評価:★★★★ 4.0点
この作品は、映画が本来持っていた、見るものを驚嘆させ得る映像の「ユニーク性=新奇性」に満ちていると感じました。
また、このサバイバル・パニックを一人乗り切ったサンドラブロックの姿は、人間が生きることの本質を描いているように思います。
宇宙空間でロシアが自国の衛星を破壊したところ、その破片・スペースデブリが船外ミッション遂行中のライアン・ストーン博士(サンドラ・ブロック)と、同僚の宇宙飛行士マット・コワルスキー(ジョージ・クルーニー)に襲い掛かった。スペースシャトルの大破によって、他のクルーは命を落とし、2人だけが無重力空間に放り出される。地球との通信手段も断たれ、酸素ボンベの残量はわずか2時間分。2人はスペースシャトルを諦めISS(国際宇宙ステーション)に向かうが、直前で船外ユニットの推進力がなくなりISSに激突し、マットはライアンを助けるため、自ら宇宙空間に消えていった。残されたライアンは、ISSのソ連宇宙船ソユーズを使い中国の宇宙ステーション「天宮」へ向かい、そこにある中国宇宙船「神船」で地球に帰還しようと決意する。ライアンは無事に生還できるだろうか・・・・・<ゼログラビティあらすじ>
(アメリカ/2013/91分/監督・脚本アルフォンソ・キュアロン)
【受賞歴】第86回アカデミー賞・アルフォンソ・キュアロン監督賞、エマニュエル・ルベツキ撮影賞、スティーヴン・プライス作曲賞など7冠に輝く
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<ゼログラビティ・感想・解説>
この映画で示された「宇宙」は「SF作品」としてあるよりも、現実的なパニック状態を作り出すための、極限状態シチュエーションの新基軸としてあるように思いました。
そう見れば、『ポセイドン・アドべンチャー』や『タワーリング・インフェルノ』の系譜につながる、パニック・スペクタクル作品として描かれていると思います。
『ポセイドン・アドべンチャー』
しかし、この映画がユニークなのは、旧来の「パニック・スペクタクル」が、大勢の人間が災害に遭遇して逃げ惑う姿を描いていたのに対し、一人宇宙空間に取り残された孤独なサバイバルを描いている点です。
この圧倒的な緊迫感と閉塞感、そして何よりも宇宙空間における人間というのが、どれほど無力なのかという事実が実感として伝わってきます。
そんな実感を感じるのは、映画における「ユニークなビジュアル」とは「リアリティー」を意味するからだと思うのです。
世界最初の映画『ラ・シオタ駅への列車の到着』
この映画を見た当時の人々は、映画館から逃げ出したそうです。
なぜならこの映像が現実か嘘かわからなかったからです。
この例で解る通り「新たな映像体験」は、人の心に強いインパクトをもたらし、そのユニークな映像を見た実感とは、現実で新たな経験をすることと同一だと思うのです。
つまりは、ユニークな映像体験とは、擬似的に発生させられた現実体験であり「リアリティー」として成立する事を意味します。
この宇宙空間の描写力も明らかに「ユニーク=新奇」で、『2001年宇宙の旅』に匹敵するリアリティーを持っており、映画館の暗闇で凝視するうちに、自らが宇宙空間で漂っているような酩酊と息苦しさを覚えました。
【映画『ゼロ・グラビティ』特別映像】
この映画の宇宙空間の撮影方法の説明を見れば、特殊撮影の進化が良くわかります。
そんな、身に迫るような体験としての宇宙空間を通して語られるのは、人が生きることの本質的な力だと思いました。
実は、サンドラ・ブロック演じる主人公は、生きようとする意志が人より強くないと描かれていると思います。
一つには、ライアンと言う名前の由来で、本来男の子を期待されていたためだと語られる事で、望まれた存在ではなかったと解釈できます。
また、かつて幼い娘を亡くしており、その喪失感を抱えて生きている事も語られます。
つまりは、この主人公は生に対する執着が薄いはずです・・・・・・・・・・
そんな生に対する執念が弱い存在でありながら、それでもこの圧倒的な宇宙空間に放り出されたならば、生物とは生きるために死に物狂いで闘うのだという事実が、この映画を見ると理屈抜きに伝わります。
それは、この宇宙の無慈悲で冷酷な空間を、余すことなく描いた「ユニークなビジュアル」の「リアリティ」ゆえだと思うのです。
そんな宇宙で、一人生き延びるために足掻き続けるライアンの姿を見ているうちに、人は絶対的に孤独な存在であり、それでも生存し続ける強い意志を持つのだと言うメッセージが発せられているように感じられてなりません。
そういう意味では、この映画の日本題の「ゼロ・グラビティ=無重力」は、相応しくないと思います。
なぜなら、ここで語られたテーマとは、「人=生命」が生き続ける強い力「グラビティ(原題:Gravity)=重力」を生来授かっているという真実だったはずだからです・・・・・
"ゼロ・グラビティ" のテーマ
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ありがとうございます(^^)
宇宙は人間が生きる場所じゃないデスね。圧倒的なビジュアルで、スゴイと思いました。クルーニーさんの親父ップリはいい感じでしたm(__)m
上映時間が短いのも幸いでしたが。
何気に地上の管制官がエド・ハリスなんですよね、声だけ出演。
同じく、邦題は本当に酷いですね。良いという意見もありますが、ラストに「ゼロ=無」は可笑しいです!
冒頭からの1カット(風)映像など、アルフォンス監督は「トゥモロー・ワールド」でもシンプルなメッセージと脅威の映像力のバランスが凄く好きです!
有難うございます(^^)
管制官エド・ハリスなんですよね、ドイツ人役が懐かしい。
アルフォンス監督の「トゥモロー・ワールド」!私も好きです。
そういえば、あれも男が女の子を助けましたね!
あのラストの希望と悲哀が好きですm(__)m
ありがとうございます(^^)
ビジュアルが凄い・・・・・「2001年宇宙の旅」「ジュラシック・パーク」を見たときの興奮が甦って来ました!