2016年11月06日

新海誠『言の葉の庭』現実より美しいアニメの力/あらすじ・感想・ネタバレ・解説

新海誠のリアリズム


評価:★★★    3.0点

この作品では現実世界で起こる、リアルで日常的な恋を描いています。
この現実的な恋愛物語を、アニメーションとして表現する必要があったのかとも思うのですが・・・・
言の葉の庭あらすじ
高校1年生のタカオ(声:入野自由)は、母と兄の三人暮らしだが、兄が同棲を始めるというので母は怒って若い恋人のもとに走る。子供の頃から奔放な母になれている兄弟は、それでも淡々と生活を続けている。
そんなタカオは雨になると午前中は学校をさぼり、新宿の公園で将来の靴職人の夢に向かって、靴のデザインを描ている。その公園のベンチにある日一人の女性が、缶ビールを飲みチョコを食べていた。ユキノ(声:花澤香菜)というその女性も、雨の日には公園に来ており、二人は徐々に雨の日を待つようになっていく。実はユキノは精神的に追い詰められ、ビールとチョコの味しかわからないほどの状態だった。タカオは彼女に好意を抱き、彼女が歩きたくなるような靴を作りたいと思うようになる。しかし、梅雨が明け二人が会う機会が減って行く・・・・・・

(日本/2013年/46分/監督・脚本・原作、新海誠/主題歌・秦基博「Rain」)

このアニメで語られているのは、現実的な恋愛と書きましたが、「恋愛ドラマ」として見てみれば正直言って平均的な「劇」でしかないと感じます・・・・・・・・・・・・
しかし、それでもこの映画は見るべき価値があると思うのは、そのアニメの表現力の高さゆえです。

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以降ネタバレがありますご注意下さい

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この主人公タカオは、作中ではアッサリと描かれますが、実は母が兄にばかり愛情を注ぎ、そこはかとなく孤独を感じながら生きてきました。
そんな彼が、女性用の靴を作ろうとしたり、料理が得意だったりするのは、ある種の母性に対する憧憬のようにも思えます。
そんな欠落ゆえに、学校をサボる事になるのでしょう。

ヒロインのユキノにとっては状況はもっと悲惨です。
タカオの通う高校の「古文」の教師である彼女は、生徒のイジメの対象になり精神的に追い詰められ、学校にも行けず、助けてくれる者もなく、どうしようもなく公園で朝からビールを飲んでいるのです。
そんな孤独な二人が出会い、それと知らず、生徒と教師の恋が始まるのです。

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そこには、孤独な者同士が「言葉を葉のように茂らせ、緑豊かな庭園とする」過程、つまりは「孤独を言葉によって埋め、愛を育む」過程が、間違いなく描写されていると感じます。

そしてまた、お互いの気持ちを確かめ合って、それぞれの道でシッカリ歩けるようになってから、再び再会しようという前向きなハッピーエンドになっています。

しかし、前にも書いたとおり、この恋愛劇を単にドラマの強さから見れば、残念ながら、凡庸と言わざるを得ません・・・・・・・

例えばここには『秒速5センチメートル』にあるような、恋愛劇としての鮮烈さは正直有りません。
実はこの映画のドラマは、『秒速5センチメートル』で描かれた「初恋」のドラマが、賛否を含めあまりに反響が大きかったがゆえに、どこか現実的なハッピーエンドに落ち着かせようという意思が働いたのではないかとすら思いました。
関連レビュー:『秒速5センチメートル』

いずれにしても、この映画で描かれた恋愛劇が、日常的な、現実的な世界観をもっている事を強調したいと思います。
そこで疑問なのが、だったら実写で映画化したほうが鮮烈にドラマを際立たせられるのではないかという事です。
そこで思い出したのは、今はなきアニメーション作家の今敏監督です。
かれは『パーフェクト・ブルー』というアニメで、それまでのアニメとは違いSFやファンタジーの設定を使わない、そのまま実写として表現できる現実世界のドラマをアニメーション作品として作りました。
それを見た時に、正直、この作品は実写で撮った方が表現力が高くなると感じたものです。
関連レビュー:『パーフェクト・ブルー』

この映画『言の葉の庭』も実写で撮るべきなのではないかと感じつつ・・・・・・・
しかし見終わったときに思ったのは、映画として凡庸であったとしてもアニメーションとして卓越しているという感想でした。

上手く説明できていないのですが、『パーフェクト・ブルー』の時にはこれは実写で撮った方が力を持つ作品だと思いました。
しかし、この映画は実写で撮ったときに、アニメで描かれたこの美しく繊細な風景、雨の情感が喪われてしまう事が、なんとも残念だと感じたのです。
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もう一度整理しますと、今敏監督作品では現実世界の描写は、アニメーションに置き換わったとき表現力が落ちると感じました。

しかし、この新海誠作品では現実世界の描写は、実写にしたよりもアニメーションの方が表現力が上がると感じたのです。

それはすなわち新海作品においては、実写映像よりもアニメ表現の方が「現実世界」をより豊かに表現できるということを表わしています。
今敏作品に関してはアニメでしか描けない「虚構世界」を確立し、それは卓越した酩酊感を生む素晴らしい表現だと個人的には感じます。(下/パプリカ「パレードシーン」)

しかし、そんな現実を異化する表現であるがゆえに、現実に依拠したドラマを描くにはアニメ表現の方向性が違っていたのだと、新海誠作品を見て思うようになりました。


つまり、新海誠のアニメ表現は、間違いなく現実世界(ことに自然風景)を描いて、実写映像よりも優越していると言う事を鮮烈に、繊細に、情緒的に、瑞々しく、華麗に、この映画が証明したように思います。

そういうわけで、この映画は現実世界を超越した現実表現を、アニメーションが表現したと言う意味で歴史的な作品だと思うのです。

このアニメによる現実表現を持ってすれば、実写映画をアニメとしてリメイクして、実写よりも優れた作品になることを意味するでしょう。

え〜例えば・・・・・『恋空』なんていう低評価映画(yahoo映画で★1.98、ぴあ映画生活で★2)であっても、新海誠監督のアニメ力を持ってすれば傑作にしちゃうんじゃないかなんて思ったりします。
「言の葉の庭」エンディング・ソング秦基博『Rain』


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ラベル:新海誠 秦基博
posted by ヒラヒ at 17:29| Comment(4) | TrackBack(0) | アニメ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんばんは(ФωФ)大人っぽいアニメですね😃曲もなかなか🎵靴職人とは渋い設定ですな。雰囲気がいいです👼
Posted by ともちん at 2016年11月06日 18:24
>ともちんさん
ありがとうございます(^^)新海誠監督「君の名は」大ヒットですが、その秘密はアニメーションのビジュアルが実写よりも情緒的に表現されているせいではないかと、この映画で思いました。
Posted by ヒラヒ・S at 2016年11月06日 18:57
これは見ましたね、何というか大人向けアニメですね!この他の新海誠監督の作品も観てみたいと思います。
Posted by いごっそ612 at 2016年11月06日 20:48
>いごっそ612さん

ありがとうございま(^^)
確かに大人向けの恋愛アニメです!私も新海作品、観続けたいと思いますm(__)m
Posted by ヒラヒ・S at 2016年11月06日 21:05
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