2016年05月01日

誰が為に鐘は鳴る。

ハリウッド映画と政治



評価:★★★    3.0点

この映画の全米公開年度は1943年と言うから、第二次世界大戦がまだ終わっていない。

このヘミングウェイが書いた小説のスペイン内線のストーリー部分が、ほぼ忠実に実写化されている。
本来この物語は、フランコ総統率いるファシズム政権と、それに反対する人民戦線の戦いの物語なので、そうとうイデオロギー色の強い話なのだ。

原作者のヘミングウェイ自身この人民戦線に参加し、敗れている。
ついでに言えば、映画「カサブランカ」の主人公もスペインで敗れている。
実はこのスペイン戦線というのは、第二次世界大戦に本格参戦する前に突きつけられた、民主主義の敗北の場だったのだ。
そういう意味で言えば、相当悲壮な決心で義勇軍は参加していたにも限らず、ついに無為に終わった悔いの残る戦いだった。

だから本来であれば、ここで描かれていたのは、ヒロインで代表される「フランコ軍=ファシズム」の暴虐であり、「山賊=スペイン民衆」の内紛・混乱状況であり、主人公が代表する「義勇兵=民主主義」の理想・大義に対する献身であったはずだ。

小説が持つメッセージを反映すれば、少なくとも反フランコの主張が強く有ってしかるべきだったろう。
実際このフランコ独裁体制は、この映画の公開された1943年にも継続しており、最終的にはナンと1975年のフランコの死まで続く事になる。

そう考えれば、メロドラマとしてのみ成立しているこの映画の味付けは、いささかロマンスに偏りすぎていると感じる。
確かにイングリッド・バーグマンの華麗さや、ゲーリー・クーパーの雄々しさ、そのロマンスは見ごたえはあり、ハリウッドのスペクタクル・ロマンスとして手堅い作品であるのは間違いないのだが・・・・・・

気になって確認したところ、この映画は1942年の2月から10月にかけて撮影されている。
とすれば、小説の発表が1940年なので1941年後半には企画や脚本ができていたということになるだろう。
そして、日本軍の真珠湾攻撃が1941年12月なので、撮影時にはアメリカも参戦しており「戦意高揚」映画にしても何も問題は無かったと思うのだが・・・・・

じっさい同時期に撮られた「カサブランカ」は、しっかり「反ファシズム」を明確に打ち出している。
しかしカサブランカの場合、真珠湾後にこの映画を正式にスタートしたらしい。

だとすればこちらの映画は、事前に企画が進んでいて、脚本も上がってということで、後からの変更がナカナカ難しかったと言う事だったのだろう。

事実ハリウッド映画界は、参戦前にはチャップリンの「独裁者」を作らせないように、ハリウッドの総力を上げて阻止したぐらい、プロパガンダを嫌ったという。
戦前のハリウッドにとって、世界に映画を売るためには「イデオロギーやプロパガンダ」はタブーだったのだ。
なんとナチスドイツの検閲官が1933年から39年の間、ハリウッドに常駐して居たというから驚く。

そんなこんなで、この映画では「民主主義の大義」を「ファシズムの悪逆」を描くのが、間に合わなかったということかと思う。
いずれにしても個人的には、イデオロギー的な大義を描いた方がよりヒロイックでドラマチックになったと思うと、この映画の表現力が落ちたと思うと惜しいと感じる。

と書いてきてなんですが・・・・この映画スペインではフランコの死後、1978年まで公開されなかったらしい。
今思うと政治的主張が少ないようにも思えるけれども、けっこう当事者にとっては政治色も持ち合わせていたというお話でした。


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posted by ヒラヒ at 14:52| Comment(0) | TrackBack(0) | アメリカ映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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