評価:★★★★ 4.0点
ア〜ッ、そうだったのか!
私が馬鹿だった!
イヤ〜実際のところ最初に見はじめた時は、この映画は長〜くてタルくて、途中で飽きて眠くなってきました。
何せ、最初の20分ぐらいが、主人公パイの子供のころの話で、そこから船の難破シーンまでまた10分ぐらいあるでしょうか。
そこでようやく、虎との漂流の物語となるわけですが、何せ登場人物はパイ少年と虎の一人と一匹だけで1時間以上海の上の漂流シーンなわけですが・・・・・・これが持たない・・・・興味が維持できないという・・・・・
帰れるのかとか、餓えとかイロイロ問題もあるし、FXを駆使した映像はホントに美しく芸術的なんですガ・・・・・・・
その映像に一瞬ハットはさせられるものの、正直その映像のイメージがストーリーとの関連が希薄なような気がして、結果的に興味が続かないという・・・・・・・
で、ヤレヤレようやく終わりかツマンナカッタと、思ったその時に―
そつっかぁぁぁ〜!
この最後10分で、今までの映像・イメージの意味が「逆転」して私に襲いかかってきました!
そつっかぁぁぁ〜!
伊達にアカデミー賞をもらっちゃいないッス!
そつっかぁぁぁ〜!
ミンナ、あきらめるな!
がんばって最後まで見よう!
そこにカンド〜が待っている!!
ということで、思わずもう一度見直したレビューが、ここから始まります。
内容に合わせて真面目に書かせていただきますが・・・・・・これ以降は一度映画を見てくださってからの方が、よろしいかと思います。
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以下ネタばれがありますご注意ください
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この映画は、二つの物語を持っている。
一つは、映画の語る順序に沿った幻想的ストーリーであり、それは主人公パイが4匹の動物と漂流し、最後はパイとベンガルタイガーと太平洋を漂流したという物語だ。
もう一つは虎との漂流の話が終わった後にに語られた、また別の話であり、それは4人の人間が漂流をし、結局最後にはパイだけが残ったというものだ。
このあとに語られた、現実味の高い物語は、パイが人肉を食べながら生き永らえたという事を意味するだろう。
そしてこの現実的なストーリーに基づいて、再び虎との漂流の物語を解釈し直した時に、初めてこの映画の語ろうとしている本質が見えてくる。
しかし、この二つの物語の、どちらが真実だったかが語られることはない。
たぶん、人が生きるというのはそういうことなのだろう。
この主人公パイが生きるためには、この両方の物語を必要としたということだ。
パイの回想の冒頭で、自らの本当の名前がピシンと名付けられ、それはインドでは小便を意味したため、その名前をパイに代えたと語り、更にその際は正確な円周率を暗証したと話される時、この主人公は子供のころから意志的で聡明で有った事を示している。
更にインドで成長していく中で、様々な宗教に興味を持ち、ヒンドゥー、イスラム、キリスト教の全てを受け入れ、同時に疑っているとこの主人公が言うのは「宗教」を信仰としてではなく、理論として客観視していることを語っているだろう。
そもそも、絶対者たる神を奉じる宗教を、複数比較すること事態が論理矛盾であり、結局この主人公は宗教を敬虔に信奉するには、理性的過ぎるのであろう。
そう考えたとき、この主人公が意志的で優れた知性を持ち、そして何より理性的だとこの映画は伝えている。
そんな理性の強い人格にとって、食人や、死の恐怖、絶望するとは、どういう経験だろうか?
全ての生物は、生きる上で不安を持たざるを得ない。
それは、命を維持するための食物が、地球上の絶対量として十分に供給されていないからだ。
この食物連鎖のシステムは、一時食料が爆発的に増えたとすると、その捕食側の生物種も増加する。
そして結果的には、増えた捕食者が食料の需要を増大させるので、食べるモノと食べられるモノの均衡点で落ち着く事となる。
それは最終的に、捕食者側がギリギリ生きられる状態となって安定する。
つまりは生物は、常にギリギリの状態で生命を維持することを運命付けられているという事だ。
それはこの映画の難破船における、捕食者と被食者の関係と共通する、厳しい自然の摂理だ。
その捕食―被食の関係、生存し得るか否かの運命は、すでに人智や個人の能力の問題ではないだろう。
それは、その環境内における微妙な作用によって決定付けられる、偶然と気紛れの残酷な生と死のルーレットにすぎまい。
つまりは、この主人公のパイ少年のように、優れた知性や理性を持ってしても打開できない厳しい環境があり、その現実の中では人ができることは運命に身を委ねることだけだったろう。
そして結果的にパイ少年は生き延びた。
しかし、そのためにはボートという環境内で、自らの命を維持する為にありとあらゆる事を経験しなければ不可能だったろう。
それは、人間としての善悪などを超越した自然界の冷厳な「理」であったはずであり、人の理性によってコントロールなど到底出来ない、過酷な恐怖と苦悩の連続だったろう。
そしてしばしば、理性が強い人間ほど、その下に強い情動を隠し持つものである。
平常な時であれば強い理性を持って対処すれば、大概の危機は切り抜けられるのでパニックに陥ることも無い。
しかし非常時の危急存亡の極限状況で必要とされるのは、理性というより生存本能による反射的対応力である。
そんなパイ少年の理性がハジけ飛んで、隠されていた激情を伴った本能の発露が、どれほどの爆発力であったかと考えると慄然とする。
それは自分では無い何者かが、暴れ狂っているとしか思えなかっただろう。
その時、パイ少年はさながらデェジャビューの如く思い出したはずだ、インドの動物園で虎が生きたヤギを襲うところを―
そして、理性的な人間としてのパイが、本能の虎となって荒れ狂うパイを、客観的な第三者のように眺めていただろう。
こうして人間パイを最大限守りながら、生存本能の化身・動物パイを虎として解き放つことが可能になった。
人間パイからすれば、虎の所業は許されざる行いだったろうが、それが生きるということの本質だと苦悩と共に思い知らされたはずだ。
人間にとって生き抜くことが地獄のような環境において、現れた「命の化身=虎」を恐れながらも求めざるを得ないという心理状態であれば、ついには虎の超絶的な存在を「神」と見なしても不思議はあるまい。
そうこの映画は、人が神を信じる瞬間、宗教が生まれる過程を描いている。
ただ、ここで間違えてはいけないのは、このパイにとっての神、宗教が、一神教のそれではないということだ。
例えばイスラムやキリストの、万物を創造し管理する絶対者としての神をパイが見出したとすれば、このボートにおいて彼は生き残れなかった。
なぜなら、彼は生きるために生存本能の怪物になる必要があり、それをトラという形で置くことで、自らの人格を崩壊させずにすんだ。
しかし、実際はボートで行われた「殺戮=生存競争」以外にも、大自然の海の気分しだいで命の危険が迫る環境にあった。
この人知を超越した大自然を平穏に過ごすためには、この荒ぶる地球を統べる神をも必要としただろう。
それは、虎よりももっと大きな神であり、その超越者に祈ることだけがパイにできる海と己の心を鎮める、唯一の方法となったはずだ。
そういう意味でこの映画で語られているのは、多神教のプリミティブな神を描いているように思う。
であればこそ、海中の生物、自然現象、宇宙などが全て神の御姿として、パイを慰め得たのだ。
多神教の一神としてこの虎も、日本の八百万の神々のように、どこか人懐っこく悪戯好きで、人間くさい性格を持っていると感じる。
そう考えてきて、この航海を供にした虎が去っていくとき、さよならを言えなくて悲しかったと主人公がいうのも分かるのだ。
多神教における神とは、荒ぶる存在であると同時に、道化であり、友であり、そして畏敬すべき存在だ。
なぜならその神は、この映画で描かれているように、人間の限界を超えたときに現れる別人格、超越者であってみれば、すなわち人間として許されない感情や所業の穢れや悪を、己に成り変わって清めてくれる存在として現れる。
この主人公は、悪逆なる神として存在してくれたこの虎がいなければ、自分が生き延びられなかったと知っていたがゆえに、もう一人の自分に対峙し感謝と謝罪の言葉を告げたかったのであろう。
結局、人間はかくも過酷な環境で生きられるようには作られていない。
その人が生存不可能な場所を生き抜くとしたら、それはもう人間を超越した別の何かである。
そんな、人と運命の厳しい相克の果てに、神を見出し、宗教・信仰が誕生するのだという「祈りの起源」を、見事に捕らえていると感じた。
この「虎=神の物語」と「現実らしい物語」のどちらかを選べといわれて、小説家も保険調査員も「虎=神の物語」選んだのは、全ての人類が過酷な環境下においては「神」を見いださざるを得ないという証拠だったろう・・・・・・・・・
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−という訳で、ホンといい映画だと思うんですけど・・・・・・
ヤッパリ、最後に語られるもう一つのストーリーから始めてほしかった。
そうすれば、全ての映像が有機的にドラマに連関し、よりダイレクトに見る者の心に響いたと思うんでス。
眠くならずにすむし・・・・ということで☆一つなくしました。
関連レビュー「スラムドッグ$ミリオネア」
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ラストは鳥肌が立ちましたよ!
ブログ色々試してますね~アクセスはどうですか?
一か月後が楽しみですね!
これは深いですよね〜しかっし、危なく深い眠りに落ちそうにもなりました(^^)
ブログ、いごっそう師匠を参考にさせていただいてますm(__)m
ホント、もう止めようかと思っていたところで、もう少しがんばってダメだったら、本当に止めちゃうかもしれません^^;
奥は深〜〜〜〜い映画だと思います。
キレイな映像です。
監督が「ブローバック・マウンテン」の人です。
「The49」は無事にお済になられてm(__)m