2016年06月04日

映画『ブリッジオブスパイ』弁護士ドノバンもスパイだ!/感想・あらすじ・実話モデル解説・意味

スパイ仲介役の正体




評価:★★★   3.0点

題名の『ブリッジ・オブ・スパイ』とはスパイ交換が行われたグリーニッケ橋を指すのと同時に、スパイの橋渡し役という意味が込められているかと思います。
この映画の主人公、米ソ冷戦下の1950年から1960年代を舞台にソ連のスパイの弁護を、家族や自分の危険を省みず弁護を引き受けた、民間の弁護士「ジェームズ・ドノヴァン」です。
しかし彼を調べてみると、一民間人というよりは「スパイの橋渡し」という、隠された顔が見えてくるように思います・・・・・・・・・

『ブリッジオブスパイ』あらすじ


アメリカとソ連の2大国が敵対しあっていた冷戦下の1957年。
ニューヨークのブルックリンで、ルドルフ・アベル(マーク・ライランス)は、FBI捜査官にスパイ容疑で逮捕された。KGBのスパイであるルドルフ・アベルの裁判の弁護を依頼されたのがジェームズ・ドノバン(トム・ハンクス)だった。彼は、保険分野でキャリアを積み重ねてきた弁護士だった。そんなジェームズの尽力で、アベルは死刑は免れるものの、禁錮30年の有罪判決を受け収監された。
そんな時ロシア領内に入った、アメリカU2偵察機が撃墜され、パイロットのフランシス・ゲイリー・パワーズ(オースティン・ストウェル)がソ連側に捕らえられる。そして、米ソの全面核戦争さえ危ぶまれる中、両国の水面下の交渉によってルドルフ・アベルとU2パイロット・パワーズの交換が話し合われた。その交渉を政府から任されたのがジェームズだった。依頼を受けてベルリンに乗り込んだジェームスに、難問が降りかかる。西側スパイである大学院生フレデリック・プライアーが、東ドイツ当局に逮捕されてしまったのだ。ジェームズは、CIAの担当官がプライアーは諦めるという方針を受け入れず、アベルとゲイリー、プライアーの2対1の交換交渉を主張した・・・・・・・・・・

『ブリッジオブスパイ』予告




(原題 BRIDGE OF SPIES/製作国 アメリカ/製作年 2015/上映時間142分/監督スティーヴン・スピルバーグ/脚本ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン)

『ブリッジオブスパイ』出演者

トム・ハンクス(ジェームズ・ドノバン)/マーク・ライランス(ルドルフ・アベル)/スコット・シェパード(ホフマン)/エイミー・ライアン(メアリー・ドノバン)/
セバスチャン・コッホ(ウルフガング・ボーゲル)/アラン・アルダ(トーマス・ワッターズ)/オースティン・ストウェル(フランシス・ゲイリー・パワーズ)/ミハイル・ゴアボイ(イワン・シーシキン)/ウィル・ロジャース(フレデリック・プライヤー)

『ブリッジオブスパイ』受賞歴

第69回英国アカデミー賞:助演男優賞マーク・ライランス
第90回キネマ旬報ベスト・テン:海外映画ベスト・テン第3位
第88回アカデミー賞:助演男優賞マーク・ライランス

『ブリッジオブスパイ』アカデミー賞受賞式



プレゼンターはパトリシア・アークエット。
いずれも独創的で唯一の演技だったと語り、作品内容に触れノミネート者を発表
クリスチャン・ベイル(マネー・ショート華麗なる大逆転)/トム・ハーディ( レヴェナント:蘇えりし者)/マーク・ラファロ(スポットライト 世紀のスクープ)/マーク・ライランス(ブリッジ・オブ・スパイ)/シルヴェスター・スタローン(クリード チャンプを継ぐ男)
受賞者はマーク・ライランス
【マーク・ライランス 受賞スピーチ・意訳】
私はずっと、ずっと、いつも憧れていた物語がこれです。聞いて、見て、成りたかったもの。それは、私が思うに、同時代の最高のストリーテーラー、スティーブン・スピルバーグと仕事をする機会がもたらした栄誉だと思います。最近の指導者達と違って、彼はこの映画の全ての創造に巨匠として、愛を注ぎ導いてくれました。全ての創造に。そして多くを占める、トム・ハンクス氏。みなさん・・・・私は私の映画が何度もノミネートされていて大変喜んでおり、映画の顔として私は街で多くの人に会いました。その機会を楽しみましたし、いつも彼等は"何かお手伝い(help)しますか?"と私やスタッフに尋ねてくれました。そして、もしあなたがトム・ハンクスと演技するさい「何か助けて((help)くれるか」と疑問に思ったとしたら、私が思うに、答えは明らかに「はい」です。
私は仲間の候補者に感謝したいと思います。私は、私の演技とあなたがたの出演した栄光ある演技の間に、どんな違いがあるのか理解できません。私は、今この時作られている全ての映画の助演男優と、5人の俳優とを、どのように分けているか判りません。これは一人の俳優にとって素晴らしい時間です。私は誇りに思います。ありがとうございました。
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『ブリッジオブスパイ』感想


この映画の売りは、監督がスティーヴン・スピルバーグで、脚本がコーエン兄弟、主演がトム・ハンクスという、アカデミートリオで固めたところでしょう。
スピルバーグは初期の、遊園地のような派手な見世物映画(悪い意味ではないです)から、徐々にその幅を広げて堂々たる「人間ドラマ」や「歴史物語」を作れるようになった、その努力と熱意に頭が下がります。
同時に、個人的には、この監督は本当に映画が好きなんだろうなと、以前にも増して思います。
実を言えば、この映画の雰囲気はかつてのイギリス製スパイ映画『寒い国から帰ってきたスパイ』を踏襲していると思います。
関連レビュー:冷戦時代のスパイの戦い
『寒い国から帰ってきたスパイ』
息苦しいスパイ達の暗闘
リチャード・バートン主演

この作品にも、スピルバーグ監督の過去の映画に対する「敬意」が感じられ、いつしか心が熱くなりました。
この映画はそんなこんなで、どこか伝統的で重厚な、同時にノスタルジックな味わいを感じます。

映画の内容自体も、トム・ハンクス演じる弁護士が、法律家としてのプライドを賭けてスパイの弁護を全うする姿が、素直にカッコいいと感じました。
トム・ハンクスも、こんなに貫禄たっぷりの「立派」な役が似合う年齢になってたんですね。



いずれにしても、ここで語られるのはトム・ハンクス演じる弁護士「ジェームズ・ドノヴァン」の、法律家としてのプライドだったでしょう。
その職業的なプライドとは、ソ連スパイ「ルドルフ・アベル」の職務に殉じようとする態度とも共通するものだったと思います。

この法律家と非合法活動家という、まるで正反対の仕事を持つ二人の間に「友情と信頼」が生まれたのは、この自らの仕事にプライドを持ち全うするという「プロフェッショナル」としての覚悟を、共通して二人が持っているからだと感じました。
この「プロフェッショナリズム」と呼ぶべきものは、言い換えれば、「要求に対してベストを尽くすと約束する事」だと映画は語っています。
そう思えばこの映画は、「冷戦」という東西が「敵対」する関係下にあっても、そこで仕事をする者達はある種の「約束とルール」があったという事実を告げているのではないでしょうか。

『ブリッジオブスパイ』評価


と・・・・・ここまで書いてきまして、ここからはナンクセ付けますので、おヒマな方だけお付き合い下さい。

一つは、標準以上の作品だと感じるものの、今ひとつ映画として突き抜けていない気がするという・・・・・
イロイロ考えて見たんですが、これはたぶん「コーエン脚本」というものが、他者に演出されるとその魅力を十分発揮できないものではないかと・・・・もしくはスピルバーグは現場の雰囲気でセリフを変えたりするらしいですが、そういうこともできないでしょうし・・・・・やはり強い個性がぶつかり合うと上手くいかないこともあるかなという気がします。

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『ブリッジオブスパイ』解説

冷戦時代


歴史的な事を言えば、この映画は第二次世界大戦が終わって、ソビエト連邦とアメリカ合衆国の、超大国2国が互いに覇権を争う、東西冷戦時代に世界が明瞭に突入した時期の物語です。
冷戦の象徴と言えば「ベルリンの壁」ですが、この映画の主人公がちょうどベルリンを訪れた時期に、その壁が作られている様子が描かれています。

そんな東西に分断された「ドイツ」や、今だに分断したままの「韓国」と「朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)」の悲劇は、間違いなくこの両国の勢力争いが原因だと思います。
その冷戦が「熱い戦争」になったのが「朝鮮戦争」「ベトナム戦争」だったわけですが、実際「冷戦時代」を振り返って見れば良い時代という印象よりは、米ソ以外の国にとっては「はた迷惑」な関係だったように思います。

実際「キューバ危機」なんていう世界中が全面核戦争を覚悟した事件もありましたし、「間違って核のボタンが押された」なんて話が聞こえてきたり、レーガン大統領は「核爆弾をソ連に投下するため向かっている」と言って見たりと、結構危ないゲームを両国で繰り広げている印象だったのです。

しかし、再度言いますが、こんな外から危機的に思える状態であっても「アメリカ」はこの「冷戦時代」に、ある種の「ノスタルジー」と、どこか「旧き良き時代」として捉えているようにこの映画を見て感じました。

もしアメリカが「冷戦時代」を「良い時代」だと思っているとすれば、その理由は、ソ連との間に明確な交渉ルートがあり、お互いの利害を尊重すれば「アメリカの平和=パックス・アメリカーナ」を維持しえたという点にあるのではないでしょうか。

それはそのまま、敵対者同士に生まれた約束とルールという、いわば「敵対者との紳士協定」によってアメリカ主導の交渉ができたという、この映画の物語る内容そのものだったはずです。

同時にそれは、現代の「対テロ戦争」がどれほど混乱と無法に満ちていて、その敵との闘いがアメリカにとってストレスとなっているかを示しているのだと思います。

『ブリッジオブスパイ』解説

ジェームズ・ドノヴァンの正体


最後に、この映画では弁護士「ジェームズ・ドノヴァン」が、民間の弁護士として登場してますが、ホントにそう?という疑問を語らせて頂こうと思います。
じつは「ドノヴァン」という名前を持つ法律家が、もう一人います。
それは初代OSS長官で、名前は「William J. Donovan = ウィリアムJドノヴァン」と言いまして、この人も法律家でアイルランド出身。
この「ウィリアムJドノヴァン」のOSS時代からの子分が「アレン・ダレス」といいまして、CIA長官となって時の大統領でも手を出せないぐらいの大物です。

さ〜怪しく思いませんか、この映画でも語られているように、「ジェームズ・ドノヴァン」という弁護士は、第二次世界大戦当時はOSS(CIAの前身)に所属し、ナチス・ドイツを裁いた「ニューベルン裁判」で連合国側の検事をやっていました。このとき「ウィリアムJドノヴァン」の部下だったはずです。
この二人の間に、何らかの関係があったんじゃないのと考えるのが普通ではないでしょうか?
個人的には、「ウィリアムJドノヴァン」 と「ジェームズ・ドノヴァン」と血縁関係があり、その関係でOSSに入り、さらにこの映画の事件のときも「ウィリアムJドノヴァン」 経由でCIAから声が掛かったんじゃないのって疑いたくなったワケです。
この両者の関係について気になって、ネットどころか図書館まで行って、けっこういろいろ調べて見たもののハッキリ関係性が語られているものは発見できませんでした。

でも、ここまで証拠を残さないとは、「ジェームズ・ドノヴァン」って、やっぱりCIAのスパイじゃないの?

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posted by ヒラヒ・S at 20:59| Comment(0) | TrackBack(0) | アメリカ映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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