評価:★★★★ 4.0点
これは、恋愛映画だと思っていました。
好きな相手と、親の反対を押し切って結ばれる、純粋な愛の物語だと感動したものです・・・・・が
<卒業あらすじ>
ベンジャミン(ダスティン・ホフマン)は優秀な成績で大学を卒業し町に戻ってきた。そんなベンジャミンを両親は盛大なパーティーで迎えた。ベンジャミンはその騒ぎについて行けず、部屋に逃げこんだ。そんなベンジャミンにロビンソン夫人(アン・バンクロフト)が声をかけ、家まで送らせる。家に上がるようにベンジャミンを誘うと、ロビンソン婦人は裸になって彼を誘惑した。そのときロビンソン氏が帰宅し、その日は別れた。
しかし数日後、ベンジャミンは自分の方からデートを申し込み、二人は頻繁にホテルで密会するようになる。しかし、ロビンソンの娘エレーヌ(キャサリン・ロス)が学校の休暇で帰省して、両親により無理矢理エレーヌとつき合わされたベンジャミンは、徐々に彼女を愛するようになった。ロビンソン夫人は、ベンジャミンと娘がつき合ったら、不倫関係を暴露すると脅迫した。しかしベンジャミンはあきらめず、ロビンソン夫人はベンジャミンから無理やり関係を迫られたと、娘に告げる。
ショックを受けたエレーヌは、新学期の始まった学校へ戻った。ベンジャミンはエレーヌ追い、大学の町まで追いかけたが、そこはロビンソン夫妻が娘と結婚させようとしているカールという青年がいた。ベンジャミンの必死の説得も甲斐なく、そのエレーヌとカールの結婚式が挙行されることになった・・・・・・・・
(アメリカ/1967年/106分/監督マイク・ニコルズ/脚色カルダー・ウィリンガム,バック・ヘンリー)
1967年アカデミー監督賞にマイク・ニコルズ
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『卒業』感想・解説 |
最初見たとき、この映画は大人達の支配下にあった青年と娘が、自らの意思によって愛を貫く美しい物語だと思っていました。
そのドラマは、ダスティン・ホフマンの力いっぱいの演技や、キャサリン・ロスの可憐な姿でより鮮烈に表現されたと思います。
特に、この映画は1967年映画デビューしたダスティン・ホフマンにとっての映画2作目で、出世作です。
【ダスティン・ホフマン】
ダスティン・ホフマン(Dustin Hoffman, 本名: Dustin Lee Hoffman, 1937年8月8日 – )は、アメリカ合衆国の俳優。身長165cm。
カリフォルニア州ロサンゼルスにてセールスマンの父の元に生まれる。ウクライナからのユダヤ系の血とルーマニアからのユダヤ系の血を引いている。ロサンゼルス高校卒業。
ジーン・ハックマンと共にパサデナ劇場で二年間演じた。また彼らはしばらくの間ルームメイトだった。
1960年にはオフ・ブロードウェイで初舞台を踏み、1961年にブロードウェイで初舞台を踏んだ。その後リー・ストラスバーグのアクターズ・スタジオで学び、『The Tiger Makes Out』(1967年)で映画デビューを果たした。
彼の名声は『卒業』(1967年)での不満を抱く大学生役で高まった。同作の演技でアカデミー主演男優賞ノミネートを受け、また『真夜中のカーボーイ』でもノミネートされた。アカデミー賞を受賞した『クレイマー、クレイマー』(1979年)や『レインマン』(1988年)といった作品から完璧主義者として知られており、それは時にスタッフ間との確執を生み、制作困難を引き起こすこともあった。
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また映画全編にわたり流れる、サイモン&ガーファンクルの曲も、その愛の美しさを際立たせます。
サイモン&ガーファンクル(Simon & Garfunkel, サイモンとガーファンクル)は、1960年代に活躍した、ユダヤ系アメリカ人のポール・サイモンとアート・ガーファンクルによるポピュラー音楽ユニット。
1964年にデビュー、1970年に活動停止。しかし、それ以後も折に触れて2人で活動している。1990年にロックの殿堂入りを果たした。
「ローリング・ストーンの選ぶ歴史上最も偉大な100組のアーティスト」において第40位。(Wikipediaより)
卒業の挿入歌、サイモン&ガーファンクル「スカボローフェア」
しかし、久しぶりに見たら恋愛映画というには、ずいぶん違和感があると気が付きました。
まず押さえるべきは、この映画は主人公が大学から帰ってきた最初のシーンから、大人に望まない事を強要されるという、主人公の若者が大人に抑圧される物語だという事です。
それは主人公の親が息子のパーティーを無理やり開いて、主人公がウンザリしているところから明瞭です。
卒業祝いのパーティーシーン
大人社会に取り込まれようとする青年の戸惑いと逡巡が表現されたシーン
実は主人公も、親から車をもらったり、ミセス・ロビンソンとデートを楽しんだりと、大人達に素直に従っていればいろいろと「ご褒美」をもらえるわけです。
卒業の挿入歌、サイモン&ガーファンクル「ミセス・ロビンソン」
しかしそんな完全に大人の支配下にある若者が、本当に愛する者を手に入れようとする時、大人達や社会の厳しい壁が立ちふさがります。
そんなこんなでこの映画は「若者」が「大人=社会」抵抗する姿こそ、本質だと感じました。
さらに、想像をたくましくすれば、この映画の製作年代とは「ベトナム戦争」の真っ只中です。
徴兵制を敷いていたアメリカ国内では、若者を中心に反戦運動が高まりを見せていきます。
「ベトナム戦争とアメリカ」まとめ
第二次世界大戦後、北部にホー・チ・ミン率いるベトナム独立同盟がベトナム民主共和国を樹立し独立し、南部ベトナムは、ベトナム共和国を建国し対抗した。北ベトナムはソ連・共産主義が後ろ盾となっており、北ベトナムの勝利はドミノ倒しのように世界の共産化が進行すると恐れたアメリカ資本主義陣営は、南ベトナムを援助し「東西冷戦」の代理戦争だった。
1961年アメリカの大統領ジョン・F・ケネディが南ベトナムに4000名の部隊を派遣。
1964年トンキン湾事件を機にアメリカは直接介入。
アメリカ大統領は、ケネディが暗殺されジョンソンに。
1965年アメリカ南ベトナムに軍隊を派遣し、北ベトナムに爆撃攻撃「北爆」実施、255万トンの爆弾を投下。
以降アメリカ軍は最大時54万の兵力を投入するが、ジャングル内のゲリラ戦で泥沼化。アメリカ本国にてベトナム反戦運動が高まり、ベトナムからアメリカは撤退し事実上の敗北を喫する。
1975年4月30日、南ベトナムの大統領官邸は南ベトナム開放民族戦線によって占領、ベトナム戦争は終結。
そんな社会の情勢を反映して、大人の言うとおりに戦争に行って良いのかというメッセージが、はっきり伝わるような気がします。
それは、主人公の誕生日に送られたプレゼントが、まるで戦闘服に銃を持ったような潜水服だったことで明瞭だと思います。
またこの、戦闘服のイメージは別の所にも・・・・
そう思えば、このテーマ曲「サウンド・オブ・サイレンス」の歌詞が実に意味深です。
この曲も、ベトナム戦争に対して沈黙している人々に対して、訴える反戦の歌詞であると解釈しています。
サイモン&ガーファンクルの歌う「サウンド・オブ・サイレンス」
下の一節の歌詞は「沈黙の大衆」に対する、糾弾に聞こえないでしょうか。
And in the naked light I saw(剥き出しの光の中で僕は見る)
Ten thousand people, maybe more.(1万人、それ以上の人々を)
People talking without speaking,(人々は言葉なく話し)
People hearing without listening,(人々は聴く事なく聞き)
People writing songs that voices never share(人々は皆が一緒に歌わない歌を書いていた)
And no one dared(そして誰も反抗しない)
Disturb the sound of silence.(沈黙の音が邪魔をする)
"Fools" said I, "You do not know(『馬鹿者達』僕は言った『分からないのか』
Silence like a cancer grows.(『沈黙は悪化する癌だ』)
Hear my words that I might teach you,(『君達に告げる事がある、僕の言葉を聞け』)
Take my arms that I might reach you."(『君達に届ける、僕の武器を取れ』)
But my words like silent raindrops fell,(しかし僕の言葉は沈黙の雨粒の様に落ち)
And echoed(反響した)
In the wells of silence(沈黙の井戸の中で)
結局、この映画は全編「ベトナム戦争」に対する、反戦メッセージーに満ちていると思います。
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以降
「卒業ネタバレ」「ラストシーン」
を含みますので、ご注意下さい。========================================================
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つまり、この映画のラストで愛する彼女を我が物とするために、十字架を振るって戦う姿は神に背いても、自らの信念のために闘うのだという宣言だったでしょう。
教会からエレーンを奪い去るシーン
この上のシーンだけであれば、この若い二人は勝利を収めたように見えます。
しかしこのあとに続くシークエンスは、当時のアメリカ社会の縮図を表現しているように思います。
反抗しては見たものの、そんな反抗をして社会からどう見られるのかという不安が、ラストのバスの車内での情景に明確に出ているように思います。
エンディング・シーン
不審な目で見る「乗客=世間」の中で、居心地悪そうな二人の表情を見ると、反抗しても従っても将来が不安だという心理を象徴していたでしょう。
それはやはり、当時のアメリカの若者達の心情と、アメリカの社会情勢を表わしていると思いました。
しかし、正面から「反戦」を語りえなかった弱さと逡巡にたいして、評価をマイナスさせていただきました。
あれ、恋愛ドラマの方が美しいな・・・・逆に女性目線から見て玉座を捨てたシンデレラという解釈でお願いします。
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申し訳ないですが未見です。でも良い映画の様ですね。
観てみたいです。
良い意味でも悪い意味でもニューシネマ的な映画な気がします。考えてみるとトンデモ映画だったと今では思っております。
ありがとうございます(⌒‐⌒)私も、アメリカン・ニューシネマを代表する一本だと思います。個人的にはイージーライダーや俺たちに明日はないよりも、映画的に洗練されているように思うのですが・・・・・
ありがとうございます(^^)重箱の隅をほじくってみました・・・・・恋愛ドラマとしても、駆け落ちの快感?がある映画でした・・・・しかし、ダスティンホフマンのデビュー作ですから、古い映画です(ToT)
ありがとうございます(^^)ちょっと回りの大人が怪物的ですよね(^^;
好きな人を、結婚式場から連れ出す、初めての映画でした。
駆け落ちのパイオニア映画?