評価:★★★★ 4.0点
この映画の持つ、曖昧さが気になる。
原題「THE BEGUILED」とは欺瞞の意味。
結局はここには、人を欺かなければならない「秘密」を隠しているという事だろう。
『白い肌の異常な夜』あらすじ
南北戦争末期のある日、きのこ採りに森の奥に入った10歳のエミー(パメリン・ファーディン)は、血みどろで倒れている兵士を発見して悲鳴をあげた。南部のファンスワース女子学院で暮らすエミーは、院長のミス・マーサー(ジェラルディン・ペイジ)、教師のエドウィーナ(エリザベス・ハートマン)、キャロル(ジョー・アン・ハリス)、ドリス、ジャニー、とともににその兵を学院に運んだ。
しかし、その兵は北軍の軍服を着ているため、南軍に引き渡すべきだという意見も出るが、女たちは取りあえず元気になるまではと看病を続けた。意識を回復した兵士は、ジョン・マクバーニー伍長(クリント・イーストウッド)と名乗る。しかしマクバーニーが元気になるに従い、彼を巡って女達の秘められた欲望が呼び覚まされた。大人の経験を求めるキャロル、敬虔なエドウィーナ、さらには院長もマクバーニーに心惹かれる。そして、彼女達の嫉妬が頂点に達したとき、マクバーニーの身に危険が迫った・・・・・・
『白い肌の異常な夜』予告
(原題The Beguiled/製作国アメリカ/製作年1971/上映時間105分/監督ドン・シーゲル/脚本ジョン・B・シェリー、グライムス・グライス/原作トーマス・カリナン)
『白い肌の異常な夜』出演者/strong>
ジョン・マクバニー伍長(クリント・イーストウッド)/マーサ・ファーンズワース校長(ジェラルディン・ペイジ)/エドウィーナ・ダブニー先生(エリザベス・ハートマン)/キャロル(ジョー・アン・ハリス)/ドリス(ダーリーン・カー)/ハリー(メエ・マーサー)/エミー(パメリン・ファーディン)/アビゲイル(メロディ・トーマス)/リジー(ペギー・ドライヤー)/ジャニー(パッティ・マティック)
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『白い肌の異常な夜』感想・解説 |
ここで描かれているのは、女学校に囚われた一人の男(クリント・イーストウッド)だ。
南北戦争の北軍兵士であるこの男は、南軍の勢力範囲内で負傷し女学校の生徒に助けられ、軟禁状態となる。
この男は、自らの欲望を隠そうとはしないし、自らの保身のために平然と嘘をつく。
その男の欲望に対して、3人の女が呼応する。
一人は性的な快楽を求める17歳の娘。
一人は結婚までは貞節を守りたいという処女。
一人はすでにタブーを犯し、更に男を求める女。
しかし、この男女関係を複雑にするのは、色欲と、支配と、打算と、愛情がそれぞれ比重を変えながら、相互間にあるからである。
さらにここには、キリスト教的な「姦淫の罪」ゆえに、さらにお互いの欲望を変換し隠蔽する必要がある。
南北戦争という時代背景を考えれば、特に女性側にとって、その隠蔽は義務として課せられていただろう。
実際、この映画における時代背景である南北戦争も、キリスト教的な平等から黒人奴隷の解放を求めたというのが原因の一つとなっているように、アメリカとはそもそも「ストイック=禁欲的」な道徳観念が強い。
そんな禁欲的な社会に変化が現れだしたのがこの映画の製作された1970年代であり、ベトナム戦争の泥沼化により若者達に厭世観が広まり、刹那的な快楽を求めるようになって行く。
この俗に言うヒッピー文化の背景とは、ベトナム戦争という「アメリカ的価値観=民主主義」という建前ゆえに、命の危機に直面した若者達が上げた悲鳴のようなモノだったろう。
そこで叫ばれた「自然に帰れ」という言葉は、アメリカ的な教条主義にたいする、人間本来の「生存本能」の主張だといえる。
つまりこの映画は、そんな「非人間的な禁欲」と「人間本来の欲望の開放」の衝突を描いている。
結局、個人であろうと国家であろうと、自らの欲求を認めないという「欲望の隠蔽」を重ねていくと、遂にはその欲求の圧力によって、自らを滅ぼすか、欲望の対象を消滅せしめる以外に方法が無いと語られているだろう。
その題の通り、真実の欲求を隠さざるを得ないがゆえに、この映画は曖昧な表現を積み重ねて、同時に実際のベッド・シーンを極力隠蔽したのであろう。
しかし、隠そうとすればするほど、人はその想像の中で自らの欲望を生み育てるものではないだろうか。
たいていの猟奇殺人の犯人が、内向的で一見真面目なキャラクターを持っているのも、そんな強い抑圧の元で欲望を秘する構造を証明しているだろう。
そして、不明瞭で曖昧な隠された欲望が、これほど人を不快で不充足を感じさせ、不満を募らせるのだという、観客のこの印象こそが「欲望の隠蔽」の恐ろしさを証明していただろう。
そういう意味では、フロイト的な映画だと感じた。
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