評価:★★★★ 4.0点
この作品を見てみれば、安定した力量で、見るものを肉親の情で溺れさせるほどの力があると感じる。
この映画で語られる別れのシーンは、人が誰しも持つ肉親の情に訴えかける強い力を持つ。
その悲しみが、吉永小百合と笑福亭鶴瓶の熱演によって、人情話としての高い完成度を持って迫ってくる。
じっさい、この映画は近親者との別離を経験した者には、本当に身に詰まされる映画だ。
ストーリーは、笑福亭鶴瓶演じる弟はいつも問題ばかり起す一家の嫌われ者だが、子供のころからシッカリ者の姉(吉永小百合)がなにかと庇い、姉の世話になって生きてきた。
しかし、姉の娘(蒼井ゆう)の結婚式で酒によって暴れてしまい、その結婚が破局に至る原因の一端を作ってしまう。
この自由奔放で、だらしない、そんな弟を姉は庇いながらも、度重なる不祥事に、ついに縁を切ると弟に伝える。しかし音信不通となって数年経ったとき、弟が救急車で病院に運ばれたという連絡が入り、姉は弟のもとに向かうが・・・・・・という物語だ。
この映画は、肉親の情を語って欠ける所が無いと感じるが、その肌触りは「男はつらいよ」に酷似していると感じた。
この笑福亭鶴瓶の演じるおとうとが、そのまま「車寅次郎」と同系のキャラクターであり、同時に吉永小百合の姉が「さくら」の生真面目な性格そのままなのである。
実際のところ、懐かしい「男はつらいよ」を再び見られたようで、正直嬉しかった。
しかしこの作品が「男はつらいよ」に対するオマージュだとすれば、この映画のエンドロール『市川崑監督「おとうと」に捧げる。』という献辞を入れたのは何故だろうという疑問を持った。
この映画は、根本的に市川版とは立脚点が相違していると感じる。
市川版「おとうと」は文学的な作品として、姉弟が相互依存的に不可避に結びつかざるを得ない二人であり、その弟の運命は、姉の運命をも変えうるものだと語られていた。
そして、必要不可欠な存在が喪われていく事に対する根源的な不条理を、映像の裂け目とも呼ぶべき表現で定着した映画だった。
その作品は市川監督が芸術家として挑んだ、研ぎ澄まされた一本であった。
しかし、この山田版の「おとうと」は、そんな市川版とは明らかに違う人情ドラマとして、語られていることはすでに述べた。
山田監督にしたところで、オリジナルの作品と自身の作品スタイルの違いは、十分知悉しているはずであるのになぜことさら『市川崑監督に捧げ』なければならなかったのかと、いろいろと考えざるを得なかった。
この映画としての質の違いを考え、市川版と山田版の共通点を考えていたときに、一つの可能性に思い当たった。
それは、「男はつらいよ」の兄妹とは、市川版「おとうと」の姉弟をその原型にしているのではないかという推測である。
もしそうであるなら、この山田版「おとうと」を見たとき「男はつらいよ」の世界観が表現されているのも頷ける。
同時に、この市川版「おとうと」に姿を借りて、山田監督は「寅次郎」の最後を看取ってやりたいという思いがあったのではないかと想像した。
そうであれば、この映画は「男はつらいよ」の原型を供給した市川「おとうと」に対する感謝と、「車寅次郎」に対する惜別を描いたものだったろう。
山田監督の情の厚さを感じる、一本ではある。
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鶴瓶さんは、ホントにナチュラルな演技で、素なのかと思うぐらい自然な役者だと思いますね・・・・トコロデ、実はワシは130歳なんぢゃ。ふぉふぉふぉふぉふぉふぉ
笑福亭鶴瓶や脇を固めるキャストも良かったです。
確かに「男はつらいよ」に雰囲気とか似てますよね〜
ど〜もありがとうございます。人情話を描かせれば、上手い人ですよね〜(^^)そのうち、笑福亭鶴瓶で「男はつらいでぇ」なんて撮りそうですね。