2016年07月13日

映画『紳士協定』ユダヤ人種差別とハリウッド歴史/解説・あらすじ・感想・批評

ハリウッドのユダヤ人



評価:★★★★   4.0点

突然ですが、歴史的にユダヤ人がハリウッド映画を支配してきたのです。
その関係を整理するために、良い映画はないかと考えて思いついたのがこの一本です。

この映画は、エリア・カザン監督の1947年公開作品で、第20回アカデミー作品賞を受賞しています。

紳士協定あらすじ

主人公フィル・グリーン(グレゴリーペック)は、フリーライターの仕事として「ユダヤ人への差別」の記事を依頼され、自らユダヤ人に成りすまし社会生活を送った経験を元に、執筆しようと考えつきます。
そして、実践してみた結果、ユダヤ人と分かると周囲の視線が変わり、有形無形の差別が主人公の身に降りかかることになります・・・・・

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『紳士協定』感想・解説
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そんなストーリーの中で、人が人を差別するという事が、どういう形をとって社会に現れるのかというのが、我が身に迫って感じられます。
これは、この映画で描かれたユダヤ人問題だけではなく、理不尽に誰かを傷つける全ての行為について、共通の構造を鋭く抉った秀作だと感じました。

本当に社会的な問題に、切り込む脚本が素晴らしい。
緊張感もあって、だれたところも無く、ラストまで見終わったときには、知らず知らず差別という問題を考えさせられます。
社会的な問題をドラマにするためには、観客に対してどうすれば分かりやすく、興味を持たせられるか、そして問題に対して真剣に考えさせられるかのお手本のような脚本です。

このドラマの強さは映画的技術が優れているのは勿論ですが、監督エリア・カザンはギリシャ系移民ですが、自ら語るところを見ると、本人も差別体験があったことが窺い知れ、ユダヤ人差別にも憤りを持っていた事が、この迫力ある演出を生み出したのではないでしょうか・・・・・

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「ユダヤ人差別」解説
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ところで、この映画のテーマである「ユダヤ人差別」ひいては「ホロコースト」の問題について、よく映画になりますが、なぜ差別されるのか不思議に思いませんか?

以下ふつつかですが説明させて頂きます。

そもそもユダヤ人は、映画「十戒」で描かれた古代エジプトの昔より、「出エジプト」や「バビロン俘囚」の事件など苦難の連続で、流浪を続けてきました。
その苦難の歴史が過酷さを増すのは、キリストを裏切ったユダの登場によって、決定的にユダヤ民族に対する忌避感をキリスト教徒が持ったことによります。
古代ローマ時代の西暦66年にはユダヤのローマ軍に対する反乱「ユダヤ戦争」があり、最終的にはローマ帝国からユダヤ民族の定住の地を奪われてしまいます。
そんなキリストを裏切った流れ者の民族を、行く先々の人々が快く受け入れるのは、困難だったに違いありません。
結果的には、行く先々でも嫌われ迫害を受ける境遇となり、そんな民族的な苦難は独特な文化・風俗を創ります。
その長い苦難を耐えるなかで、ユダヤ人はユダヤ教という独特の宗教と共に、有形無形の迫害にも耐え得る生活様式を作ります。

それは「ベニスの商人」の悪役シャイロックに代表されるような「動産=金や宝石」に対する執着と、「能力=勉強・特殊技能」の習得という形で現れます。

つまりは、いつその地を追い出されても生きていける、資産と技能を持つ努力をしたのです。
そしてそれは、徹底的な危機管理と、容赦ない財の蓄積をしなければ、生き残れないということを意味します。
結果として成功したユダヤ人たちは、その土地に元から住む人々の富を奪うことになり、地元の人から差別を受け、差別を受けるからますます蓄財に走るという、悪循環が生じることとなります。
それゆえ、ナチスドイツに代表されるように歴史的変革期や経済状態が悪くなると、ヨーロッパの各国でユダヤ人は差別され、命の危険にさらされることとなったのです。

これが本当に大雑把な、ユダヤ人がその歴史的背景から差別されることになって来た経緯のまとめです。
こんな複雑で根の深い問題を含んだ、この映画だということでした。

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ユダヤ人とアメリカ合衆国・ハリウッドの関係の解説
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ここからは、そんな迫害されてきたユダヤ人とアメリカ社会、そしてハリウッド映画との関係を語りたいと思います。
実を言えばこれまでの文章は、この部分を書くための前段でした・・・・もうチョットおつきあいください。

そんな差別の激しいヨーロッパから脱出したユダヤ人がアメリカに渡った訳ですが、アメリカ独立戦争の前にはすでに多くのユダヤ人が暮らしており、ワシントンの下で独立のために銃を取り参戦したそうです。
その後1820年から1870年頃までに、ドイツからやって来たユダヤ人たちも上手くアメリカ社会に溶け込み、アメリカ産業界でも綿花、銀鉱、金鉱、鉄道、土地投機、ウォール街など主要産業の担い手となりました。
しかし、1880年代初頭アメリカ・ユダヤ人社会史上に決定的な転換期が訪れたのは、大量の東欧ユダヤ人がアメリカに流入したことでした。
その東欧ユダヤ人たちは、教育が低く、英語もしゃべれず、貧しく、独特のユダヤ文化を堅持したため、アメリカ社会の中でも奇異な集団とみなされてしまいます。
しかも、遅れてきたユダヤ人達にとっては、アメリカで生きるための仕事は、人々が嫌がってやらない仕事か、あまり儲かりそうもない仕事しか残されていませんでした。

実はその残り物の仕事の一つが、映画産業だったのです。
当時の娯楽は、格式高い劇場舞台劇が王道で、映画はいかがわしいキワモノ、で、貧しい人々の安っぽい娯楽でした。
その先の見えない産業に積極的に参加していったユダヤ人は、なんとハリウッド・メジャーの内「MGM」「20世紀フォックス」「ワーナー・ブラザーズ」「コロンビア映画」「ユニバーサル映画」「パラマウント社」を創業することになります。
そして、ハリウッド映画と同時に世界に広まったのがメークアップ技術であり、その世界初の化粧品会社「マックスファクター」の創設者もユダヤ人のマックスファクター1世でした。
マックスファクターは、それまで役者と売春婦ぐらいしかしなかった化粧を、映画とともに一般庶民に広めていった化粧品業界のパイオニアです。

そんなわけで、ハリウッド映画とその文化はユダヤ人たちが確立したといっても過言ではありません。
更にユダヤ人たちは黎明期にあったアメリカマスコミ界に進出し、ラジオ・テレビ放送、新聞・雑誌、情報・通信産業の担い手になったのです。

長文お付き合いいただき有難うございました。
ここまでハリウッド映画とユダヤ人が密接に絡み合っていることにビックリしたもので、整理する為に書いてみました。

同時にこの映画「紳士協定」こそ、ユダヤ人がハリウッド映画を使って、正面から「ユダヤ人問題」を描いた、最初の一本となります。
それはまた、その後の「ホロコースト」などのユダヤ人の苦難を扱った、ハリウッド映画の最初の一本でもあります。

更に付記すれば、ハリウッド映画界は1933年から39年の間、ナチスドイツを批判する映画を作りませんでした。
そのいい例が『チャップリンの独裁者』であり、この映画を作らせないようにハリウッド映画界は様々の圧力をかけたといいます。
戦争前にドイツという映画マーケットを失いたくないという商業的利益を優先したとか、ドイツと政治的な対立を強めたくないというアメリカ政府の意向や、更に反ユダヤ思想がアメリカ国内で強まっていた時期だったという、様々な状況が反映された結果の、ハリウッド映画界の判断だったようです。
結局そんな事なかれ主義がナチスの力を強くし、ついにはアウシュビッツに至る道に通じたことを考えれば、ハリウッドのユダヤ人にも同胞に対する贖罪の念が生じたのではないでしょうか。

この「紳士協定」の作られた1947年とは第2次世界大戦の2年後であり、そんな反省に立ってユダヤ人を救う映画をハリウッドが作ろうとしたというのは、いささか強引な意見でしょうか。

しかし、これだけアメリカのメディア界を占めるユダヤ人の意思がその作品に影響しないはずはありませんし、この後もユダヤ人の苦難を描いた映画は『ソフィーの選択』『シンドラーのリスト』のごとく、毎年のように公開される事を考えると、少なくともユダヤ人に対する同情心を映画を通じて世界に広めているのは、事実ではないでしょうか。


同時期に、ロマ(ジプシーの事、ジプシーは今蔑称で使わないそうです)の人々も、ユダヤ人同様のホロコーストを経験しているにも関わらず、言及されないのも納得いかないモノがあります。

更にいえば、そのユダヤ人の国イスラエルが、2015年現在パレスチナ難民を苦しめているという事実が、ハリウッドを通じて映画表現されることはあるでしょうか・・・・・・・それが成されなければ、公共の伝達メディアを勝手に私物化していると言われても、仕方がないと思うのです。


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posted by ヒラヒ at 20:52| Comment(7) | TrackBack(0) | アメリカ映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんばんは〜|д゚)勉強させられる💦ハリウッド映画とユダヤ人・・いい事知りましたわ〜「ソフィーの選択」はトラウマになりそうで観れません・・・
Posted by ともちん at 2016年07月13日 21:13
>ともちんさん

長いのに読んでいただいてありがとうございますm(__)m
ともちんにホメてもらえた記事は、良い記事だと思ってます(^^)
「ソフィーの選択」はキツイっすよ(xx;
Posted by ヒラヒ・S at 2016年07月13日 21:19
げげ!リンク失敗したのでちゃんと貼ります💦( ;∀;)←こだわり・・・
Posted by ともちん at 2016年07月13日 22:19
ユダヤによるハリウッド支配の歴史・・・
まさかまさかの話でしたね〜驚きました。
「MGM」「20世紀フォックス」「ワーナー・ブラザーズ」「コロンビア映画」「ユニバーサル映画」「パラマウント社」を創業したとは・・・驚愕ですΣ(゚Д゚)
Posted by いごっそ612 at 2016年07月14日 07:07
>いごっそ612さん

ユダヤ人恐るべしですね。あの人たちは基本お金儲けメインで考えるようですが、それでもユダヤよりの表現にアメリカの表現物は偏っているようにも思います・・・
Posted by ヒラヒ・S at 2016年07月14日 14:22
こちらの記事に
>監督エリア・カザンがユダヤ人であったことが
と記事に書かれてますが。
エリア・カザンは、ギリシャ系の移民ですが、ユダヤ人ではありません。
原作権を買った、20世紀フォックスのプロデューサーのダリル・F・ザナックがユダヤ人です。
Posted by さとるだよ at 2023年06月24日 20:46


>さとるだよさん

コメントありがとうございます!
確かにおっしゃる通りでした。移民というイメージがあって、ユダヤ系東欧移民かと誤認しておりました。
本文は訂正させて頂きます。
Posted by ヒラヒ・S at 2023年06月30日 09:19
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