原題 Rear Window 製作国 アメリカ 製作年 1954 上映時間 112分 監督 アルフレッド・ヒッチコック 脚色 ジョン・マイケル・ヘイズ 原作 コーネル・ウーリッチ |
評価:★★★☆ 3.5点
この映画は、ヒッチコックの作品の中では、一風変わった作品です。
なぜなら、モンタージュと、場面転換の巧さで、サスペンスと恐怖を生み出してきたこの監督が、この映画ではカメラの視点が窓から一歩も外に出ないのです。
それは、窓から人の生活を「のぞき見」する主人公の姿を通し、映画を見る者に重要なメッセージを送っているのではないかと、感じられてなりませんでした・・・・・・・・・・
映画『裏窓』ストーリー |
真夏のニューヨーク。グリニッチ・ヴィレッジのアパートの一室で、カメラマンのジェフ(ジェームズ・ステュワート)は片足を骨折し動けなかった。暇を持て余した彼の日課は、アパートの裏窓から中庭を挟んだ対面のアパート部屋を望遠鏡で眺める事だった。
そんな彼の元には看病のため看護婦のステラ(セルマ・リッター)と、恋人のリザ(グレイス・ケリー)が通ってくる。
看護婦ステラは、ジェフののぞき見をとがめたり、リザと結婚してあげなさいと責めるのだった。
しかしジェフは、日々裏窓で起こる各部屋の様子を興味津々で眺めるのを止めなかった。
そして、恋人リザとの結婚にも、煮え切らない態度を見せた。その裏窓の各部屋ではブラジャーをなくす娘、新婚の男女のラブ・シーン、作曲家がピアノに向かう姿、犬を溺愛する夫婦などの日常が繰り広げられていた。
そんな中、ある部屋の様子にジェフは違和感を覚えた。
セールスマン、ラース(レイモンド・バー)の家には、病気で寝たきりの妻がおりいつもケンカがたえなかったが、その妻が急にいなくなったのだ。
そしてその日ラースは大きな荷物を送り出していた。気になったジェフがセールスマンの行動を観察し続けると、その行動はいかにも怪しく、ついにジェフは彼が妻を殺して死体を移送したものと確信した。その疑惑を知人の刑事トーマスに語るが、確たる証拠はなく、刑事も形ばかりの捜査以上はできかねた。
しかし、ジェフの説に恋人のリザも同意した。そして、動けないジェフに代わって、リザは証拠を掴むためセールスマンの部屋へと侵入した。
しかし、そこに疑惑のセールスマンが帰ってきたのだった・・・・・・・・
映画『裏窓』予告
映画『裏窓』出演者 |
L・B・ジェフリーズ (ジェームズ・スチュアート)/リザ・フレモント(グレース・ケリー)/ラース・ソーワルド(レイモンド・バー)/ステラ(セルマ・リッター)/トーマス・J・ドイル刑事(ウェンデル・コーリイ)/
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映画『裏窓』感想 |
真夏のアパートの一室にいる主人公(ジェームス・スチュアート)を捕えます。
その主人公の足のギブスを映し、次に壊れたカメラが見え、最後にその壊れたカメラで撮ったカーレースの事故写真が映ります。
この数秒で、この主人公がカメラマンで、カーレースの撮影中に事故に巻き込まれ、足が折れたという事が無言のうちに語られます。
それゆえ、主人公はこのアパートの一室から出られず、同時に主人公の目であるカメラも外に出れないのです。
この一連の説明は、サイレント映画出身のヒッチコックだからこその、映像によって情報を伝える技術の高さの証だったでしょう。
しかし、もう一つの意味も有ったように思います。
それは、このカメラの視線で写されたものは、映画的説明のためのカットは入っていますが、基本的には主人公の主観的な目であるということです。
その主人公の目を通じて、向かいのアパートの各部屋で起きる出来事を、観客は共に見つめる事になります。
足が折れて身動きができない主人公は、ただ向かいのアパートで起きる各部屋の出来事を眺め続けます。
そこには、各部屋ごとの物語があり、ドラマがあります。
そして、もちろんヒッチコック監督のこと、ある部屋のケンカばかりの夫婦の妻が、ある日消えてしまいます。
その消えた理由を亭主の殺人だと考えて、この主人公と、その恋人(グレース・ケリー)が、真相を追いますが・・・というような物語なのですが、字面ほど緊迫感が有る訳でもありません。
おまけにグレース・ケリー演じるガールフレンドと、結婚するしないで延々揉めてたりしますし、看護婦さんと覗く覗かないで論争したり・・・・実際の印象としては、むしろ事件の方が付け足しという印象すらあります。
ここら辺がヒッチコックの作品の中でも、一風変わった作品だと言う理由なのですが、通常のヒッチコック作品のスリルとサスペンスが画面の隅々まで行き渡っている作品群と違い、どこか危険が身に迫ってこない感じがします。
そこで再び、見なおしてみたところ、ど〜も殺人事件がメインというよりは、他者を覗くという行為を映画にしたと考える方が自然だと思だしました。
つまりは、主人公が隣家の窓々の現実を、遠く離れたところで眺める姿を描きたかったのだと思うのです。
それは、この主人公が、あの絶世の美女、後のモナコ公妃、ケリーバッグの創始者、高貴で気品があって美しい完璧な美女、グレース・ケリーに言い寄られても、結婚ではなくカメラマンの道を選ぶと言い張るところで更に鮮明になります。
つまり完璧な美女から「結婚=現実」を求められても、「カメラ=仮想現実」を選ぶと言っているのです。
それは、この主人公が「現実を生きるよりも、離れたところで<仮想現実=フィクション>」を眺めていたいという宣言だと感じられます。
そして、この我が身に直接影響のない「フイクション」を見ている存在とは、主人公と同一の視点を共有している、この映画の観客だと気付くのです。
それだからこそ、この映画はいつものヒッチコック・ムービーと違い、主人公の危険にハラハラせず客観的に眺めていられたのです。
しかし、そんな傍観者であったはずの主人公も、最後には危機に直面する事となります。
それは安全な「主人公の部屋=観客席の側」にいたガール・フレンドが、殺人事件の真理を求めて「フィクション」の中に関与してしまったからです。
このときの、主人公の必死の制止とは、観客でいなければならないのに「フイクション」に影響を行使するという、掟破りをガール・フレンドがしようとしているからに他なりません。
その結果主人公の身に降りかかる運命こそ、観客とフイクションが交錯した結果だったはずです。
映画のラストに、この主人公が結婚と言う現実から逃げられなくなると言う結末が語られるとき、この作品は、映画という「フィクション」を眺めている観客に対して警告を与えるものだったと思います。
それは、映画を見る事は決してただの娯楽ではなく、見た者の現実に襲い掛かり、深く関与する可能性も有るのだという真実です。
ま〜そんなこんなでアナタの後ろから「イイカゲン映画バッカり見てないでチョウダイ」という、現実のイカリ声が聞こえてくるんですネ。
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映画『裏窓』評価 |
この映画の評点は、ヒッチコック映画の中では標準点だとの個人的印象からです。
素晴らしいアイデアと挑戦に満ちた映画ではありますが、ヒッチコックの真骨頂は、モンタージュと画面転換の高度なテクニックによる、スリルとサスペンスにあると思うからです。
つまりは、他のヒッチコック作品に較べれば、個人的には一段下がると感じてしまったのでした・・・・・
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以下の文章には 映画『裏窓』ネタバレがあります。 |
(あらすじから)
リザは部屋で証拠を見つけたが、セールスマンに発見され警察に逮捕された。
セールスマンは自分を疑い探っている存在に気づき、それがジェフだと知った。そして、ジェフが1人で部屋にいるところを、突然セールスマンが襲撃する。体の自由がきかないジェフは、カメラのフラッシュを光らせ、必死の抵抗をする。しかし、ついに窓から落とされようとするとき、警察官がセールスマンを拘束した。
助かったと思ったのもつかの間、バランスを崩しジェフは窓の外へと落ちて行った。
映画『裏窓』結末・ラスト |
事件は終わり、ジェフはもう一本の足も折った。その傍らには恋人リザの姿があった。
彼女はジェフが昼寝をしているのを見ると、ジェフの本を捨て、ファッション誌を広げ微笑みを浮かべた。
ホント女性はリアリスト・・・・・・・
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