評価:★★★★ 4.0点
このツリー・オブ・ライフがアダムとイブのリンゴの樹を指すように、キリスト教的な世界観に基づく「哲学的」映画が語るのは、明瞭なドラマではない。
ここにあるのは映像による散文詩であり、言葉の象徴であり、感情のメタファーにより、神の存在を表現しようとした映画だと感じる。
<ツリー・オブ・ライフあらすじ>
一軒の家に手紙が届けられ、それを受け取った母(ジェシカ・チャステイン)は泣き崩れる。そこには三人の息子の一人、次男の死が記されていた。連絡を受けた父(ブラッド・ピット)も落胆の色を隠せない。長男のジャック・オブライエン(少年期ハンター・マクラケン:成人後ショーン・ペン)も、それを聞き自らの少年時代を思い出す。1950年代のテキサスで、厳格な父と、優しい母に育てられた幼少期の様々な出来事が、宇宙や自然、生命のイメージと共に明滅するように繰り広げられる。それは神の御業としての世界の調和を暗示する・・・・
(アメリカ/2011年/138分/監督テレンス・マリック/脚本テレンス・マリック)
【ツリー・オブ・ライフ受賞歴】
第64回カンヌ国際映画祭パルムドール受賞
「BBC選出21世紀映画ベスト100」:第7位
<ツリー・オブ・ライフ感想>
正直言って、親切な映画ではない。
映像のメッセージによる比重が多いし、キリスト的な世界観を背景としているし、たぶん監督の個人的な経験がベースとなっている点も、観客にとっては混乱のもとだろう。
しかし、この映画の常に揺れ動き、何でもない風景を異化して見せるビジュアルの力と、美しい音楽の響きによって、この映画の中には実際に目にしている情報以外の、何者かの存在を感じさせる力がある。
やはりそれは、神の調和が美として結実したものだろうと感じる。
私は神を信じないし、宗教とは哲学的不完全さを「絶対者=神」の威光で糊塗しようとしているとすら考えるものだが、それでもこの映画を見ると、神の遍在を、神の栄光をすら、信じたくなるのである。
例えば、この映画の人間ドラマの途中に挿入される宇宙や自然の映像にかぶせて、美しいラクリモーサ(lacrimosa:死者のためのミサ曲)が流れたりする時、宇宙生成から現在まで、すべては大いなる力の元で成立しているのだと信じたくなる。
ツリー・オブ・ライフ 挿入歌 「Lacrimosa」
この映像の地球に堕ちる隕石とは、恐竜絶滅の原因とされるメネシスの再現であろうか・・・死滅する命と生まれる命に対する神の理「主は与え、主は奪う」を思い起こさせる。
実を言えばこの映画の家族は、特にショーン・ペン演じるジャック・オブライエンという存在にとっては、決して幸福な成育環境だとは描かれていない。
厳格な父によって食卓の場が緊張感に包まれていたり、将来に成功するよう子供に過剰な要求をしたりと、子供にとっては父が恐怖の対象として存在していたと表現されている。
この映画でなされた事は、そんな過去を持った一人の人間が、自らの内面を真剣に探究した自己分析の記録を、映像化した作品だと感じる。
その契機は、主人公が兄弟の死を受けて、家族、自らの半生、生命の意味、世界の法則、神の存在、救いの道を、真摯に検証した軌跡を、表現したのがこの映画だったろう。
そして苦悩からの救いを求めた彷徨の果てに、彼の苦悩すら「全能の神」が大いなる意志によって生じせしめた現象であると理解し、その苦しみを許容する事によって、魂の救済を見出したと感じられてならない。
その魂の救済が果たされたと言う確信ゆえに、この美しい映画に結実したのであろう。
ツリー・オブ・ライフ 挿入曲 Grace Perfects Nature (Funeral March)
この映画の宗教音楽は神の世界の美しさを表現していると感じる。
また、この映画の内容とは弟の自殺を受けてさ迷った、この監督の個人的な「魂」の軌跡を表現した「内的モノローグ」ではないかと思われもする。
テレンス・マリック (Terrence Malick, 1943年11月30日 - ) は、アメリカ合衆国の映画監督、脚本家、プロデューサーである。
1943年11月30日、イリノイ州オタワで地質学者エミール・A・マリックの息子として生まれた。父方の祖父母はアッシリア系のキリスト教移民である。テキサス州ウェーコとオクラホマ州で育った。 二人の弟がおり、そのうちの一人であるラリーは1960年代にギタリストとしてスペインに留学。アンドレス・セゴビアの教えを受けたが、1968年にプレッシャーから自身の手を傷つけ、直後に自殺した。(WIkipediaより引用)
こんな個人的な経験を基に作られた作品であるがゆえに、混乱や、不明瞭さ、全てを言語化し得ない不充足が痕跡として残されているように思う。
しかし、その苦しみが見えるからこそ、ラストの救済を示す天国を思わせるシーンのカタルシスが際立つのだ。
この映画で描かれた世界の美しさとは、この監督が感じた神の調和であり、「内的なカタルシス」を最も効果的に表現しようとした結果、この静かな断片を積み上げたような世界となったのだろう。
この映画が意味し語るのは、どんな細部、あらゆる場所、ひとつの記憶、喜び悲しみの一瞬ごとに、全て意味があり神に通じるのだという、この監督の到達した境地だったと感じるのだ。
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以降「ネタバレ」と「ラスト」を含みますので、ご注意下さい。
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「ツリー・オブ・ライフ」ラストシーン
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このラストにおける、寛容、赦免、光輝、充足、そして何よりも神々しい美しさに打たれる。
この主人公が過去の全てを許容し、この現実世界の全てが大いなる意志によって統べられているという、大きな意味での「調和」が表わされ、同時に宗教的なオーラをまとった幸福な喜びを見い出す。
この映画の最後に映し出される橋とは、この残酷な現生を生きた末に繋がる、天国への橋であるように感じられてならない・・・・
個人的にはキリスト教的世界観を十分知悉していないため、完全にこの作品を理解できていない者の評価だとお断りしたいと思います。
関連レビュー:テレンス・マリック監督の語る戦争 『シンレッドライン』 日米ガダルカナルの激戦! 地獄の戦場の救い |
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ありがとうございます(^^)映画は美しいビジュアルと家族の融和を描いて、力作だと思います。正し、分かりずらいです。m(__)m
さすがのレビュアンさん見事なレビューです!
それでも自分には難解ですが(笑)
ありがとうございます(^ ^)
やっぱり、作家性の強い作品は、伝わりにくいモノがありますね〜
解釈は勝手なゴタクですが、この作品の持つ美しさは本物だと感じましたm(__)m