評価:★★★★★ 5.0点
このアメリカを舞台とした、ドイツ映画をどう表現すべきだろうか。
この映画がカルト的な人気を誇るのは、決して「デブ専」の趣味趣向をもつ人たちからの支持だけではない・・・
<バグダッド・カフェあらすじ>
ドイツローゼンハイムからアメリカに旅行に来た、ミュンヒグシュテットナー夫妻はラスヴェガスに向かう車中で夫婦喧嘩し、夫(ハンス・シュタードルバウアー)は妻のジャスミン(マリアンネ・ゼーゲブレヒト)を車から蹴り落とす。重いトランクを提げてジャスミンがたどりついたのは、モーテル兼カフェ兼ガソリンスタンドの「バグダッド・カフェ」。そこには、女主人の黒人ブレンダ(CCH・パウンダー)が長男サルJr(ダロン・フラッグ)長女のフィリス(モニカ・カローン)ノロマな亭主サル(G・スモーキー・キャンベル)と暮らしていた。しかしブレンダはダメ亭主サルを追い出してしまう。その“バグダッド・カフェ”にはバーテン(ジョージ・アキラー)女刺青師デビー(クリスティーネ・カウフマン)、画家ルーディ(ジャック・パランス)、エリック(アラン・S・クレイグ)などが入り浸っている。ブレンダは泊めては見たものの、ジャスミンが気に入らず追いだそうと、毎日のように文句を言うが・・・・・・・・・
(西ドイツ/1987年/監督パーシー・アドロン/脚本パーシー・アドロン・エレオノーレ・アドロン)
ヤスミンは、アメリカのモハーヴェ砂漠で夫とケンカをし、車を降りてしまう。
このヤスミンは、中年のオデブなのだが、違和感と愛嬌を共に兼ね備えたユニークなキャラクターで、ホンとにいい味を出している。
そして、一人でトランクを引っ張りながら歩く場面に、ジェヴェッタ・スティールが歌うテーマ曲「コーリング・ユー」が流れる。
このシーンだけで、見ているコチラはナゼカ痺れる。
ヤルセなく、ケダルイ、どこか歪な、荒涼たる風景・・・・
そこにノスタルジックで切ない女性ボーカルが呼びかける。
I am calling you(私はあなたを呼んでいる)
Can’t you hear me(聞こえないの)
I am calling you(私はあなたを呼んでいる)
このバグダッド・カフェを経営する、この映画のもう一人の主人公がブレンダ。
黒人女で二人の子の母でもある。
彼女は、金切り声を上げながら、ガムシャラに、ストレスに爆発寸前になりながら、シャカリキに生きている。
そんな彼女はダメ亭主を、映画の冒頭で叩き出す。
つまらないコトを言えば、この映画は男を拒否した二人の中年女が、対極に位置するキャラクターを融合させ、ついにはシアワセになる物語だ。
それは、ハートウォーミングなファミリードラマでもある。
しかし、実際見て見れば上の要約はホンとに陳腐だ。
あらすじで書いたようなストーリーは、この映画にとってただのベクトル、道があるというだけの事だ。
この映画が持つ魅力は、その一場面、一シークエンスに籠められた違和感にこそある。
それは、語るものと語られるもののギャップであるとか、時間的な間であったり、ヒシャゲタ構図であったり、演技の不整合であったりするが、映画を見終わったあとに受ける印象はカオスの果てに新しい命の誕生を見たかのような、満足感と疲労を共に感じたりした。
I am calling you(私はあなたを呼んでいる)
Can’t you hear me(聞こえないの)
I am calling you(私はあなたを呼んでいる)
結局この映画の全てが、この歌詞に表わされているように思う。
この映画はドイツ人監督がアメリカで取った、ドイツ映画だ。
ここには、映画の聖地アメリカで映画を撮りたいという、映画人としての思いが有りはしなかっただろうか。
しかしそこで出来上がったこの作品は、ハリウッド的な映画文法とはまるで違う、さながら異星でエイリアンによって撮られたような肌触りがある。
I am calling you(私はあなたを呼んでいる)
Can’t you hear me(聞こえないの)
I am calling you(私はあなたを呼んでいる)
例えば、二人の主人公のキャラクターの、極端さはどうだろう。
二人とも男に去られていながら、一人はジッと蹲り、もう一人は金切り声を上げながら走り回る。
この水と油の混ざることは不可能だと思える。
I am calling you(私はあなたを呼んでいる)
Can’t you hear me(聞こえないの)
I am calling you(私はあなたを呼んでいる)
それでも、この映画が訴えているのは、ストーリーや作品作りも含めて、異質なモノ同士が「Call=呼びかける」姿勢の重要さだ・・・・
あまりにかけ離れて、とても伝わりそうも無いのに、それでも、時にのた打ち回りながら、虚しい試みに心折れそうになっても・・・・・・・
それでも静かににじり寄るように、あくまで相手に
「Call=呼びかける」姿は、あまりに痛々しい。
しかし、それでも諦めずに、休むことなく「Call=呼びかける」声が、真実の訴えに満ちていていればこそ・・・・・・
いつしか心が、「Call=呼びかける」存在に共鳴しだす。
その反応は最初、戸惑いや怒りの姿として現れるかもしれない・・・・・・・
しかし、そんな異質な存在に対する拒否反応を、相互に、交互に、何度も繰り返す果てに・・・・・・
ついに、異なる二つの物質が、磁石の極が回転するように・・・・・
Can’t you hear me(聞こえないの)
核融合を起すかのように・・・・・・・
I am calling you(私はあなたを呼んでいる)
一つに溶け合ったとき・・・・・・・
そこには元のAでもBでもない、まるで異種のCという「新たな個性」が出来上がる。
そんな異文化の「せめぎあい」の果てに生まれたものを、「ユニーク=特異」と呼ぶのではなかったか・・・・・
この映画自体、「人種」「文化」そんな独立し確立した強固な形を持つものが、異種同士で対話することの困難と、その困難に打ち勝った時の無限の可能性を描いた、異文化衝突の「カオスと融合」のドキュメンタリーなのだ。
そんな、こんなを、描いてスゴイです。
人が人と、対立と困難を乗り越えて一つになる姿を描いたからこそ、かくも愛される映画となったのだろう。
Can’t you hear me・・・・・・・・アナタニモ、キット、ワカルヨ・・・・・コノ、エイガヲミレバ・・・・・・キット
ジェヴェッタ・スティール「コーリング・ユー」
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あの音楽、歌声が耳に残りました。
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コメントありがとうございますm(__)m
応援有り難うございます。(^^)
古いっすね〜でも評価も高いし観他方が良さそうですね。
参考になります。
ありがとうございます。(⌒‐⌒)そういっていただけると有り難いです(^^)変な映画ですが、癖になります・・・・私もキンキーブーツもエレファントソングも、まだだ〜死ぬまでに見れるか?
ありがとうございます(^^)古くてすみません^_^;
ちょっと変わった映画ですが、はまる人ははまるようですm(__)m
ブレンダ役のCCH・パウンダーのCCH部分が気になって調べたのは良い思い出ですw
ありがとうございます(^^)
>ブレンダ役のCCH・パウンダーのCCH部分が気になって調べたのは良い思い出ですw
しまった!今調べました、キャロル・クリスティン・ヒラリア・パウンダーだったんですね(^^)
でも頑張ってますよね、彼女、アバターとかエスターとか地道に出てますもんね〜今後もガンバって頂きたいものです。