原題 Prizzi's Honor 製作国 アメリカ 製作年 1985年 上映時間 130分 監督ジョン・ヒューストン 脚本リチャード・コンドン,ジャネット・ローチ |
評価:★★★ 3.0点
この映画を2度見ても、正直、オモシロイと私は感じませんでした。
ま〜〜標準作かなという事で、星三つです。
しかし、どこか釈然としないというか腑に落ちないところがあり、その違和感を追及してみました・・・・

<目次> |

映画『女と男の名誉』簡単あらすじ |
マフィアのプリッツィ家は、ドン・コラード(ウィリアム・ヒッキー)、ドンの長男ドミニク(リー・リチャードソン)、次男エドアルド(ロバート・ロッジア)、相談役のパルテナ(ジョン・ランドルフ)、パルテナの息子でヒットマンのチャーリー(ジャック・ニコルソン)を主要メンバーとして、ニューヨークのブルックリンを縄張りとしていた。ある日ファミリーの結婚式で、チャーリーはアイリーン(キャスリーン・ターナー)という女性に一目ぼれする。そんなチャーリーが、ファミリーの金72万ドルを持ち逃げしたヘラーを、始末せよという命令が入る。そこにはヘラーの妻としてアイリーンがおり、金は半分なくなっていた。しかしアイリーンに惚れ込んだチャーリーは、アイリーンの言い訳を信じて結婚をしたのだが・・・・・・実はアイリーンも闇社会に身を置く者だった。72万ドルの行方と、マフィアの掟、さらにドンの娘メイローズ(アンジェリカ・ヒューストン)も絡み、チャーリーの運命は思わぬ方向に転がるのだった・・・・・・・

映画『女と男の名誉』予告 |
映画『女と男の名誉』出演者 |
チャーリー・パルタンナ(ジャック・ニコルソン)/アイリーン・ウォーカー(キャスリーン・ターナー/エドアルド・プリッツィ(ロバート・ロッジア)/アンジェロ・"パパ"・パルタンナ(ジョン・ランドルフ)/コラード・プリッツィ( ウィリアム・ヒッキー)/ドミニク・プリッツィ(リー・リチャードソン)/ロザリオ・フェラージ(マイケル・ロンバード)/メイローズ・プリッツィ(アンジェリカ・ヒューストン)/プランバー(ジョージ・サントピエトロ)/ハンレー警部補(ローレンス・ティアニー)/ピーチズ・アルタモント(CCH・パウンダー)/メイローズのメイド(CCH・パウンダー)/マークシー・ヘラー(ジョセフ・ラスキン)/兵隊(スタンリー・トゥッチ)

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映画『女と男の名誉』感想 |
一つには、公開当時の賞レースに、受賞も含め軒並みノミネートしている事。
また、大物俳優ジャック・ニコルソンがこの程度の脚本で出演している事。
個人的な印象としては「軽いコント」に、とんでもない役者が出て、作品の実態よりも大きな評価を得ているという気がしてなりません。
もちろん、イヤイヤそんな事はない、これは十分面白いという人はぜひ「アナライズ・ミー」や「ドン・サバティーニ」「隣のヒットマン」なんて、マフィア・ギャング・コメディと比べてみて下さい。
この映画がコメディーと言えるのかという事にすら疑問を持ちます。
実際この映画は、評論家評価は高かった割には、興行収入はさっぱり伸びず、1,600万ドルの予算に対して、わずか2,600万ドルの収益でした。この数字は、広告費やもろもろを考えると、トントンか悪くすれば赤字というレベルです。
さらにアメリカ映画サイト「ロッテントマト」を見ても、観客の支持は62%に対し、批評家の評価は86%と高くなっています・・・・

で、話は元に戻って、なぜこの映画が高評価なのか・・・・私には分かりません・・・
原因を求めて、ひとつ発見したのは、監督がジョン・ヒューストンだという事です。
ジョン・ヒューストンといえば、ハリウッドの映画史を作ってきた監督と言っても過言ではないでしょう。
ジョン・ヒューストン(John Huston, 本名: John Marcellus Huston, 1906年8月5日 - 1987年8月28日)は、アメリカ合衆国の映画監督・脚本家・俳優。
父親は俳優のウォルター・ヒューストン。ミズーリ州にて俳優一家に生まれ、3歳の時から舞台に立つ。ティーンエイジャーの頃はボクシングに熱中し、その後各地を放浪して様々な職業に就いた。
後にハリウッドに落ち着いて脚本を書くようになり、『モルグ街の殺人』や『黒蘭の女』などの脚本を手がけて実績を積んだ後、1941年にハンフリー・ボガート主演の『マルタの鷹』で監督としてデビューした。(wikipediaより引用)
またこの人は、ホント豪快な、ほとんど禁治産者かと疑われるぐらいの、強烈な個性の持ち主だったらしく、そこらへんをクリント・イーストウッド監督が映画にしています。
アメリカ映画:1990年 『ホワイトハンター ブラックハート』 クリント・イーストウッド監督・主演で描く、伝説の監督ジョン・ヒューストン 映画『アフリカの女王』の舞台裏で起きていた騒動とは? |
いずれにしても、日本でいえば「クロサワ」のような、ビッグネームです。
この映画の公開が1985年ですから、この当時79歳。

こんな名匠の映画に出られるチャンスがあるとなれば、ジャック・ニコルソンといわず誰もが出演を望むのではないでしょうか。
さらに言えば、この映画の後何本映画を撮れるかと考えて、実際これが遺作になったことを思えば、「今でショ!」という事になろうかと思います。
そして、この「生ける伝説」に対して、アメリカ映画界全体が報いようという気持ちが在っても、何ら不思議はありません。
それがアカデミー賞ノミネートという形で提示されたということだと想像します。
そんなこの監督に対する敬意が、この映画『女と男の名誉』がノミネートされた、58回アカデミー賞で現れています。
その作品賞のプレゼンターとして、彼が登場した時のスタンディング・オベイションにアメリカ映画界の賞賛を感じ、胸が熱くなるものがあります。
第58回アカデミー賞・最優秀作品賞スピーチ |
司会者はジェーン・フォンダ、アラン・アイダ、ロビン・ウィリアムス。
ジェーン・フォンダが、最も価値のある最優秀映画賞のカテゴリーまで来た。我々は幸運なことに最も偉大な三人の映像作家を紹介します。アラン・アイダがジョン・ヒューストン、ビリー・ワイルダー、ジェーンフォンダが黒澤明と3人のプレゼンターを呼び込む。
三人は握手してノミネート者を紹介。
『カラーパープル』/『蜘蛛女のキス』 /『愛と哀しみの果て』/『女と男の名誉』/『刑事ジョン・ブック 目撃者』
ビリーワイルダーが受賞者名の入った封筒を求め、黒澤が開封する。受賞者カードをジョン・ヒューストンの指示でビリー・ワイルダーへ。
受賞者は『愛と哀しみの果て』
【『愛と哀しみの果て』プロデューサー、シドニー・ポラック受賞スピーチ・意訳】
我々すべてにとって素晴らしい夜です。他に何を言えばいいのかわからないけど、大変感謝しています。そして、もし私が前(監督賞受賞時の感謝)に誰かを言い洩らしていたら、それはすべてプレッシャーのせいだったと、ご理解いただけると願っています。本当にありがとう。皆さん、ありがとうございました。
しかしこのシーンで思うのは、アメリカ映画界のその懐の深さであり、改めて凄いところだと感じます。
ジョン・ヒューストンがアイルランド系で、ビリー・ワイルダーがドイツからの移民であり、黒澤はアジアの異邦人で、さらに作品賞を受賞したシドニー・ポラックはウクライナから移民したユダヤ系のアメリカ人です。
その多様性が、アメリカ映画界を支えているのだと思います・・・例えば、以下のレジェンド3人の作品を見れば、多様性がいかに映画を豊穣にするかがわかるかと思います。
アメリカ映画:1960年 『許されざる者』 オードリー・ヘップバーンの異色西部劇 巨匠ジョン・ヒューストン監督の描く西部劇の懺悔 |
アメリカ映画:1962年 『7年目の浮気』 マリリン・モンロー「ロリータ巨乳」伝説 浮気な男の前に現れた天使のようなグラマー |
日本映画:1954年 『七人の侍』 映画史に永遠に刻まれた日本映画 黒沢映画の時代劇と西部劇との関係? |
話が横道に逸れました―
いずれにしても、アメリカ映画界のレジェンドに対する敬意表明だと思えば、この映画に対する評価というのは、監督ジョン・ヒューストンの名声と相まって形成されたものであり、映画の作品的価値とはちょっと離れた部分で与えられたようにも思えます。

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映画『女と男の名誉』映画祭・受賞歴 |
私個人の評価はどうであれ、この映画は評論家や映画賞で高い評価を受けています。
アカデミー賞
助演女優賞アンジェリカ・ヒューストン受賞:(以下ノミネート)作品賞/監督賞ジョン・ヒューストン/主演男優賞ジャック・ニコルソン/助演男優賞ウィリアム・ヒッキー/脚色賞/編集賞/衣裳デザイン賞
ゴールデングローブ賞
受賞:作品賞 (ミュージカル・コメディ部門)/監督賞ジョン・ヒューストン/主演男優賞 (ミュージカル・コメディ部門)ジャック・ニコルソン/主演女優賞 (ミュージカル・コメディ部門)キャスリーン・ターナー:(以下ノミネート)脚本賞/助演女優賞アンジェリカ・ヒューストン
ニューヨーク映画批評家協会賞
受賞:監督賞ジョン・ヒューストン/主演男優賞ジャック・ニコルソン/助演女優賞アンジェリカ・ヒューストン
ロサンゼルス映画批評家協会賞
受賞:助演女優賞アンジェリカ・ヒューストン
全米映画批評家協会賞
受賞:監督賞ジョン・ヒューストン/主演男優賞ジャック・ニコルソン/助演女優賞アンジェリカ・ヒューストン
ボストン映画批評家協会賞
受賞:英語映画賞/監督賞ジョン・ヒューストン/主演男優賞ジャック・ニコルソン/助演女優賞アンジェリカ・ヒューストン
第58回アカデミー賞・助演女優賞スピーチ |
プレゼンターはマーシャ・メイソン、リチャード・ドレイファス。
ノミネート者を紹介。
マーガレット・エイヴリー(カラーパープル)/アンジェリカ・ヒューストン(女と男の名誉)/エイミー・マディガン(燃えてふたたび)/メグ・ティリー(アグネス)/オプラ・ウィンフリー(カラーパープル)
受賞者はアンジェリカ・ヒューストン。
【アンジェリカ・ヒューストン受賞スピーチ・意訳】
アカデミーのメンバーに、私の仲間の候補者と、私を称えてくれたことに感謝します。これは、私が父から指示された役割から来ているので、私にとって大きな意味があり、彼にとっても大きな意味があると、私には分かっています。また、『女と男の名誉』の出演者とスタッフ全員に感謝します。私は名前を言おうとは思いません。皆さんは自分が何者か知っています。そして、私の友人たち、彼らの愛と支援、そして私の守護天使、特にブルース・ワイントロープと、私の亡くなった教師のペギー・フィーリーに。有難うございました。
関連レビュー:アメリカ映画界の歴史アカデミー賞紹介 『アカデミー賞・歴代受賞年表』 栄光のアカデミー賞:作品賞・監督賞・男優賞・女優賞 授賞式の動画と作品解説のリンクがあります。 | ![]() |
ここまで高い評価を受けている本作品・・・・・・私を含め、観客には一見分からないスゴイ価値が潜んでいるのでしょうか・・・・・?

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映画『女と男の名誉』考察反マフィアの主張? |
ただこう書いてきてナンですが、この映画の公開された1985年が気になって来ました・・・・・
もしかすると、不確かなのですが、マフィアを題材にしたコメディー映画の「オリジナル=原型」となった一本なのかなと・・・・・・
当時は「ゴッド・ファーザー」によって確立した、重厚でシリアスな、家族の愛と苦闘の物語としての「マフィア組織=ファミリー」のイメージを世間が共有していた時です。
関連レビュー:コッポラ監督の古典的マフィア映画
映画『ゴッドファーザー』
イタリア・マフィアの闘いを描く古典的傑作!
イタリア系移民の苦闘と家長の行方とは?
そのイメージを打ち崩す「マフィア・コメディ」映画を世に問う事は、なかなか困難な挑戦だったようにも思うのです。
しかし、だからこそ、ここに老いた巨匠の反骨精神を感じるのです。
ジョン・ヒューストンはアイルランド系アメリカ人です。

その頑固さは、例えば『ミリオン・ダラー・ベイビー』の悲劇的な物語を支える、頑なさとして存在すると思います。
アメリカ映画:2004年 『ミリオンダラーベイビー』 クリント・イーストウッド監督のオスカー受賞作 女性ボクサーの栄光と生命の尊厳 |
アイルランド系移民もイタリア系移民同様、アメリカに移住した際には、差別もあり苦労が絶えなかったといいます。
しかしイタリア系移民が非合法な犯罪に走ったとしても、アイルランド系移民は逆に命を懸けて正義を守る、警官や消防士という職業に就いたのです。
そんなアイルランド系アメリカ人から見れば「ゴッド・ファーザー」以後の、犯罪組織を称揚するような、暴力礼賛とでもとれる世間の風潮が我慢ならなかったんだと思うのです。

それゆえ、この映画の中では「マフィア」を「金のためなら自分の子供でも食らう」、「亭主と女房で殺しあう」ような反倫理的な人間だと描き、その行動を茶化すように「笑い」に変えています。
そう思えば、これは組織暴力団に昂然と戦うという「老将」の決意表明だったのかもしれません。
そういう気合が、原題の「Prizzi's Honor」という題に現れているように思います。
このタイトル「プリッツイ一家の名誉」とは「金」だけなのだと、この映画は力説してくれます。
しかし「反マフィア」の直截な糾弾の姿勢と、笑いとの、映画的なバランスが今一つだと感じられるので、個人的な評価は頑固が信条のアイルランド系の監督に敬意を表し、カタクなに★三つとさせていただきます。
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1.0や2.0の時もあるのですか?
けっこう当たりばっかみてるので羨ましいです。
自分結構ハズレ引きますので〜(^_^;)
ありがとうございます(^^)言われてみれば、1や2は文句を書くしかないですが、よっぽど間違ってるとでも思わないと、文句を言うより無視しちゃうかもしれません(^_^;)
お笑いマフイアのお勧めは、デニーロの「アナライズミー」です。もう見てますね、キット(^^)
作家論で作品を読み解くのもまた違った側面が見えることがあって面白いですけど出来上がったものは出来上がったもの、作品に対する厳しい姿勢を垣間見たレビューでありました
コメントありがとうございます。
>やっぱり作品はテキスト分析ですね
仰るとおりだとおもいます。テキストとして表れてくるもの以外は、作者のコメントも含め、全て雑音だと思い定めております・・・
徹底できない時もありますが(^^;