2016年06月13日

映画『小さいおうち』小さい家と大きな国家/あらすじ・感想・解説・意味・評価

小さい家と、大きな家



評価:★★★★    4.0点




この映画を見て、戦前の姦通の罪や、厳しい道徳律の中で密やかに交わされた不倫劇だとすれば、ラブ・ストーリーとして作り上げたならば、相当力のあるものになっただろうと感じた。

しかし、そうはなっていない、その理由を語ろうと思う。

中島京子による小説、第143回直木賞受賞作『小さいおうち』を原作として、山田洋次監督によって映画化されたのが今作品。
黒木華はベルリン国際映画祭最優秀女優賞(銀熊賞)を受賞している。

『小さいおうち』あらすじ


物語は、黒木華演ずる女中タキが、東京郊外にある赤い三角屋根の小さな家で働いていた時の回顧談として語られる。
昭和11年に田舎から出てきたタキは、松たか子演じる女主人・時子一家と暮していた。戦時中とはいえ、穏やかな日々を過ごしていたが、吉岡秀隆演ずる板倉という青年が現れたことで、時子と板倉はお互い好意を持ち始める。その恋を見守るタキの思いも揺れ始め、ついには一つの秘密を持つにいたる。

『小さいおうち』予告


(製作年 2013/上映時間136分/監督 山田洋次/脚本 山田洋次・平松恵美子/原作 中島京子:小さいおうち)

『小さいおうち』出演者

松たか子(平井時子)/黒木華(布宮タキ:昭和)/片岡孝太郎(平井雅樹)/吉岡秀隆(板倉正治)/妻夫木聡(荒井健史)/倍賞千恵子(布宮タキ:平成)/橋爪功(小中先生)/吉行和子(小中夫人)/室井滋(貞子)/中嶋朋子(松岡睦子)/林家正蔵(治療師)/ラサール石井(柳社長)/あき竹城(カネ)/松金よね子(花輪の叔母)/螢雪次朗(酒屋のおやじ)/市川福太郎(平井恭一:少年期)/秋山聡(平井恭一:幼年期)/笹野高史(花輪和夫)/小林稔侍(荒井軍治)/夏川結衣(荒井康子)/木村文乃(ユキ)/米倉斉加年(平井恭一:平成)


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『小さいおうち』感想・解説


この映画を見た最初の印象は、冒頭でも述べた通り、恋愛物語にしては恋の切実さが感じられないというものだった。
なぜかと思い、再度見直したときに、その責任は吉岡秀隆演じる恋人役が、恋愛劇の二枚目としてのオーラを発していないためだと感じた。

それでもなお恋愛物語だけに収まらない細部に、気になる点があって3度目を見たときに、この映画が語っている真のメッセージは恋愛劇ではなかったと、個人的には納得できた気がする。

けっきょく、この映画は「小さなおうち」に代表される、戦前の日本人の健気さ、純真さを表すために、現代であればメロドラマともならない「不倫」に、右往左往する姿を描いて見せたのだと解釈した。

だからこそ、吉岡秀隆や、黒木華の、地味で古風な風貌が、山田監督によって選ばれたに違いない。

そして、戦前の純朴な日本人を描くという視点にたって見返してみれば、「小さなお家」の「小さな秘密」に胸を震わせる登場人物達の心情が、まるで鼓動が伝わるような息遣いによって表現されていると感じる。
そして、この取るに足らない「秘密」を、死ぬまで持ち続けたタキの姿と共に、何と戦前の日本人は可憐であったことかと心に響く。

さらに、この「小さなおうち」に戦火が近づくとき、この戦前の人々のイノセントな「可愛い心」との対比として、大きな間違いを犯した日本国家の「罪」が浮き彫りになったのではなかったか。
それは戦前の日本国という「大きなうち」が、この純朴な「小さなうち」にすむ国民をどこに連れ去ったのかと問いかけているのだろう。

こう整理してきた時に、この映画の全ての要素は「日本人の善性と日本国家の犯した罪」というテーマに対して、ほぼ完璧に機能していると感じた。
そういう点ではこの映画の表現技術は、伝えたい内容をほぼ完璧に語りえているだろう。

『小さいおうち』評価


しかし満点にしなかった理由がある。
それは、映画技術の問題ではなく、映画の語っている内容に関して個人的に納得できなかったためだ。

それはこの映画で語られた、日本国家を加害者とし日本国民を被害者とする対比が、いささか硬直的であるように感じられたため評価を下げた。
時の政府・軍部が国民を騙して、戦争に駆り立てたというような歴史観は、一種紋切り型の説明として定着しているとも感じる。

確かに戦前日本には、この映画で描かれた純朴な日本人が存在したであろう。
だが、同時にその純朴な日本人が、国家と共犯関係をむすびつつ、一体になって戦争に突き進んだと歴史資料は示していると、個人的には考えざるを得ないからだ。
例えば右の本には、巷間「軍部の独走で戦線が拡大した」と語られる日中戦争は、国民世論が戦争を支持し、その軍部の行動を後押ししていたという、戦前日本人の一面が書かれている。


やはり個人的には、この映画に描かれた「純真な日本人」は、同時に一面「好戦的な日本人」でもあったことを認めないわけにはいかない。

歴史に何が起こったかを、事実を元に冷静に判断しなければ、将来に禍根を残すと思い、敢えて映画の完成度の高さを評価しつつも満点を与えなかった。

関連レビュー
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posted by ヒラヒ at 23:59| Comment(6) | TrackBack(0) | 日本映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんばんは!何か重いわ〜切ないわ〜(´・ω・`)さすが昔の話ですね。今みたいに何でもオープンにすりゃいいもんじゃないですね。小さいおうちの小さい秘密かぁ・・・・
Posted by ともちん at 2016年06月13日 22:20
>ともちんさん

基本不倫の話なんですけど、戦前は姦通罪というのがあって、家族親類筋ひっくるめて、後ろ指指されて、大変だったみたいですよ。
結婚するまで、男女交際禁止が当たり前だったということです。大変\(/ロ゜)/ですな
Posted by ヒラヒ・S at 2016年06月13日 22:31
この映画は、なかなか良かったですね。
吉岡秀隆、黒木華・・確かに地味かも(笑)
俳優陣も演技上手かったですね。
今は昔と違い不倫など多くなりました。芸能人も不倫しても復帰できますしね〜昔は考えられない事だったんだろうな〜。
Posted by いごっそ612 at 2016年06月14日 05:37
いごっそ612さん
映画、良かったですね。
女性の不倫はダメだけど、男の妾はいいという男尊女卑の世の中だったようです・・・・ブクマありがとうございます。
多少でも集客になれば・・・m(__)m
Posted by ヒラヒ・S at 2016年06月14日 09:42
そうかなぁ
私は、むしろ吉岡秀隆さんだからこそのリアリティだったと
思いますけどね。
実際、戦時中は地域性というか、空襲を受けてる所と受けてない所の差は歴然としてたと思いますよ。
これは、何となくですけど、東北の震災をどことなく他人事の様に感じてしまう西日本在住の人間の様な、それこそが、まさしく日本人のリアリズムですよ。
更に付け加えるなら、
時の政府・軍部が国民を騙して、戦争に駆り立てたというような歴史観、の様なナショナリズム的要素は、あまり感じませんでしたけどね。
実際に、山田監督も、そう語っています。
普通に、人間ドラマとして楽しむべき映画だと思います。
Posted by なおこ at 2016年06月14日 15:59
>なおこさん

はじめましてでしょうか?
コメントありがとうございますm(__)m

吉岡さんはよい役者さんだと、私も思います。
また、なおこさんのこの映画に対する感想は、なおこさんにとって真実だと思います。

それと同様、ここに書かせて頂いた私の感想も、私にとっての真実です。

映画というのは見る人の数だけ、違う映画が心の中で生まれるジャンルだと、私は思っていますので、ここでは私の中で生まれたこの映画に対する感想を書かせて頂いたものです。

なおこさんのコメントを読ませていただいて、真剣にこの映画と向き合っていらっしゃる様子が窺い知れて、この映画を愛する一人としてうれしく思います。

また、映画の話が出来ればうれしく思いますm(__)m
Posted by ヒラヒ・S at 2016年06月14日 17:56
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