評価:★★★ 3.0点
山田洋次監督の名人芸を期待してみました。
『たそがれ清兵衛』というしっとりとした、武家社会の規律と侍としての悲しみを昇華させた傑作を見ているだけに、なおさら期待は高まります。
<武士の一分あらすじ>
東北の小藩に仕える下級武士・三村新之丞(木村拓哉)は、藩主の毒見役。妻の加世(檀れい)と小者の徳平(笹野高史)と暮らしている。ある日の毒見で、新之丞はつぶ貝の毒にあたって倒れ失明してしまう。一時は絶望した新之丞だが、加世の支えもあり生きることを考える。しかし役職を解かれて、今後の生活に不安が募る。加世は顔見知りの上級武士・島田藤弥(坂東三津五郎)の、助力を乞う。その後三村家の家名は存続し三十石の家禄もそのまま、という沙汰が下される。しかし新之丞は家禄を口実にして島田が加世を呼び出し、不貞を強要していた事実を知る。新之丞は怒りに震え、加世に離縁を言いわたす。そして、盲目の身ながら師匠・木部孫八郎(緒形拳)のもと剣術の稽古を始めた。そして、新之丞は島田に果し合いを申し込む・・・・
(日本/2006年/121分/監督・山田洋次/脚本・山田洋次,平松恵美子,山本一郎/原作・藤沢周平)
脚本は完璧です。
演出もさすがに、重厚で安定した、リアリティにあふれる堂々たるものです。
また光の取り方が、まるで江戸時代の光をそのまま移したようで感動しました。
役者も木村拓哉を含め、作品世界にしっくりと溶け込み、おかしな役者も変な演技もどこにもないのです。
特に笹野高史は出色の演技で、下級侍の小者(召使)とはこういう立ち居振る舞いで、こんな風に主人を思うのだなと、妙に納得させられました

前に見た『たそがれ清兵衛』ほどの感動が無い・・・・・・不思議です。
よく出来てるし、浮いたところが少しも無い、本当に良い映画なのに・・・・
私個人としてはどこか、靴下を左右履き違えたような、居心地の悪さというか、かすかなな不充足が残ったのです。
なぜと思い、5回ほど見てみました(壇れい見たさというウワサもあり)
そこでモシやと思うところに気がつきました。
そして確認のため6回目を見て、その違和感の原因を確信しました。
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以降ネタバレがありますご注意下さい
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それは、最後の立会シーンにおける坂東三津五郎と木村拓哉の、「腰の高さ」の違いでした。
坂東三津五郎はさすが歌舞伎役者、日本舞踊の伝統、重心の下がった足さばきが身についています。
そしてそれは、そのまま武芸を積んだ侍の姿に通じるものです。
対する木村拓哉は目が見えない剣士ということもあり、一見さほど違和感を感じないのですが、やはり坂東三津五郎と同じ画面にはいると、腰が軽いのがどうしても気になったのです。
一度この事に気がついた時、それまで積み上げてきた作品のリアリティが、大事な決闘シーンで崩れ去るように思えたのです・・・・
結局、一回見ただけで明瞭に原因が意識できなかったとしても、人間は無意識のうちに違和感として受け取ってしまうものなのでしょう。
これは決して木村拓哉が悪いわけではありません。

長年の修錬を経て初めて身につく、本当の所作ですから、同じ動きを一朝一夕ですることは不可能です。
しか、その本物の動きをしている人間を見てしまえば、厳しい鍛錬を経た正統な武士のように見えてしまうのではないでしょうか。
結果として悪役の坂東三津五郎の方が、私の中では悪役に見えなくなってしまったという・・・・
ホントに伝えるというのはムズカシいものだなと。
たとえば、坂東三津五郎の役が渡辺謙や、役所広司だったら、こんな違和感を感じなかったんじゃないかとおもったりしました・・・・
ほんのちょっとしたことですが、そんな「映画の一分」・・・・・それが大事だなと勉強しました。
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ありがとうございます(^^)なぜビックリ?
ご賛同いただいて有り難うございます。
ちょっと違和感ありましたよね〜