評価:★★★ 3.0点
この映画は、なんというか、え〜と、上手いことやったなというか、ズルいことやったな〜という気がします。
ジャック・フィニーというSF作家の原作を元にした、1956年のこの白黒映画は、見ようによってはゾンビの遠〜〜〜〜い祖先のような作品です・・・・・・・・・
『ボディ・スナッチャー』あらすじ
ある町の警察に錯乱状態の医者が拘束されており、その男の回想という形で物語が始まります。
その医師が語るには、自分のいた町で顔かたちは一緒なのに、どこか違和感があるという相談があちらこちらからあり、医師が訪ねてみると普通なのですが、家族から見れば微妙に異なるというのです。
そして、その見た目は変わらない、でも『違う何者』かがどんどん増えていき、主人公とその彼女にも危機が迫り、その危険を伝えるために町から脱出しようとする物語です。
(原題INVASION OF THE BODY SNATCHERS/製作国アメリカ/製作年1956/上映時間80分/監督ドン・シーゲル/脚本ダニエル・ワーリング、サム・ペキンパー/原作ジャック・フィニー)
『ボディ・スナッチャー』感想・解説 |
このスリラーというかホラーというか、ともかくこの映画で描かれるのは、いつも見ている人間なのに、見ず知らずの何者かも知れないというのは、本当に形而上的な哲学の命題ですらあります。
つまりは、あなたが知っていると思っている人は、本当にあなたが思っている通りの人なのかナンテ・・・
恐いでしょ?
更に突き詰めれば、あなたは本当にあなたなのかなんて、訊かれただけでアイデンティティの崩壊を招きかねない領域に、足を踏み込んじゃうぐらいのモンデス。
さらに、つまらない事を言えば、この当時のアメリカはマッカーシズムという、共産主義者の社会追放というのがありまして、当時の共産主義者というのは大多数のアメリカ国民からすれば、それこそゾンビみたいに忌み嫌われていた存在でして、この映画にも色濃くその雰囲気が反映されていると思います。
つまりは、私の彼が共産主義者だったらどうしよう、更に共産主義者に町を乗っ取られたらどうしよう、ナンテコトかと。
しかし、そんな背景を抱えつつも、この映画はハッキリ言っちゃいますが、ただの子供だましです。
後年になって、クリント・イーストウッドと「白い肌の異常な夜」「ダーティーハリー」何て、映画史に残る名作も残し、イーストウッド自身も恩人だと持ち上げるもんだから、名監督のように思えますが、実はドン・シーゲルB級の職人監督です。
そもそも、クリント・イーストウッド自体が、B級のスターだったんですから、B級同士が手に手を取っての出世道だったわけです。
まーそんな監督ですから、そもそもこの映画もヤッツケ仕事なのは明らかで、撮影がたった20日で、予算が$40万ドルっていうのは、いくらなんでも・・・・・
この年の映画にジェームズ・ディーンの『ジャイアンツ』がありますが、予算が540万ドルって、可哀想なぐらいの格差です。
さすがに、ハリウッドの大スターがそろい踏みの映画と較べちゃ可哀想ということで、SF『禁断の惑星』と較べてみましょうか、この「ロビー」というロボットで有名な映画も、正直スターも出てないB級映画ですが、ナント$190万ドルでした・・・・・・
ドン・シーゲル大丈夫か?
しかし!この文章の目的は、この映画がB級のヤッツケ仕事で、子供だましなSFスリラーだという事を言いたいのではありません。
逆に、このB級の、ヤッツケ仕事で、子供だましなSFスリラー映画が、しかも特殊撮影もほぼスッカスカの、チープなこの作品が持つ、迫力と恐怖感は何事かというのがメイン・テーマです。
じっさい、今の特殊撮影たっぷりの映画に較べれば、映像的なオカズの少なさは否めません。
むしろ、昔懐かしい、オカズは梅干一個のみの「日の丸弁当」を思い浮かべていただいたほうが良いかと思います。
しかし!
映画の主食とは何だったでしょうか?
ドラマとしての強さとは何だったでしょうか?
人は何に感動するのでしょうか?
それは、しっかりとした脚本に基づく、その主題に見合った俳優の的確な演技と、監督の力ある演出力に有るのではないでしょうか!
そして、この映画には、金が無くとも、スターが出なくとも、ヤッツケだろうと、決して揺るがない基礎的な力を持った一本だと、私は信じます!
それは、特殊撮影の技術が無いがゆえに、何も無い恐怖に向かって体一つで表現してやるという、この映画の基礎力に感動したのです!
このヤッツケ仕事が見る者の心に、恐怖を生み出せるとしたら、それは間違いなくドン・シーゲル及びハリウッドが持っていた、TV出現前の黄金期の映画界の底力が有ったからだったでしょう。
そして、この映画を子供の頃に見たであろう人たちが、成長して映画監督になってこの映画のオマージュのような作品を作っているのは、それだけインパクトをあたえたという証拠でしょう。
正直、今時の、たとえば「エイリアン」なんぞを考えたら、とっても見るに耐えない「SF映画」です。
でも90分ぐらいですし、スカスカ具合に笑えるかとも思いますし、人間オカズが無くとも何とかご飯をたべるもんだな〜と、その工夫に感心もできます。
結局スピルバーグが、「ジョーズ」は今の特殊撮影の技術があったら「ジョーズ」を見せすぎて、決してあの恐怖を生み出せなかったと言ったそうですが、この映画もそれと同様の「恐怖の対象の不在」によって、恐怖を作り出すという古典的なホラーの伝統に則っているように思います。
そういう意味で、見せないコトの重要さを確認できる一本として、上手いことやったな〜デス。
または、見せるものも見せないで、ジラすだけジラして、巧くやったな〜という映画でもあります。
考えてみれば低予算の映画って、一にエッチ系、二にホラー、三四がなくて、五にSFと相場が決まっているような。
共通するのは、刺激的ですよ〜興奮しますよ〜と期待させといて、結局なにも見せないという、サギ行為ギリギリの内容でーーー
そういえば、これってボッタクリ・バーと同じシステム?
どうりでこの映画、予算$40万ドルで何と$300万ドル稼いじゃってます!ヤッタネ、ドン!!
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これは1956年の古〜い映画ですので、今見るとギャップが凄いです。??「ETで泣かない人は人格疑う」と言う言葉を疑います」(^^
いや~やはり知識が豊富!勉強になります!白黒映画はさすがに観てません・・(^^;
おほめいただき、ありがとうございます。
イーストウッド、アメリカで仕事が無くて、イタリアに出稼ぎして「荒野の用心棒」に出たぐらいですから・・・・今で言えば、ディーン・フジオカみたいな(^_^;)この映画は、パラノーマル・アクテヴィティの原型みたいなものですm(__)m
A級の予算で退屈な文芸映画を撮ったジョージ・スティーブンスなんかよりも、少ない予算で第一級の娯楽映画を撮りまくったドン・シーゲルの方が遥かに偉大な監督だという理解は誰でも出来ると思うのですが。あなたのように見る目の人ばかりで残念です。
大金をドブに捨てて駄作を撮るよりも、いかに限られた予算で質の良い作品を撮るか。
十人の怒れる男、ローマの休日、スピルバーグの映画、これらはすべて少ない予算で研鑽を重ねた名作です。
今のイーストウッドがあるのも、限られた予算で傑作を連発したシーゲルのような名匠がいたからこそです。その辺をよくわきまえておいて下さい。
>見 る 目 の 無 い
>十二人の怒れる男
でした
初めてコメント頂いたでしょうか?
ど〜も拙文のせいで上手く伝わってないようで、残念に思います。
”この映画には、金が無くとも、スターが出なくとも、ヤッツケだろうと、決して揺るがない基礎的な力を持った一本だと、私は信じます!
それは、特殊撮影の技術が無いがゆえに、何も無い恐怖に向かって体一つで表現してやるという、この映画の基礎力に感動したのです!
それは間違いなくドン・シーゲル及びハリウッドが持っていた、TV出現前の黄金期の映画界の底力が有ったからだったでしょう。”
私は、ドン・シーゲルを褒めてるつもりです。
難しいのは、今この映画を初めて見る人たちに、どう魅力を伝えるかで、たとえば今の若者が見れば、刺激たっぷりの映画を既に見ているので、こんなスカスカな映画という印象を持たれるのではないかと思うのです。
それに対して、あの手この手で時代背景や予算の件を含め、規制のなかでも確かな技術を持っていれば、優れた映画ができると書いたつもりです。
上手く伝わらなかったならば、文章の未熟さゆえで申し訳無く思います。
そうですね、古典というとどうしてもその後に生まれた世代にはとっつきずらい作品になってしまいますね。伝え方というのは難しいものです。
御無礼いたしましたこと、誠に申し訳ありませんでした。
こちらこそ、拙い文章で申し訳ありませんでした。
「12人の怒れる男」が低予算というのは、勉強になりました。ヘンリーフォンダだけで、相当の金額を貰っていると信じてました(笑)今後も、お気づきの点があればご教授下さい。