルソン演じるメルヴィンの偏屈ぶりと異常性もナカナカの物
道の切れ目を踏めないとか、他人と体を接触したくないとか、もはや強迫神経症のレベルです。しかもその自分の領域を侵そうとするものに毒を吐きまくります。
(下は、自分のいつもの席に座れなくて文句を言っているシーンです。)

【意訳】キャロル:元気になったわね/ママ友:新しい薬なの/キャロル:全部息子のよ・・・・・いえいえ今晩デートなの。今朝ドアを出てくるとき、息子が言ったの「ママがデートの間は僕、熱もセキも出さないって約束するよ」って/ママ友:優しい/キャロル:ブロンドのかわいい天使よ。全部食べてね。/女性客:私言ったの。あなたは私をリモコンで操作をするTVのように愛してるって。私はスイッチじゃないって・・・/男性客:素晴らしい/メルヴィン:人のメタファーを聞くと股間がカユクなる。食べな。/リサ:来週返してくれればいいわ/キャロル:借りたものは返すわ。今日って約束だし・・・・そういう主義なの。アラ、ごめんねメルヴィン。 お金取って、借りてると落ち着かないの。/リサ:タクシー代にして帰ってデートの準備したら?/キャロル:準備なんていらないわ。
/メルヴィン:俺は飢え死にする。/キャロル:(メルヴィンに)ちょっと、座ったら。あなたはここに入っちゃいけないって知ってるでしょう?スペンスも「今夜は熱もセキもしないって」ホント良い子で/メルヴィン:俺の席にユダヤ人どもが。/キャロル:あなたのテーブルじゃないでしょう?店のテーブルよ。行儀よくしなければ、別の席にするわよ。(店のスタッフが息を呑む)いやなら、自分の番を待ってて。(メルヴィンお気に入りの席に行く)/メルヴィン:後どのくらい喰うんだ?あんたの欲望はその鼻ほどおおきくないだろ。ちがうか?/女性客:なんですって?!!/男性客:行こう。/男性店員:売れっ子作家でももう限界だ。/キャロル:任せて
このシーンだけで、メルヴィンの偏屈さ潔癖さや、キャロルの闊達さ、そしてキャロルには触られても大丈夫だったりという、二人の特別な関係が説明されていると思います。
更に外国のレストランでは席毎に給仕の担当が決まっていて、別の席に回されるとキャロル以外のウェイトレス達にとってメルヴィンが大迷惑だという様子が、実に要領よく説明されていて感心します・・・・・・

他人と握手はしない。
帰宅すると、必ず、3回、おまじないのように、ドアのキーを回して錠をする。
歩道の石畳の境目は絶対に踏まない。

こんなメルヴィンのようなギリギリの人は、もう自分のペース以外では生きられないとハタ目にも分かります。
それゆえ、自分が作り上げてきた人生や習慣に対して、もう変えようもないし、しょうがないみたいな、諦念が漂います。

rennai-taitoru.png
そんな雰囲気がこの映画の原題「As Good As It Gets」に表されています。

この題は直訳すれば「それが得られる良質のモノ」という意味らしいです。
でも、そのニュアンスとして、ベストと言い切れない点で
ある種のアキラメも含まれているそうで、それで訳せば
俺の人生からすれば、これでヨシとしなきゃ、諦めなきゃ・・」という意味に近いかと・・・・

劇中で使われる「As Good As It Gets」

このシーンは心療セラピーにメルヴィンが駆け込んだときに、待っている受診者がいるので順番を守ってと言われ怒って帰る場面です。たくさん並んだ順番待ちの人々に「What If This Is As Good As It Gets?」と言います。
訳させて頂ければ"コレが手に入るマシなモノだと思って、なぜ疑問を持たないのか?"="このセラピーが良いと思ってんの?”という嫌味だと思います。


そんなタメ息の様な言葉を心に秘めた世代の人たちを、主演二人の達者な演技で表現します。

renai-cupple.jpgそのラブコメ世代の、ハリウッド黄金期時代をどこかイメージさせる、脚本と構成、そしてセリフの楽しさ。
プロフェッショナルの仕事だなと感じました。

その熟練の技で、この一本は、かつて「映画を愛してくれた世代」に対する恩返しのように、暖かく励まします。


「人生ソコソコでいいの?」
「勇気を出して一歩踏み出してみよう」
「まだまだ人生捨てたもんじゃないさ」

そんなエールが聞こえてきます。
何歳になってもロマンスによって、人は成長できる。
そんなお話だと思うのです。

ジャック・ニコルソン、アカデミー主演男優賞受賞シーン

【大意訳】ファーゴのフランシス・マクドーマンドがプレゼンターで、ノミネートを紹介マット・デイモン 『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』、ロバート・デュヴァル 『The Apostle』、ピーター・フォンダ 『木洩れ日の中で』、ダスティン・ホフマン『ウワサの真相/ワグ・ザ・ドッグ』のジャック・ニコルソン『恋愛小説家』の5人。ウィナーはジャック・ニコルソンと紹介。アナウンサー:11回のノミネートで3回の受賞です。ジャック・ニコルソンは踊りながら登壇。
ジャック・ニコルソン、コメント:これをくれたアカデミーメンバーに感謝します。そして、他のノミネート候補者、私の良い友達が何人か居ます。私にとってみんなと一緒のノミネートは名誉です、ボビー(ロバートデュバル)、ダステイン、それから君と君のお父さんにMrデーモン、私の古いバイク友達(イージーライダーのこと)フォンダ。
この映画を誇りにしています。私達はまるで、わからないけど、ライトアップされてここに上がるまで、私は一晩中暗い気持ちだった。何かそんなで。(映画スタッフの名前を連呼)私はGil Cates が背中に汗をかき出したって知ってるぞ。そうだろビル?先に進めって?分かった、もちろん。私はここにいる全ての方に感謝します。皆素晴らしい。私はこれを、マイルス・デイビス、ロバート・ミッチャム、ショーティ・スミス、ジョーヴィトラーノ、レイ・クラマー、ルパート・クロス、J・T・ウォルシュとルアナ・アンダースに捧げたい。彼らはここにはもう誰もいません、しかし、彼らは私のハートにいます。感謝します。

ヘレン・ハント主演女優賞受賞シーン

【大意訳】プレゼンターは「英国王のスピーチ」のジェフリー・ラッシュで、映画に行くとき俳優というのはストーリーに引き込む誘引であり、リアルに感じさせる存在で、特に女優は我々に映画を印象付けるのに特別な関係があると言いノミネート5名を紹介、ヘレン・ハント『恋愛小説家』/ヘレナ・ボナム=カーター『鳩の翼』/ジュリー・クリスティ 『アフターグロウ』/ジュディ・デンチ『Queen Victoria 至上の恋』/ケイト・ウィンスレット『タイタニック』。
ヘレン・ハントの受賞コメント大意:ジュデイデンチの『Queen Victoria 至上の恋』の演技が素晴らしく、今夜オスカーは彼女のものだと思いました。それは、ジュリー・クリスティー、ヘレナ・ボナムカーター、ケイト・ウインスレットのものです。そして、ビリー・コノリー、ベン・アフレック、ジョーン・アレンのものでもあります。そんな素晴らしい演技者達とともに一年働けたことが本当に名誉です。私がここにいるのはジム・ブルックス(監督)のおかげです。たった一つの、唯一の理由はジム・ブルックスです。あなたに感謝し、神に感謝します。ジャック(ニコルソン)を崇拝します。グレッグ(キニア)はこの映画の中で素晴らしい演技をした。(以下、製作スタッフ、家族に感謝の言葉)これは、素晴らしい名誉です。どうもありがとう。

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以降「ネタバレ」と「ラスト」を含みますので、ご注意下さい。
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恋愛小説家ラストシーン
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ジャック・ニコルソン演じるユドールは、せっかくキャロルと旅に出るチャンスを得たにも関わらず、気まずくなって帰って来て以来、状況は好転していません。
そこで、ついに朝の4時にもかかわらずキャロルの家を訪ねます。家では話ずらいメルヴィンは彼女を散歩に誘い、こんな時間に散歩なんてというキャロルに口実が欲しいなら近くにパン屋があるから、焼き立てのパンが好きな二人だと思ってくれると説得し、外に連れ出します。

【大意訳】キャロル:ごめんなさい、やっぱり無理だと思う・・・・・何?/メルヴィン:気分が良くなったよキャロル。/キャロル:メルヴィン、今気分が良くても、いつもそうなるとは限らない・・・・私はあなたの答えではないわ。/メルヴィン:いや、俺がどれほど君を賞賛しているか/キャロル:知ってる?/メルヴィン:ちょっと俺に喋らせてくれ・・・・・俺だけがこの地球の表面上でただ一人、君が世界中で最も偉大な女性だと気が付いているんだ。俺だけがただ一人、君のするありとあらゆる事、君のありとあらゆる考えが、素晴らしいと賞賛している。どうやってスペンサー・・・・スペンス・・・・どんな風に君が自分の考えを言うか、いつでも率直で正しい・・・・・
メルヴィン:俺は思うんだが、大抵の奴等は君に気づいてない。俺は見てて不思議なんだが、君が食事を運んだり、皿を片付けたりするとき、奴らは最高の女性が目の前にいるのに気づかない・・・・だって、俺はこんなにいい気分なんだ・・・・・俺には最高の人だ。・・・・・俺を見捨てる良い理由になったかな。/キャロル:No!/メルヴィン:抱きしめるぞ。コレは質問じゃない。君を抱きしめる。(キスする二人)メルヴィン:もっと上手くできると分かってるんだ!(キスする二人)キャロル:確かに良くなった。(歩く二人、パン屋の電気がつく)キャロル:焼き立てのパン/(出て来た店員に)メルヴィン・キャロル:私達、ゴメンね(Excuse Us)

このエンディングは、余韻の残る良い終わり方だと思いました。
誰かと人生を分かち合える事の幸福が、暖かいパンを共に食べる事で上手く表現されていると思います。

「As Good As It Gets=私の人生なんてこんなもんさ」なんてアキラメ気味で、つい、ため息を吐いちゃうような人生の後半戦に入った方々に贈るエールとして素晴らしい映画だと思います。
アカデミー賞受賞の壇上で思わず踊るジャック・ニコルソンを見て「人生捨てたモンじゃない」そう思ったのでした・・・・・・

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posted by ヒラヒ at 17:02| Comment(6) | TrackBack(0) | アメリカ映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんばんは( ̄▽ ̄)通りを歩くシーンは何回観ても笑います♪アカデミー賞は豪華ですね!日本と違うなぁ〜(笑)焼きたてのパンはハッピーエンドに似合いますね〜コーヒーも。カテゴリー変えました(笑)人に言われてするのは嫌ですが(笑)
Posted by ともちん at 2016年12月13日 18:27
>ともちんさん
ありがとうございます( ̄▽ ̄)カテゴリー大きなお世話ですねー
アカデミー賞豪華です、名スピーチが有ったりしますので、今後も気力が続けば紹介させていただきますが・・・・・下に訳を入れてるのは役にたっているでしょうか(あシャレだ)(^_^;)
Posted by ヒラヒ・S at 2016年12月13日 18:39
これは予想外!ジャック・ニコルソンで恋愛って・・と思いスルーした作品でした。記事を読んでぜひ観たくなりました。
今度借りてきます!
Posted by いごっそ612 at 2016年12月13日 20:02
>いごっそ612さん
ありがとうございます(^^)ジャック・ニコルソンでありながら!恋しちゃう・・・・・しかもジャック・ニコルソンのまま恋愛するのに説得力に溢れてる。やはり名優なんだと再確認しましたm(__)m
Posted by ヒラヒ・S at 2016年12月13日 21:43
こんばんは〜訳があると助かります(^◇^)私はしません(笑)けど。すごいなぁ〜
Posted by ともちん at 2016年12月13日 21:50
>ともちんさん
ありがとうございますm(__)mいや、ジャマくさいかなぁ〜と・・・
読みづらいようなら止めようかと(^^;)単純に動画に字幕が入っててくれれば、それが楽ですよね〜ご意見ありがとうございましたm(__)m
Posted by ヒラヒ・S at 2016年12月13日 22:22
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