2016年07月19日

音楽映画『オーケストラ!』個人主義の音楽の力/あらすじ・感想・解説・評価

ワガママなアーティスト達




評価:★★★★   4.0点

このどっかスットボケタ、ベタなコメディー映画が、ナゼか私の心を熱くしました。
それはやはり、最後に鳴り響くオーケストラの力があってこその感動であったように思えてなりません。

『オーケストラ!』あらすじ


かつてはボリショイ交響楽団の天才指揮者として知られていたアンドレイは、今はボリショイ劇場の清掃員にまで落ちぶれていた。ソ連共産党政府のユダヤ人排斥政策に従わなかったため、30年前に楽団を追放されたのだ。そんな彼はある日、事務所のFAXが鳴りパリの劇場が急遽キャンセルした楽団の代わりとなるオーケストラを探しているという連絡を見る。アンドレイはそれを見ると音楽界復帰のチャンスとばかりに、やはり仕事がなく困窮している、かつての楽団員たちを集め『ボリショイ交響楽団』としてパリにへ到着した。演目はチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲で、ソリストはパリ在住の若き女性ヴァイオリニストのアンヌ=マリー・ジャケを指名した。実はアンドレイと彼女には、知れれざる因縁があったのだ。しかし練習は遅々として進まず、劇団員はアルバイトに精を出す始末。アンヌは怒りに震える。しかしリハーサルもなしに、演奏会の日はやって来た・・・・・・・・・・。

映画『オーケストラ!』予告編


(原題LE CONCERT/製作国フランス/製作年2009年/上映時間124分/監督ラデュ・ミヘイレアニュ/脚本ラデュ・ミヘイレアニュ、アラン=ミシェル・ブラン、マシュー・ロビンス )

映画『オーケストラ!』出演者

アンドレイ・フィリポフ(アレクセイ・グシュコブ)/アンヌ=マリー・ジャケ(メラニー・ロラン)/オリヴィエ・デュプレシス(フランソワ・ベルレアン)/ギレーヌ・ドゥ・ラ・リヴィエール(ミュウ=ミュウ)/サーシャ・グロスマン(ドミトリー・ナザロフ)/イヴァン・ガヴリーロフ(ヴァレリー・バリノフ)/イリーナ・フィリポヴナ(アンナ・カメンコヴァ)/ジャン=ポール・カレル (リオネル・アベランスキ)


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映画『オーケストラ!』感想・解説



基本コメディ映画ですけど、いくら何でも、アルバイトで劇団員が練習に来ないって・・・・・・コリャいくらなんでもフザケすぎだろうと思いますが・・・・・・・・・

しかし、まんざら冗談とも言い難いのは、実際ソ連からロシアの移行によって、社会も経済もガタガタだったそうです。
そんな例として私が聞いた話に、日本の商社の社員がせっかくだからシベリア経由でウラジオストックから帰ろうと思い、ロシアの友人に相談したら、武器は何を持っていると聞かれたとか・・・・・ちょっと人気のない所では、対戦車砲を持ったような強盗がゴロゴロしていると聞いて、さすがにあきらめたそうです。
それというのも、ソ連時代からの財政危機もあり、ロシア成立の翌年である1992年にはインフレ率が25倍(100円のものがイキナリ2500円)になったという状況でした。

そんな状況ですから、ロシアの若い女の子達が家族を助けるために、日本で「ロシア・パブ」に勤めなければならなかったんですねェきっと・・・・・

つまりは、この映画の音楽家達は、生活と芸術のどちらを取るのかという、共産主義的なブルジョワ批判のような問いを、資本主義に移行したロシアで突き付けられていたわけです。
まー死んじゃっちゃ、芸術もクソも無いんで、こんな私に誰がしたという状況を、笑いに紛らせつつも鮮烈に表現しちゃってますが。

しかし、いくらなんでもコンサートのその日まで、ロクにリハーサルもしないナンテあり得ないと、真面目な日本人なら思いますわね。
正直私も、あまりにも適当ですし、時間も守らないし、これじゃ仕事に成んないでしょって、律儀な日本人としては許せない思いでいたんです。

ところが、これも、ある日本人の指揮者が外国に留学したときに、似たような経験をしたというのを読んで、眼からウロコが落ちる思いをしました。


その人が外国の交響楽団で指揮する体験をした時、ホントにメンバーは来ないか、来てもいい加減で、練習にならないンですって。
頭に来て文句を言うと、しゃらっと、もうこの曲もあなたの言いたいこともわかっている、本番は大丈夫だ任せとけという。そんな奴が一人だけでなく、何人も居ると言うんです。
もう、どうにでもなれと思って、破れかぶれで当日を向かえ・・・・・・ついに、本番でタクトを振ったら、とんでもないスゴい音が出てきたっていうんです。
一人一人がクラシック曲の意味を理解した上で、強い個性を持った音が鳴り響いたそうです。
その音がホールに響いた時、これがオーケストラの音なのだと、気付いたと言います。

その人は心の底から、西洋文明においてアーティストというのは飛び抜けた個性であり、その人間にしか出せない音を持っているという事なんだと思い知らされたそうです。
そんな、一人一人の確立された個性が一つにまとまったときに、とてつもない爆発力を持った表現が成されるんだとか。

逆に、日本人は自らの個性を考えるよりも、合わせよう合わせようとしすぎて、破綻は無いけれども小さくまとまってしまい広がりが出ないとか・・・・・・・・

この映画は、ラストのコンサート・シーンで響く力強い音の響きで、そんな西洋の個人主義の集合としての、オーケストラの力を示し秀逸だと思いました。
また同時に、国が乱れた状態でも決して枯れ果てない、アーティストの魂を見せ付けられたような気がします。


因みに『イングロリアス・バスターズ』のメラニー・ロラン、『トランスポーター』シリーズのフランソワ・ベルレアンが出演してます。
よく出来た人情話ですので・・・・お試し頂ければ幸いです。

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posted by ヒラヒ at 21:59| Comment(6) | TrackBack(0) | フランス映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんばんは!これは感動するやつですね(^◇^)いいですね〜🎵音楽系は。寄せ集めが天才集団だというお約束ですね(笑)
Posted by ともちん at 2016年07月19日 21:58
>ともちんさん

ありがとうございます(^^)面白かったです。感動しました。
クラッシックを題材にした映画って、何気に良作が多い気がします(^^)
Posted by ヒラヒ・S at 2016年07月19日 22:18
なるほど〜ソ連崩壊からロシアの経済なども勉強になりました。
映画も感動しそうですね!
「アンコール!!」って映画もなかなか良かったですよ。
機会があったら観てみて下さい
Posted by いごっそ612 at 2016年07月20日 06:38
>いごっそ612さん

ありがとうございます。フランス映画ナンですけど、ロシアのネットり感がよかったです。
「アンコール!!」チェックします(⌒‐⌒)
なにげに、交響楽団物って良作品が多い気がします。m(__)m
Posted by ヒラヒ・S at 2016年07月20日 07:22
この映画、大好きです!
ふざけすぎのドタバタ、と思いながら見ていましたが、最後のコンサート、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲・・・・・あまりの名演に感動して涙が・・・・・・
こんなにバカバカしいのに涙が止まりませんでした。
私も感動して記事にしていますね・・・・・
http://dantess.blog82.fc2.com/blog-entry-1719.html

でも、オーケストラってそういうものなのかと、私もレビュアンさんの記事で目からウロコです。
ますます好きな作品になりそう♪

それにしても協奏曲自体が名演で、あそこまで感情表現のでる
Posted by Dantess at 2016年07月21日 22:22
途中で送信してしまった(>_<)

あそこまで感情表現できる演奏家ってなかなかいないような・・・・
いや、YOUTUBEで聴き比べているだけなのですが。

YOUTUBEで聴いていると、やっぱり高嶋さんとか千住さんとか名前が売れている人が表現力あるわけではないみたいです。聴いていると平板な印象。
五嶋みどりさんは、やっぱり表現力がすさまじくって、おなじ曲でも圧倒されます。

ああした名演を聴くほどに、この映画のラストの名演と重なって、説得されちゃいますね。
Posted by Dantess at 2016年07月21日 22:28
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