2016年12月09日

映画『レオン』暴力と愛の処女性/解説・あらすじ・ネタバレ・感想・ラスト・完全版違い

凶暴な純愛



評価:★★★★  4.0点

この映画はハリウッドにおけるリュック・ベンソンの最高傑作ではないかと思ったりします。
アクションと恋愛が際どく交差するこの作品は、「イノセントな精神」の持つ残酷さと儚さによって「暴力」を「リリシズム」に変換することに成功していると感ます。

『レオン』あらすじ


ニューヨークのの古いアパートに住むレオン(ジャン・レノ)は凄腕の殺し屋。そんな彼の隣の部屋に住む12歳のマチルダ(ナタリー・ポートマン)の家族がヘロインを巡り、スタンフィールド(ゲイリー・オールドマン)と部下たちがアパートを襲撃し、4歳の弟も含めてマチルダの家族を皆殺しにした。お使いのため留守だったマチルダはレオンに、助けを求める。マチルダはレオンが殺し屋だと知ると、家族特に弟の復讐のため自分も殺し屋になりたいと頼む。二人は共同生活を始め、互いに心の扉を開き始める。同時にレオンは殺人技術をマチルダに教えた。レオンは自分に何かあったら仕事の報酬をマチルダにやってほしいと、親代わりで仕事の仲介もするトニー(ダニー・アイエロ)に依頼する。そんなある日、マチルダは家族の仇スタンフィールドの正体がDEA(麻薬取締局)の汚職捜査官だと知る。マチルダは独りでスタンフィールドを襲うが、逆に取り押さえられてしまう。レオンはDEAに乗り込み、彼女を救い出す。スタンフィールドは怒り狂い、トニーの口から彼のホテルを聞き出し、警官隊を率いて完全包囲した。そしてレオンとマチルダの部屋に、警官隊の攻撃が開始された・・・・・

(製作国アメリカ・フランス/1994年/111分/監督・脚本リュック・ベッソン)



『レオン』感想



この映画で押さえるべきは、レオンにしてもマチルダにしても、二人が出会う前には自らの存在証明となる愛を受け取っていなかったという事実でしょう。
人生は大人になっても大変なの?

【意訳】マチルダ:人生ってずっとツライの?あなたが子供のときは?/レオン:ずっとつらいさ。(ハンカチを)持ってな。

確かにマチルダは4才の弟には愛情を注いだかもしれませんが、父親からは暴力を振るわれ「弟以外の家族は死んでもどうでも良い」と言います。

また、レオンも完全版ではイタリアに彼女が居たと語られはしますが、彼のアメリカにおける父親代わりのトニーの胡散臭さは、やはり庇護者の愛情の欠如を物語っていると言えます。

reon-wolk.jpg結局、親からは愛されず、マチルダの弟に対する愛も、レオンのイタリアの彼女に対する愛も、二人の注いだ愛は帰ってくることの無い一方通行の愛「片思い=幻想」だといえるでしょう。
つまりこの二人は、
人が成長するために不可欠な
「自分を求める他者=他者から与えられる愛」を持っていない存在だと思うのです。


この二人が表したのは、人間関係の中で生じる愛憎という名の「執着=汚れ」を持たない「無垢=イノセント」な存在だと感じます。

そしてそれは他者と命を共有していない、他者と交わっていないという意味で「処女性=バージニティ」を持つ者でもあるはずです。

Leon-movie.gif
この映画の主人公の二人はマチルダという少女はもちろん、大人であるレオンも、まるで生まれたまま愛を知らず放り出された赤ん坊のような存在に見えます。


その解釈を元にすれば、この二人は共同生活をして、お互いに愛を与えあうことで、初めて人間にに成り得たのだろうと思います。

それはまるで、木の人形に愛を与え、ついに人間に生まれ変わった「ピノキオ」を想起させます。

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結局、この二人は「イノセント性」と「ヴァージニテイ」を武器として、他者に対する無関心と愛憎の欠如によって、機械のように躊躇なく殺人を遂行できたのでしょう。


しかし、二人が共同して犯した殺人とは、実は命を共に相手に預けた、お互いの運命を一つに結ぶ行為だったはずです。

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つまり、このレオンとマチルダの二人の、
一見プラトニックな愛の顔をしたこの映画は
お互い抱き合うシーンの代わりに暴力シーン
で「セックス行為」を表現したのだと思うのです。


そして、お互いを狂おしく希求する行為を通じて、人は愛を生じ、人に成っていくのではないでしょうか?

Leon-loli.jpg
この二人が相互に愛を分かち合って、人間として生まれ変わった時、悲劇が生まれたのは、愛なく殺して来た殺人者が、愛によって復讐された姿で在るように感じられてなりません・・・・・・・

この映画は、過激な暴力と一種ロリータ愛的な表現を見せます。
それでいて、透明感を持って観る者を感動させるのは、こんなピノキオ的なイノセントさと純潔を放棄して、人間に成る、成長する過程が、どれ程の苦しみと激しい闘いが必要かを、暴力シーンによって描いているからではないかと思うのです。

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『レオン』解説

完全版と公開版の違い

完全版には公開版になかった、22分間が追加されています。
正直に言えば、公開版の方がスッキリと整理され、よりイノセントな関係が際立っていて、個人的には好きですが、以下に完全版の追加部分を紹介します。

@マチルダのヒットマン修行

レオンとマチルダのヒットマンのトレーニングシーンが、完全版では共に暗殺の現場に踏み込み、ペイント弾で実際にマチルダに撃たせたりしています。
レオンはマチルダに標的を確保して、2発目はトドメを刺すため肺か心臓を狙えといい、顔を撃つと証拠がなくなるから止めろと教える。


Aマチルダの泥酔シーン

上の@のシーンに続く、レストランの食事シーンでマチルダがシャンペンを飲み酔っ払うところも完全版で追加されたシーンです。
初仕事を記念してレオンとマチルダが酒を飲む。記念に特別な事をして良いならと、マチルダはキスをせがむ。レオンは人目を気にして狼狽し、座れと促す。マチルダはレオンを愛していると言って、レオンは止めよう話題を変えようという。マチルダはレオンに初仕事が19歳だと聞き勝ったと言う。そして、ハイになって笑い出す。


Bマチルダの愛の告白

完全版では、マチルダがレオンに最初の男性(初体験の相手)になって欲しいと直接的に求めます。映画にとって、メッセージが変化する重要な部分だろうと感じます。
【意訳】マチルダ:女の子の性的初体験の相手は重要なの。それが記憶されて、女の子の性生活に影響するって、お姉ちゃんの雑誌で読んだの。女友達は、最初の体験を嫌いだって言ってるわ。それは、好きでもない男を相手にしたから。ただ大人ぶっているだけ。煙草を吸ってみるのと一緒。最初の体験を好きでいたい。/レオン:答えはノーだ。/マチルダ:なぜダメ?/レオン:ただ出来ない。/マチルダ:誰かほかに好きな人が?/レオン:違う。(以下、イタリアに彼女がいたが、家柄の違いから父親に反対され、彼女をも殺された。レオンの19歳の最初の殺人は、その父親だ。そしてアメリカに来て彼女はいないと語る。)/(4:00秒から)/レオン:わかるかなマチルダ。俺は良い恋人になれない。/マチルダ:OK。でも一つお願い。/レオン:何だ?/マチルダ:ソファーで寝ているけど、ベッドで一緒に寝ましょう。/レオン:それは良い考えとは思えない。/マチルダ:大丈夫。足もベッドの上に乗せて。頭を枕に、ゆっくりして。お休み。/レオン:お休み。


『レオン』解説

レオンとマチルダの肉体関係

レオンとマチルダの間に愛情があったのは間違い無いと思います。
その愛は、完全版を見れば、さらに男女間の愛情の色を濃く感じます。
Leon-loli.jpgそして、その関係がプラトニックなものだったか否か、気になるところですが・・・・
こんな右のようなシーンがあるので、レオンとマチルダの間に実際に性的関係があったのかとも感じます。

しかし、個人的には上の「完全版と公開版の違いBマチルダの愛の告白」のシーンを見て、プラトニックな関係を保っていたと感じています。

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以降の文章には

『レオン』ネタバレ

を含みますので、ご注意下さい。


マチルダとレオンはスタンフィールドの手配したSWAT(特殊武装警察)にアパートの部屋を包囲されてしまいます。
レオンは残りたいというマチルダを無理やり逃げさせ、自分一人でSWATと戦います。

【意訳】
マチルダ:ダメ! あなたには狭すぎるわ/レオン:黙って行け/マチルダ:イヤ あなたと一緒に。1人で行くのはイヤ/レオン:俺1人なら、何とか逃げる手はある。トニーに、大金を預けてあるんだ。それを持って町を出よう。行け!/マチルダ:気休めの話なんかよして/レオン:君は俺に生きる望みをくれた。大地に根を張って暮らしたい。独りにはしない。頼むから行ってくれ。大丈夫 行くんだ。トニーの店で1時間後に会おう。愛してるよ・・・・/私もよ、レオン・・・・

そして、辛くも窮地を脱したレオンはSWAT隊員の振りをして、現場を脱出しようとします。
そのとき背後から、レオンに向けてスタンフィールドが銃撃します。
撃たれたレオンが、スタンフォードに手渡したのは、手榴弾の安全ピンです。
レオンとスタンフォードは共に爆発の中で息絶えます。

【意訳】
1分45秒より〜/レオン:スタンフォード/スタンフォード:何か御用が?/レオン:マチルダからのプレゼントだ/スタンフォード:クソ!


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『レオン』ラストシーン


ひとりぼっちになった彼女は寄宿学校に戻り、再び迎えてくれるよう頼みます。

【意訳】
マチルダ:両親が―4週間前、交通事故で死にました・・・・悲しかった/教師:知り合う間もなく、学校から逃げたわね。でも その過ちが何であれ・・・・・見捨てはしない。あなたを再び当校に迎え入れます。でも条件付きよ。ウソはつかないこと。私を信じて立ち直って。何があったの?/マチルダ:OK。家族が麻薬取締局に殺されて、私は逃げたわ町一番の殺し屋と一緒に・・・・・彼は今朝、殺された、私の命も危ない
(ドアを出るマチルダ。ドアの前の女子学生)女子学生:彼女 だれ?― 知らない
マチルダ:もう安心よ、レオン


愛を知らず、生きることに執着しないがゆえに、暗殺者として完璧だったレオン。
彼は愛を知り、生に執着するようになって、殺し屋としての能力を失います。

人を愛すると、人を殺せなくなるのだと個人的には思うのです。

そう思えば、一説にあるマチルダが成長した姿が「ニキータ」だというのは、個人的には認めたくありません。
当ブログレビュー:「ニキータ」


レオンの愛を知ってしまったマチルダは、すでに殺し屋として不適合者だと信じたいのです。
レオンが残したあの鉢植えの観葉植物を庭に植える姿は、この世にしっかりと根を下ろして生きる者の姿ですから・・・・・・・

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posted by ヒラヒ at 21:49| Comment(4) | TrackBack(0) | アメリカ映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
マイベストの一つです!
前に書きかけで出ていた記事ですね!
上手くまとめてらっしゃいますね(´∀`)
人を愛すると、人を殺せなくなる なるほどと思いました。
Posted by いごっそ612 at 2016年12月09日 22:08
こんばんは( ̄ー ̄)音楽が切ないですね。マチルダは学校に適応できるのでしょうか、、悲しいラストシーンでした。20位までには入ります(笑)
Posted by ともちん at 2016年12月09日 22:10
>ともちんさん
ありがとうございます(^^)レオンのアクションシーンやマチルダのキャラクターが秀逸ですよね。全体のデザインの良さが、作品価値を一段上げていると思いますm(__)m
Posted by ヒラヒ・S at 2016年12月09日 22:51
>いごっそ612さん
ありがとうございます(^^)どうも下書きの記事が勝手に上がっちゃう事があって、ご迷惑をお掛けしています。
この映画のフランスぽっさが個人的には魅力的です。
文章お褒め頂いて恐縮ですm(__)m
Posted by ヒラヒ・S at 2016年12月09日 22:56
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