2016年09月19日

映画『パリ、テキサス』ヴィム・ヴェンダース監督の傑作/感想・ネタバレ・解説・あらすじ・ラスト

一人一人が持つ「パリ、テキサス」



評価:★★★★★ 5.0点



テキサスの荒野に、実在する町パリ。
人はこの題名のように、荒れた荒野の小さな町にすら、夢の都の幻影を冠せずにはいられない。

この物語も同じ。
主人公の美しい夢「美しい妻と可愛い子供のいる家庭」それは主人公の嫉妬で崩壊してしまう。
しかし主人公は廃人となっても、自らの心の中に美しい幻影を持ち続け、その幻影ゆえに益々自らを追い込んでいく。

『パリ、テキサス』あらすじ


テキサスで、4年前に失踪した一人の男トラヴィス(ハリー・ディーン・スタントン)が行き倒れとなって、病院にかつぎこまれた。医者(ベルンハルト・ヴィッキ)は男の弟ウォルト(ディーン・ストックウェル)に連絡を取った。トラヴィスは記憶を喪失して、妻ジェーン(ナスターシャ・キンスキー)や、ウォルトと妻のアンヌ(オーロール・クレマン)が預かっている息子ハンター(ハンター・カーソン)のことすら忘れている状態だった。ロサンゼルスのウォルト家に着き、アンヌと7歳に成長したハンターと再会したトラヴィスは、そこで暮らすうちに徐々に記憶を取り戻す。トラヴィスは今は行方不明の妻ジェーンがヒューストンにいることを知りジェーンを探しに行く決心をする。それを聞いて、ハンターは自分も行きたいと言い、そのまま共にヒューストンに旅立った。そしてついに妻を探し当てるが・・・・・・・・

(西ドイツ・フランス/1984年/147分/監督ヴィム・ヴェンダース/脚本サム・シェパード)

この映画を見れば、人は夢を見なければ、生きていけない生き物なのだと思わざるを得ない。

そして繰り返し繰り返し見る夢、それは完璧な理想郷として構築されていく・・・・
現実を超えた美しき夢は、その過剰さゆえに我が身を傷つけることは知っているはずなのに・・・・

心の中の「都」はあまりにも完璧で美しすぎるがゆえに、現実の存在に投影された時、その虚像と実像のギャップがナイフとなって心にささる。

監督ヴィム・ヴェンダースも同じ経験をしたはずだ。wenders.jpg
ドイツの実績を自信に、ハリウッド映画界で成功を夢見てアメリカ上陸をしたが、この映画の前作「ハメット」は失敗だった。
たぶんハリウッドシステム(監督の権限の制限や、編集権を持てない等)を前に途方に暮れ、出来栄えに傷ついたに違いない。
彼は思ったのではないか。
憧れの存在(ハリウッド)が、そのまま現実でも答えてくれるとは限らないと…それゆえ、この映画「パリ、テキサス」は西ドイツ・フランス合作作品とし、アメリカから距離を置いた形で撮影されたのである。
しかしヴェンダースの凄いところは、自身の中の「ハリウッド映画=パリ、テキサス」をきっちり提示し、彼自身にとっても代表作となる最高の一本に仕上げている所である。
この映画がヴェンダース作品の中で飛び抜けて理解しやすいのは、たぶんハリウッド映画=アメリカ映画へのオマージュであるからだろうと、個人的には想像している。

そしてこの映画を通じて、切ない事だが・・・・・・過剰に、深く、完璧に、心の中に理想郷を成立させてしまえば、その像はもはや現実に我が物とする事は不可能であると語られているように思える。

それは、映画という理想世界を愛する者にも、決して人事ではないだろう。


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以降の文章に

『パリ、テキサス』ネタバレ

があります。


(あらすじから)
この映画の終盤、主人公トラヴィスは、のぞき部屋で働く妻と話す。
永遠に越えられない壁を隔てて。
paris-peep.jpg

『パリ、テキサス』ラストシーン

トラヴィスはジェーンに息子を託した。



『パリ、テキサス』ラスト感想



ラストののぞき部屋で2人を隔てた、越えられない障壁とは、人が心に描く「夢」と「現実」の境界であっただろう。
そして、トラヴィスは「妻の夢」である子供を彼女のもとに残し、妻の夢をかなえた。
しかしトラヴィスは、「妻と子」の幸福のためには、自分がそこにいてはいけないことも知っていた。
なぜなら、自分の「理想・夢」、妻に対する「過剰な愛」によって、妻も自分も傷つき苦しむことが判っていたから・・・・・・・・・

やはり、トラヴィスと言う存在は「夢」の持つ残酷さと、それでも「夢」を見なければ生きられない「人間の性(さが)」を象徴する者として、彷徨を続けなければならないのだろう。
paris-texas.jpg

考えてみれば人類は「夢」を見て、「夢」に裏切られ、それでも見果てぬ夢に導かれてここまで進んできたのだろう。

その過程で幾千幾万の者達が、「夢の都」を我がモノと出来ずに、失意の中に朽ちていったはずだ。

そして、そのどうしようもない悲しみ、絶対に取り戻せない「夢の都」に対する惜別の情を、黒人=アフリカ系アメリカ人は「ブルース」として歌い継いできたのではなかったか・・・・・・・・・

この映画のメインテーマ、スライド奏法ブルースギター
名手ライ・クーダのギターの響きが切ない「Paris, Texas」


この映画の主人公の最後を見てほしい。
これがブルースだ。


関連レビュー: ヴィム・ヴェンダースの監督作品
『ベルリン・天使の詩』
カンヌ、アカデミー賞受賞の名作
東西冷戦下のベルリンの天使




posted by ヒラヒ at 18:59| Comment(4) | TrackBack(0) | ドイツ映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんばんは❗(ФωФ)この映画はjmcmy さんのおすすめだったような?テスのキンスキーさんがパリ、テキサスに出ていると。これは観なければいけませんね(笑)
Posted by ともちん at 2016年09月19日 20:02
>ともちんさん
実は、ナターシャさん最後しか出てきません。
でも、一世一代の切ない表情を見せてくれます。
泣ける映画です・・・・・(TT)
Posted by ヒラヒ・S at 2016年09月19日 20:50
夢を持つことは大事ですね!
人は夢を見なければ、生きていけない生き物・・そうなのかも知れません。
なかなか難しそうな映画ですが、興味がわきました(*‘∀‘)
Posted by いごっそ612 at 2016年09月20日 04:38
>いごっそ612さん

ありがとうございます(^^)
親子の「ロードゴーイング」ムーヴィーでもあります。
ナカナカ切ない良い映画だと思いました。
Posted by ヒラヒ・S at 2016年09月20日 08:44
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