評価:★★★★★ 5.0点
この原題「金玉ヤローなんか、気にすんな!」というCDを初めて、クラシックピアノをやっている友人に聞かせたときのその言葉が、忘れられない。
「ふざけないで、こんな演奏がプロのわけないし、人前でやってはいけない」
セックス・ピストルズ
セックス・ピストルズ (Sex Pistols) は、イングランド出身のパンク・ロックバンド。
1970年代後半にロンドンで勃興した、パンク/ニューウェーブ・ムーヴメントを代表するバンド。自国の王室・政府・大手企業などを攻撃した歌詞など、反体制派のスタイルが特徴。また、短命でありながらも、後世のミュージック・シーンやファッション界にも多大な影響を与えた。「ローリング・ストーンの選ぶ歴史上最も偉大な100組のアーティスト」において第60位。(引用:wikipedia)
このセックス・ピストルズのデビュー当時の70年代イギリスとは、英国病と呼ばれるほど、経済が停滞しており、その最大の被害者がセックス・ピストルズのメンバーが属する労働者階級だった。仕事もなく明日も知れない彼等は、サッカー場でフーリガンとして暴れたり、楽器を持ち寄ってバンドを結成し不平不満を叫んだ。
そもそも、ロックミュージックのルーツは、アフリカから無理やりつれてこられたアフリカ系アメリカ人達の魂の慟哭だ。その叫びは、時に詠嘆であり、時に苦痛の訴えであり、そして何よりも自由を求める抵抗の歌であった。
それが、喜怒哀楽のどうしようもない感情の爆発として表現されるとき、本来その情報を最も端的に伝え得るのは、泣く、怒る、タメ息、の肉声こそふさわしい。
しかし、肉声によって発せられた個人の感情はそれを聞いた回りの人間には突き刺さるかもしれないが、残念ながら広範な伝播力が無い。
そこで音楽的なギミックが必要であり、その音楽の核がブルーノート(ブルース単音)とブルース・コードだ。
ブルースコードの組み合わせによって作られた、この音楽形式ブルースが便利なのは、コードを2〜3個覚えただけでも演奏に参加できるし、そのコード上の音を使って歌えばそれなりに単純なブルース・ソングとして成立することだ。
この極めて融通の利く可塑性の高い音楽様式だったからこそ、世界中に広まり、世界中の人々の喜怒哀楽を表現する音楽となったのだろう。
(初期ブルースシンガー:ロバート・ジョンソン「Sweet Home Cicago」)
しかし、このプリミティブなブルースは世界中に伝播する中で、どんどん技巧的になって行き、ついにはプログレシヴ・ロックのように、高度な演奏技術が要求されるようになってしまった。
(プログレバンド:エマーソンレイク&パーマー「展覧会の絵」)
しかしだいたい、技巧に走れば走るほど、叫びの持つ本来的な力は弱くなっていくのは、過去の芸術表現が証明している。
クラシックピアノの友人に、私は言わざるを得ない。
「上手けりゃいいってもんじゃない!」
友人は言った。
「上手くなきゃダメ!音楽には技術が必要なのよ」
パンクロックで、このCDの曲で伝えようとしているのは、不況の中で生じた労働者階級の不平憤懣だ。
当時のイギリスでは、労働者層の若者達が金が無いために、住居を不法占拠したり、金持ちを襲って強盗を働いたりという、いつ暴動が発生してもおかしくないぐらいの不穏な社会情勢を背景にした、怒りの爆発だ。
ここでロックは、再び人間の叫びを届けるために、パンク・ロックとして復活したのだ。
その姿は確かに無様で、汚くて、見るに耐えないかもしれない。
実際、歌詞の内容は「ば〜か、ば〜か!お前のか〜ちゃんデベソ!」レベルのモンだったりする。このCDの題名も「金玉ヤローなんか、気にすんな!」だし
でも、聞くがいい!
この不恰好な姿が、どれほど多くのメッセージを伝えるかを!
死にかけたマラソン選手が、今にも倒れそうになりつつ歩む姿に感動しない人間がいたら、それはもう人間ではない!
パンクロックの無様さとは、なりふり構わず、死に物狂いで、それでも伝えずに死ねるかと言う「叫び」だ!
だから聞く者に、問答無用で、有無を言わさず、首根っこを押さえつけられて、逃げようもなく脳髄に直接突き刺さるのだ!
クラシックピアノの友人とのファイトは続く。
「技術なんていらない!」
「技術がなきゃダメ!」
ついに言った
「じゃ〜技術が上手くなったら、叫ばなくても世界を変えられるのか!戦争をやめさせられるのか!」
友人はいう
「音楽は芸術は、そんなことのために有るんじゃありません」
クラシックピアノの友人に私は言った。
「だとすれば、音楽や芸術が必要なのは生きることに困らない、世界が今のままでいいと考えている傲慢な人達のモノなのか?」
更に私はたたみかける。
「芸術と言うのが上流階級や裕福な人達のための讃歌でしかないなら、そんな物は俺は要らない!」
パンクロックは「抵抗の歌」であり、世界を変えるためのデモのシュプレヒコールだ。
だからこそ、技術はいらない。
音楽的技術を考えながら、そんな余裕の在る態度で、自分達の生きるか死ぬかの要求を伝えられはしない。
それは、ライオンに襲われた人間が上げる、絶叫こそが最も相応しい。
そして、音楽表現において、いや芸術史上も含めて、初めて、技術が低いほうが強く伝わるメッセージが在るという事を、パンクロックが証明したのだ。
フランク・シナトラが歌う「マイ・ウェイ」のオリジナル
セックス・ピストルズの「マイ・ウェイ」
その後、友人に会った時にはもう「パンクは死んだ」と言われて久しい時期だった。
友人は冷笑しつつ言った。
「パンクはどこ?技術がない音楽は残らないでしょう?」
私は苦虫を噛み潰した顔で答えた。
「技術が無いから残らなかったんじゃない。魂がなくなったんだ・・・・」
そう、伝える強い思いが必然的に、技術的形式を形作る。
そして「パンク」という形式が残ったとしても、その心が魂がなくなれば、それは空っぽの形骸でしかない。
CDデーター『勝手にしやがれ!!』(1977年)
1.さらばベルリンの陽 - Holidays in the Sun(3分20秒)
2.ボディーズ - Bodies(3分03秒)
3.分かってたまるか - No Feeling(2分49秒)
4.ライアー - Liar(2分41秒)
5.ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン - God Save the Queen(3分19秒)
6.怒りの日 - Problems(4分10秒)
7.セブンティーン - Seventeen(2分02秒)
8.アナーキー・イン・ザ・U.K. - Anarchy in the U.K.(3分32秒)
9.サブミッション - Submission(4分10秒)
10.プリティ・ヴェイカント - Pretty Vacant(3分17秒)
11.ニューヨーク - New York(3分05秒)
12.拝啓EMI殿 - E.M.I.(2分57秒)
ジョニー・ロットン - ボーカル
スティーヴ・ジョーンズ - ギター、ベース、バッキング・ボーカル
グレン・マトロック - ベース("アナーキー・イン・ザ・U.K."のみ)
ポール・クック - ドラムス、バッキング・ボーカル
シド・ヴィシャス - ベース("ボディーズ"のみ)
オススメこの一曲「アナキー・イン・ザ・UK」
私は信じている、世界が困難に満ちて救済が必要となったとき、ロックの魂が、パンクのパワーが蘇るのだと・・・・・・・
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ラベル:セックス・ピストルズ
>ともちんさん
アリガトウございます(^^)
「死刑台のメロディ」は凄いですね・・・・事実の持つ迫力。
ジョーン.バエズさんの歌もいいですね!
パンクはイキオイだけですから・・・・・(^^;
いやいやいやいやスミマセンm(__)mカラミずらくて(^^;
も〜そういうときはお互い、"今回パス"で、いかがでしょうか。
もちろんスルーでOKですけど(^^)