2016年12月03日

『羅生門』真実を問う黒澤映画の傑作/解説・あらすじ・ネタバレ・ラスト感想

黒沢の法廷劇!見てない人がうらやましい!!



評価:★★★★★ 5.0

黒澤明の傑作法廷劇!!!
その後リメークが何度作られようと、この作品の圧倒的な描写力に比べれば足元にも及ばない。
同時にこの映画は、間違いなく高い娯楽性を持っている。
羅生門あらすじ
長い戦乱と疫病の流行に天災で、荒れ果てた平安時代の京の都。雨やどりに羅生門に下人(上田吉二郎)が駆け込むと、そこに杣売り(志村喬)と旅法師(千秋実)が疲れ果てて座り込んでいた。下人は二人から奇妙な殺人事件の裁判の顛末を聞く・・・・・・
盗賊・多襄丸(三船敏郎)は、森の中で通りかかった侍夫婦を獲物と定め、夫(森雅之)を縛り目の前で妻(京マチ子)を強姦する。そして、現場には夫の死体が残され、妻と盗賊は消えていた。この殺人事件の裁きが始まり、目撃者の杣売と旅法師、当事者の捕らえられた盗賊(三船敏郎)と侍の妻(京マチ子)、更には死んだ侍の霊まで呼び出し証言させた。ところが事件の真相は、盗賊と侍の妻と侍の三者の証言がくい違い、各々が自らを擁護し、プライドを守ろうとし、結局どれが真実なのか不明瞭なまま。それを聞き終えた下人は、その事件にはまだ隠された事実があるはずだと指摘する・・・・

(日本/1950年/88分/監督・黒澤明/脚本・黒澤明、橋本忍/原作・芥川龍之介)
羅生門受賞歴第12回ヴェネチア映画祭グランプリ、第24回アカデミー賞外国語映画賞 、1951年ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞、
羅生門出演者三船敏郎:多襄丸/森雅之:金沢武弘/京マチ子:金沢の妻・真砂/志村喬:杣売り/千秋実:旅法師/上田吉二郎:下人/加東大介:旅免/本間文子:巫女

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羅生門感想
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このドラマはテーマ的な要素よりも、まずその娯楽性に注目したい。
この映画の娯楽性は、法廷劇なら必ず持つ要素によっている。 
rasyou-coat-mifune.jpgすなわち、法廷における当事者の利害の対立だ。
この映画では、事件に関わる3人の供述が喰い違い、利害関係が相反する。
この時、お互いの主張が対立すればするほど、ドラマとしての強さは増し、観客の興味を惹く誘引力として作用するだろう。

そのために黒沢は、再現フィルムを持ち込み一人一人の供述を唯一絶対の真実のように描くことに力を注いだ。それは、証人の言葉が真実として響けば響くほど、相互の対立が深く強くなるのを計算してのことだ。

mibu-katinko.jpg
また同時に黒澤は、ここで当時の映画の約束事「再現シーンの無謬性」を覆した。
つまり、「羅生門」以前のフラッシュバックは、事実を語るものだという映画的な約束事を無視して、再現シーンで真実か否か曖昧な事実を語って見せた。
それゆえ、公開当時の観客からすれば尚更、再現シーンに信憑性を感じたと想像される。


結果として、見る側はある者の供述を見せられる内に、その供述者に感情移入をしてしまう。
感情移入をした結果、その者と精神的に「同化=同情」せざるを得ない。

それゆえ、一人の供述が終わった時点でその人物を信じている観客は、次の証人の供述が終わったときには、前の供述者を信じた自分と今の供述者を信じている自分を抱えて、混乱し途方にくれざるを得ない。
 
Rashomon-pos.jpg
そして、最終的には映画の中の登場人物を疑うのと同時に、観客自身が自分の信じたものは何だったのかと反問することになる。
 
ついには「真実=自分が真に信じられる事実」の存在を疑わざるを得なくなるであろう。

以上の帰結として、法廷劇で必ず必要とされる「真実」という結果
(それは往々にしてそのままドラマのテーマになるものだが)は存
在しないという、法的劇自体を否定するドラマとなった。
 
そして、見る者は考えざるを得まい。

裁きとは何なのかと。

tokyosaiban.jpg

この映画が撮られた1950年は、第二次世界対戦が終わって5年が経過している。
1948年12月のA級戦犯の絞首刑を持って「東京裁判」はほぼ結審を迎えるが、まだまだ世相は戦後の混乱の真っ只中にあって、この日本の悲劇をもたらした真実がなんだったのかという、「苦い問い」がこの映画にあると思うのである。

さらに突き詰めれば、ついには「東京裁判」「ニュールンベルグ裁判」等、戦争犯罪を裁いた法廷、ひいてはその裁判を元にして成立しようとしている戦後民主主義体制自体が、真実なのかという問いとして、突きつけられるであろう。

kurosawa.jpg
いずれにしても黒沢は娯楽性を高める事で、同時に真実とは正義とは何なのかという重いテーマをドラマとして昇華する事に成功し、更に、物語の娯楽性とテーマ両方の価値を高めるという、希有の成功を収めたのである。

 
やはり、すべてが完璧な一作と思う。
 
ちなみに、この映画はすでに映画史に残る傑作として各所で高い評価を受けている。
2012年:「映画批評家が選ぶベストテン」第26位(英国映画協会選出「映画史上最高の作品ベストテン」)
2012年:「映画監督が選ぶベストテン」第18位(英国映画協会選出「映画史上最高の作品ベストテン」)
2000年:「20世紀の映画リスト」第10位(米『ヴィレッジ・ヴォイス』紙発表)
2010年:「史上最高の外国語映画100本」第22位(英『エンパイア』誌発表)
2010年:「エッセンシャル100」第14位(トロント国際映画祭発表)

などなど

しかし批評家がどう評価しようと、何が真実なのかは「藪の中」である。
自らしっかり確かめようというのがこの映画のメッセージではなかったか?
ぜひ、ご自分の眼でご確認下さい。

あ〜まだ見てない人は、この映画をこれから楽しめるんですね・・・・・・・ホントウに羨ましい

【休憩タイム】黒澤明 1990年アカデミー名誉賞受賞シーン
スピルバーグとルーカスがホントに憧れの視線で見ているのが印象的。
ハッピーバースディーの歌は、何度見ても感動的です・・・・・


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以降「ネタバレ」と「ラスト」を含みますので、ご注意下さい。
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実はこの映画で、事件の真相は明かされない。
それは、この世に「絶対の真実などないではないか」と問う映画であれば、当然の帰結だったはずだ。

しかし、唯一つ明瞭な悪が語られる。

rasyou-simura.pngこの映画の最後で、話を聞き終えた下人が羅生門に捨てられた赤ん坊の産着を剥ぎ取る。

それを咎める杣売りに対し、下人は事件現場から紛失した短刀がどうなった、それを盗めるのは杣売りしかいないではないかと責める。
杣売りは力なくうなだれ、盗んだことを無言の内に認めます。

そして、以下のラストへとつながるのだ・・・・・・・

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羅生門ラストシーン
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このラストシーンには、誰も信じられない、何が正義なのか分からない、混乱した終戦直後の日本の現状が志村喬の口を通じ「今日という日は誰も信じられない」という言葉で表されていただろう。

しかし同時に、それでも、人を信じて歩むしかないという希望が描かれているように思える・・・・


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posted by ヒラヒ at 18:12| Comment(5) | TrackBack(0) | 日本映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんばんは(ФωФ)あの三船美佳さんのお父さん(笑)元夫はモラハラの人(笑)すみません🙋いい作品がだいなし😅白黒は好きですね😃
Posted by ともちん at 2016年12月03日 18:38
>ともちんさん
ありがとうございます(^^)そう、美佳さんがあんなに大きくなってるんですから、この映画の古さが分かろうというもので・・・・・もう、66年前って、傘寿ってやつでしたか?
Posted by ヒラヒ・S at 2016年12月03日 19:12
おおっと名作きましたね★5でさすが黒澤監督というところでしょうか?無論未見ですが、観なければならない作品ですね(´∀`)
Posted by いごっそ612 at 2016年12月03日 20:00
なんかコメントが上手くできなかったので二度うちになるかも?
黒澤監督の名作きましたね、★5ということでさすがの出来栄えですね!無論未見ですが観なければならない作品だと思いました。
Posted by いごっそ612 at 2016年12月03日 20:03
>いごっそ612さん
スイマセン御迷惑おかけしましたm(__)m
古い映画ですが、古典映画の一本ということで、ご紹介です。
娯楽色の強い作品だと個人的には思います(^^)
Posted by ヒラヒ・S at 2016年12月03日 21:13
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