評価:★★★★★ 5.0
昭和20年8月6日、午前8時15分、ヒロシマ上空。
ピカッと光りドンとなる。
そして人々の生活も、愛も、絆も、思いも、一人一人決して同じもののない命が一瞬のうちに失われる。
死者と生者・・・・・等しく持つ喪失。
亡くなった人々が残す万感の思い・・・・・
生き残った人々の永遠に取り戻せない平安・・・・・・
生き残った者が言う「私は幸せなっちゃいけんのじゃ」「生きとるのが申訳のうてならん」
霊は答える「なぜ生かされてるのか考えてみんしゃい」
<父と暮せばあらすじ>
1948年夏、広島。原爆によって目の前で父・竹造(原田芳雄)を亡くした美津江(宮沢りえ)は、自分も生きていてはいけないと思い、自らが幸せになることを許せない日々を送っていた。そんな彼女の前に、ある日竹造が現れ、美津江が気になる木下(浅野忠信)という青年との関係を進展させようと働きかける。なんだかだと言葉を変え翻意させようと努めるのだが、娘は自分は幸せに成ってはいけないと拒み続けるのだった。しかし、やがて美津江は父の本当の願いを知り、心を動かされ出す・・・・・・
(日本/2004年/99分/監督・黒木和雄/脚色・黒木和雄、池田眞也/原作・井上ひさし)
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父と暮せば感想
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父と暮せば感想
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この映画はヒロシマの原爆投下の悲劇を描きます。

戦争、また原爆投下という人類史上未曾有の特殊状況下ゆえに、その傷の深さは平時には到底想像しきれるものではありません・・・・・
しかしこの映画によって、間違いなくその喪失に伴う悲痛な苦しみの一端を知ることができると思います。
そんなことを思えば「生きとるんが申し訳なくてならん」という
言葉の重さが響きます。
あの日の広島では「死ぬのが当たり前で、生き残るのが異常だった」と言うセリフも、悲惨な災禍の状況を伝え突き刺さる言葉です。
その傷ついた魂が、いかに再生されうるか、救済されうるか、前を向きうるかを描き深い感動を呼びます。

長回しのカメラワークや舞台的な演技演出・・・・・井上ひさしの舞台脚本に敬意を表し、可能な限り「演劇」的な表現を黒木監
督は試みています。

そして途中途中に挟まれる、映画的なモンタージュや演出が、テーマ・情感の描写を補足し効果的です。

このシーンでは宮沢りえと浅野忠信の二人にたいしては、リアルな演出がなされています。
その対比により演劇的演出がなされた映画のパートが、ヒロインの内的葛藤であることをより鮮明にする効果が出ています。
しかしそれと同時に、このオリジナルシーンをリアルな演出にした事と、浅野忠信の存在にこそ、黒木監督のこの映画に込めた秘められた祈りが込められていると思うのです・・・・・・
たとえばこのヒロシマの悲劇は、アメリカの軍事力の行使によってもたらされました。
しかし同様の喪失の痛みを、旧日本軍も他国にもたらしたものです。
そして時代は下って、アメリカも9.11のテロによって同様の痛みを感じたでしょう。
これら歴史上で無数に繰り返された、繰り返される、この喪失の連鎖。
この連環を断ち切るには、自分たちが敵と憎む者達に対しても、理解と許しを持つことでのみ可能だと、この映画は語っているように思うのです。

黒木監督はその未来に対する希望を、浅野忠信という日本とアメリカの血を受けた俳優を恋人役に起用することで表現したと考えます。
ヒロインと恋人が結ばれる予感の内に、かつての敵同士がともに歩むこと、ともに許しあい新たな関係を築いていく姿を、未来に向けた伝言にしたのだと個人的には解釈しました。
いずれにしても・・・・・この映画で表現された、過去と現在の絶望から未来への希望への道は、負の感情を乗り越える道を示して感動的だと思いました。
すでに多くの戦争体験者が物故し、右翼的な言説が聞こえるにつれ、このような映画の存在が新たな争いの抑止力になるように祈って止みません。
<オバマ大統領の原爆ドーム演説>
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以降「父と暮せばネタバレ」を含みますので、ご注意下さい。
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========================================================実は娘は原爆投下の日、家の前で同時に被爆した「父」を見捨てて逃げた自分を許せなかったのです。
男で一つで育ててくれた父を死なせた自分が、幸せになるわけにはいかないという悲痛な思いだったのです。
原爆が落とされた日、父は自分を助けようと、そばを離れない娘を「親孝行したければ逃げろ」と言います。逃げないんだったら「自分で死ぬ」と言います。
そして、こんな酷い死が、こんな酷い別れが、一万もあったと言う証人としてお前は生かされてるんだと父は血を吐くように言うのでした。
そして、俺の孫を生んでくれと、この事実を伝える命を継承してくれと娘に頼むのです・・・・・
娘は、それを聞いて自らが生きていく意義を見出し「おとったんありがとありました」と言うのでした。========================================================
父と暮せばラストシーン
========================================================この映画のラストシーンは廃墟となった原爆ドームを映し出し、その廃墟・瓦礫の中に可憐に咲く二つの花を捕らえて終わります。
この描写は、どれほど破壊されたとしても、この戦争の惨禍を二度と繰り返さないというメッセージを乗せて、命は継続し続けるという希望でこの映画を終えているように思います。
それは、喪われた魂の代表として父が言う「生き残った者は生き残った理由がある」という言葉は、原爆や戦争で死んでいった者達の真情だと思います。そんな生きたいのに死んでいかざるを得なかった人々の分まで、今、生を受けてる者が有意義に生き得ているでしょうか?
戦後半世紀を過ぎた今、再び問い直すべきだろうと思いました。黒木和夫監督戦争レクイエム4部作予告
黒木和夫監督は戦争時、旧制の中学生で勤労動員で空襲を受け、すぐ傍にいた友人が死に、その友を助けず夢中で逃げたことに自責の念を持っていたと言います。そんな戦争の悲惨な経験が反戦映画の魂として結実しているように思います
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有難うございますm(__)m芸だっ者が迫真の演技で圧倒されます。見て損は無いかと・・・・・
これはぜひ観てみたいです。
ありがとうございます(^^)これは、まじめな、重厚な作品で、観ていて圧倒されます。たった二人が作り出すドラマなのに。スゴイですm(__)m