2020年06月27日

映画『愛情物語』1955ハリウッドの神話的伝記/詳しいあらすじ・感想・考察・解説・ネタバレ・ラスト

ハリウッドの良心

原題 Eddy Duchin Story
制作国 アメリカ
製作年月日 1955
上映時間 124分
監督 ジョージ・シドニー
脚色 サム・テイラー
原作 レオ・カッチャー
音楽演奏 カルメン・キャヴァレロ


評価:★★★★  4.0




ビッグバンドオーケストラのバンドマスターでピアニストのエディ・デューチンの生涯を描いた良作だと感じます。

ハリウッド黄金期の作品が持つ、美しく良心的で端正な品格を感じる作品です。

決して突出した名作だとは思いませんが、オーソドックスな作品であるだけに、当時のハリウッド映画の総合力・基礎力の高さが分かる一本だと思います。

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<目次>
映画『愛情物語』ストーリー
映画『愛情物語』予告・出演者
映画『愛情物語』感想
映画『愛情物語』考察/映画と伝記・実話違い
映画『愛情物語』解説/’50年代・音楽家伝記
映画『愛情物語』ネタバレ・結末

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映画『愛情物語』ストーリー


エディ・デューチン(タイロン・パワー)はピアニストを目指し、著名なニューヨーク、セントラル・パーク・カジノのバンドリーダーのライスマン(ラリー・キーティング)に面接を受けた。デューチンの演奏を聞き、ライスマンから褒められた過去があったからだ。しかしライスマンのバンドに空きはなく、職を得る事は出来なかった。落胆したデューチンは、近くにあるグランド・ピアノに座ると、曲を奏で始めた。
その旋律に名家の娘マージョリイ・オルリックス(キム・ノヴァク)が、顔を上げた。
【意訳】マージョリイ:いいわね。ショパン?コードは?/デューチン:Eフラット/マージョリイ:もう一度。
マジョリーはデューチンに話しかけ、ことの成り行きを知ると、ライスマンに客演でも良いからチャンスを与えて欲しいと頼む。
ライスマンはスポンサーでもある彼女の申し入れを承諾した。こうしてチャンスを得たデューチンはデビューを飾り、令嬢マージョリーとも親密になって行く。2人は双方の家族からも祝福され結婚する。
デューチンは仕事も充実し、やがて息子ピーターも生まれるとあって、順風満帆だった。しかしクリスマスの夜、難産のためマージョリイの体は深刻な状態となり、彼女は息をひきとった。妻を喪い、失意のデューチンは生まれたばかりの息子ピーターを親族に預け、長期の演奏旅行に出かけた。第二次世界大戦の前夜であり、デューチンは演奏活動も止め海軍の軍務に埋没した。しかし、戦争終結近く、廃墟となった戦地で、ピアノを見つけ弾き始めると音楽の力を思い出す。
【意訳】デューチン:チューインガムいる?/デューチン:こうしてみな。やり続けて。
ニューヨークに帰り、長らく会わず、すでに10歳となった息子ピーター(グローリア・ホールデン)を訪ねる。ピーターは、自分の世話してくれていた英国人女性チキタ(ヴィクトリア・ショウ)に心を許していたが、息子は父デューチンを受け入れなかった。
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映画『愛情物語』予告

映画『愛情物語』出演者

エディ・デューチン(タイロン・パワー)/マージョリー・オーリックス(キム・ノバック)/チキータ・ウィン(ヴィクトリア・ショー)/ピーター・デューチン(グローリア・ホールデン)/ルー・シャーウッド(ジェームズ・ウィットモア)/レオ・ライスマン(ラリー・キーティング)

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映画『愛情物語』感想


名優タイロン・パワーやキム・ノヴァクの魅力は、古きハリウッド・スターの力を示して堂々たるものです。
それは、アメリカが世界に対し最も影響力を持っていた、1950年代という、時代が俳優に憑依したかのようです。
この50年代のアメリカとは、自分たちの持つ力や正義で、世界を良いものにできると信じていた時期でした。
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それを反映して、ハリウッド映画もアメリカ的な価値感を歌い上げた作品が、多いように思います。

この映画も1930〜40年代に活躍したピアニストを主人公に、古き良きアメリカが持つヒューマニズムや家族の絆を描いています。
多少お涙頂戴のキライはあるものの、その黄金期のハリウッド映画的な安定した話法と、悲劇であっても決して希望を忘れないその描写が、見るものの心を暖かく包みます。

例えば、この映画のラストは、様々な過酷な状況を含んでいる現実を、万人が受け取れ、そしてどこか希望を示す見事なエンディングです。
その短いシーンに、幾つもの表現技術が含まれており、ハリウッド黄金期の表現技術の高さを思わずにはいられません。

音楽の使い方も理に適った、映画と音楽の連携が良く出来ていると作品だと思います。
特に、カーメン・キャバレロ演奏のショパンの『ノークターン(愛をふたたび)』は、出色の演奏ですし、その他の演奏も、スゥイートでバラエティーにとんでいて、聴いてるだけで楽しめます。
<『愛情物語』よりブラジル>

古き良き時代を彩る、華麗な音楽が映画のドラマを盛り上げ、否が応でも見る者の涙腺を刺激します。

そんなロマンチックで、善良で、ヒューマニズムに富んだ、家族全員で楽しめる、ハリウッド映画の古き良き時代のスタンダードの気高さに惚れ惚れします。
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しかし最近のハリウッド映画をみても、こんな大人から子供まで楽しめる家族向け作品には、とんとお目にかからなくなりました。

実はそれには理由があります。
こんな家族みんなで映画を楽しむというレジャーの在りかたは、1950年代以降徐々に少なくなっていきました。
それは家族の娯楽の王座が、TVの出現によってその立場を奪われてしまったからです。

そんな流れを受けて映画界は、1967年の「俺達に明日はない」に始まる、家族ではなく個人を狙ったアメリカン・ニューシネマの方向に舵を切ることになるわけです。
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そんなこんなで最近では、万人受けする派手なアクション映画か、ディズニー作品ぐらいでしか、家族揃ってという映画はなくなってしまいました。
そんな家族向け作品にしてから、この「愛情物語」のような、世間のモラルの規範になるような「美しい絵空事」の映画はまずありません。

そういう意味でこの映画は、良心的ファミリー映画がまさに完成の域に達していた1950年代の作品であり、ハリウッド映画の歴史的な資料として残したいような一本だと思いました。

またこういう映画を見ると、かつて観客と映画がお互いに信頼しあい、相思相愛であった時代の、映画に対する「愛情物語」を見るようで心が温かくなります。
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映画『愛情物語』解説

映画と伝記

この映画の古典的ハリウッド表現の見事さに、感動しました。

しかし、本作は「伝記」映画であり、「伝記」ほど映画にして、舌足らずになる題材もないと思います。
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結局、どれほど見事な脚本を描こうと、一人の人間の人生を2時間足らずの映画で語ることは、映像をその表現の基礎としている以上情報量として不可能なのかとも思います。
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例えば、この『愛情物語』にしても、ちょっと調べただけでも、これだけ実話との違いがありました。

父親との関係が映画で書かれているピーター・デューチンは、彼の両親の生と死の不必要な架空化が多すぎると述べ、脚本について強い不満を述べています。

映画内の演奏はピアニストのカーメン・キャバレロが演奏しましたが、彼はエディー・デューチンの演奏とはまるで異なる演奏スタイルでした。

死んだ妻マージョリー・ドゥチンの叔父と叔母「シャーマン・ワードワース夫妻」のキャラクターは、実在した叔父と叔母「 W. アベレル・ハリマン夫妻」をモデルにしています。
アべレル・ハリマンは父の鉄道王ジョージ・ハリマンの相続人であり、外交官、政治家としてソビエト連邦の大使やベトナム戦争のパリ和平会談などに尽力し、1956年の映画公開時はニューヨーク州知事の任期(1955-1959年)中で、その年の民主党大統領候補の候補者になるほどの大物でした。(実名を出したくなかったのは選挙への影響を考慮したためかもしれません)


死んだ妻マージョリーが死んだのは7月で、クリスマスに死んだと言うのはフィクションでした。

ピーター・デューチンは急性白血病を発症しますが、それによってピアノが引けなくなるとは考え難いとのことです。


結局、50年代にこれらの音楽家の伝記が数多く撮られましたが、その本質はハリウッド的理想主義を現実のモデルに仮託して語ったフィクションだったと見るべきでしょう。

そして、映画にとっての伝記とは、ある種の割り切りをしなければ、とても描ける素材ではないかもしれません・・・・・・

ちなみにジェフリー・ラッシュは、ピアニストのデビッド・ヘルフゴットを『シャイン』で演じアカデミー賞を獲得しましたが、その時この『愛情物語』を参考にしたとインタビューに答えていました。
関連レビュー:実話と映画とフィクション
映画『シャイン』
オーストラリア出身の天才ピアニスト、デビッド・ヘルフゴットの実話
ジェフリー・ラッシュのアカデミー賞主演男優賞受賞作

その『シャイン』もまた、実話とのギャップでいろいろ問題があったようです。

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映画『愛情物語』解説

音楽家の伝記映画

ハリウッド映画界では、’40〜’50年代に音楽家、主に当時人気のあったポピュラー音楽のスターの伝記物語が、盛んに撮られました。

『アメリカ交響楽』(1945)
作曲家ジョージ・ガーシュインの伝記


『ジョルスン物語』(1946)


『グレンミラー物語』(1953)


『ベニー・グッドマン物語』(1956)


『5つの銅貨』 (1959年)
トランペッター、レッド・ニコルズの伝記

これらの映画は、その実在の人物を語りながらも、実際はハリウッド的な理想を語った「神話的な伝記」だと思います。
つまりハリウッド的「真・善・美」のためには、事実を無視や改変してでも描ききろうという強い力を感じます。

それは、事実を重視し、苦悩する、現代の伝記映画とは一線を画す表現だったでしょう。
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そういう意味では、伝記としての正確性よりも、ハリウッド黄金期の「理想表現様式」を楽しむ映画だと思います。

そして、間違いなく、上で挙げた映画は、その様式の完成形として、表現テクニック、脚本、俳優、演出も含め高いレベルにあり、見るたびに新たな発見があります。
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以下の文章には

映画『愛情物語』ネタバレ

があります。
(あらすじから)
心が通わなかった、デューチンと息子ピーター関係は、音楽をきっかけに改善していく。
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演奏を再会したデューチンは再び人気をとり戻し、ピーターの母代わりのチキタと互いに愛しはじめる。ところが、デューチンはピアノの演奏中に異変を感じ、診察を受けると白血病で長くは生きられないと宣告された。デューチンはチキタとの結婚を止めるべきか迷うが、彼女は結婚を承諾する。
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映画『愛情物語』結末

死を覚悟しつつも、デューチンは息子ピーターと「愛よ再び」を連弾する。
【意訳】デューチン:デューチン演奏。/デューチン:驚くほど上手くなってるな。
ピアノからデュ―チンの姿が消え、息子1人がピアノを引き続け、それをチキタが見守る。




posted by ヒラヒ at 17:00| Comment(0) | TrackBack(0) | アメリカ映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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