2016年07月01日

映画『寒い国から帰ってきたスパイ』東西冷戦時代のスパイ/あらすじ・感想・解説

冷戦時代のリアリティ



評価:★★★★   4.0点

この映画もスパイ映画としては古典的な作品となってしまいました。
東西冷戦時代の、閉塞感に満ちたスパイたちの息を殺したドラマが展開されます。

film1-red-ue.jpg

『寒い国から帰ってきたスパイ』あらすじ


東西冷戦下のベルリン。イギリス諜報部の連絡員リーメックが射殺され、ベルリンの諜報活動の現地指揮官リーマス(リチャード・バートン)はロンドンに呼び戻された。ベルリンでの事件は、東ドイツ諜報機関の黒幕ムントの命令によるものだと知る。リーマス(ペーター・ファン・アイク)は管理官(シリル・キューザック)からイギリス諜報部を解雇され、酒に溺れるようになる。再就職先に図書館の整理係の職を選び、そこで働くイギリス共産党の党員ナンシー(クレア・ブルーム)と恋に落ちる。しかし、荒れた生活は相変わらずで、リーマスは酒を求めて入った食料品店の店主を殴り、警察に逮捕される。釈放されたリーマスはナンシーと再会し、更には東ドイツの諜報部の協力者と接触する。
マークスは諜報部のスマイリー(ルパート・デイヴィス)の自宅に向かい、そこで管理官と密かに接触する。
管理官と諜報部解雇を偽装していたマークスの目的は、東ドイツの諜報部にスパイとして迎え入れられる事だった。東ドイツ諜報部に受け入れられたマークスは、東ドイツ諜報部の黒幕・ムントの失脚を目指して二重スパイとして活動を始める。


film1-red-ue.jpg

『寒い国から帰ってきたスパイ』出演者


アレックス・リーマス(リチャード・バートン)/ナンシー・ペリー(クレア・ブルーム)/フィードラー(オスカー・ウェルナー)/ピーターズ(サム・ワナメイカー)/ジョージ・スマイリー(ルパート・デイヴィス)/弁護士(ジョージ・ヴォスコヴェック)/管理官(シリル・キューザック)/ハンス=ディーター・ムント(ペーター・ファン・アイク)/アッシュ(マイケル・ホーダーン)/ディック・カールトン(ロバート・ハーディ)/パットモア(バーナード・リー)


film1-red-ue.jpg

『寒い国から帰ってきたスパイ』感想・解説



もともと『スパイ物語』の起源は、イギリス探偵小説の系譜を引くもので、イアン・フレミング原作の「007」だって、この映画の原作者ジョン・ル・カレだって、基本的には小説として発表しています。
例えば映画の「007」のようなドンパチ、ドっかん、バッカンというお話では有りません。

本来はもっと、ストーリーとしての複雑さとか、サスペンスで勝負するのが「スパイ小説」の王道です。
この映画は、そんな「スパイ小説」の伝統をそのまま「映画」に置き換えているのがミソです。
原作の持つ、重く陰鬱な世界観をそのまま映画化しているところも、そんな『伝統』を引き継いでいると感じます。

正直言って、白黒映画の効果もあって、くらーく陰鬱なこの世界観は、今見ると相当息苦しく圧迫感すら感じます。
しかし、思い出してみれば、アメリカ合衆国とソヴィエト連邦が、世界を何十回も絶滅させられるほどの核爆弾を携えながら、お互いに睨み合っていた政治状況下にあっては、まさにこの映画の閉塞感こそが当時の真実だったのではないでしょうか。


それはまさに、抗争の渦中にある暴力団同志の、殴り込み前の緊迫感が全世界を覆っていたようなものでした。

考えてみれば、そんな一触即発の状態で、ドンパチやればあっという間に全面戦争に成りかねませんから、「007」とこの映画のどちらにリアリティがあるかは明らかでしょう。

つまり、この映画はエンターテーメントとして撮られたのではなく、東西冷戦の異常な緊張状態をリアリティを持って描き出し、そんな現実を生きる、当時の人々の悲劇的な世界を告発するための作品だったのでしょう。
その意識を反映して、イギリススパイと東ドイツスパイとの暗闘は、緊張溢れるスリルに満ちたものです。
この誰も信じられないという物語自体も、相互不信に陥っている当時の世界を反映していると感じます。
そういう意味で当時の時代の雰囲気を、今に伝える歴史的な作品であるように思います。

しかし、この映画が持つ雰囲気はスピルバーグ監督の『ブリッジオブスパイ』と本当によく似ています。
たぶんスピルバーグは、冷戦時代の参考として、この映画の世界観を相当研究したのではないでしょうか。


実は『ブリッジオブスパイ』に、この映画とそっくりの、コーヒーに何を入れるかというやり取りが出てきますが、これはスピルバーグがこの映画に対して挨拶を送ったものだと思いました。

いずれにしても、現代の巨匠が参考にするぐらいの映画です、一度確かめてみてはいかがでしょう?

ア〜そうそう、ドンパチはないんですけど、その代わり俳優陣が繊細な演技で魅せてくれます。
主演のリチャード・バートンはイギリス版アカデミー賞・主演男優賞を獲得していますし(アメリカのアカデミー賞では男優賞にノミネートされたものの、なぜかキャット・バルーのリー・マーヴィンに取られちゃいましたケド)本当に迫力のある演技で、凄みがあります。

考えてみればアクションに頼れないと、役者の演技が問われるのは、今も昔も変わらない真実ですよね?


スポンサーリンク
posted by ヒラヒ at 19:40| Comment(4) | TrackBack(0) | イギリス映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんばんは😅スピルバーグって1941の監督さんですよね。へ〜これはけっこう重たそうですね〜。
Posted by ともちん at 2016年07月01日 20:42
>ともちんさん
どーもありがとうございます。忙しいンですから( ̄0 ̄;
49日は戦争だ!!落ち着いたら、またゆっくり(*´-`)
Posted by ヒラヒ・S at 2016年07月01日 21:01
題名がB級映画っぽいけど、なかなかの濃厚な良作みたいですね!
おっしゃるように、ブリッジオブスパイはこの映画を参考にしたのかもしれませんね(*‘∀‘)
かーなり色々な映画を観てますね!
参考になります!
Posted by いごっそ612 at 2016年07月01日 21:15
>いごっそ612さん
ありがとうございます(^^)地味な映画ですけど、リアルな映画です。映画に時代が映り込むことがありますが、これもそういう映画だとおもいますm(__)m
Posted by ヒラヒ・S at 2016年07月01日 22:25
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス: [必須入力]

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック