評価:★★★★ 4.0点
吉原の花魁を、メクルメク原色も鮮やかに、写真家蜷川実花が初メガホンを取って作り上げた一本。
映画として破綻はなく、演出も必要な情報と情感は伝えられ、脚本も平均点を上回っているように感じた。
役者も土屋アンナを含め、監督の演出意図に応えていると思う。
もちろん画作りは写真家としてのコダワリが溢れている。
そういう映画としての基礎力に関する評価として☆みっつ。
評価が分かれる部分は、この映画の物語世界をどう見るかだろう。
江戸時代の吉原の世界を、そのまま表現していると考えれば評価が落ちるに違いない。
この映画において、実際の吉原が必然的に持つ「苦界」という言葉で表わされる、女性達にとっての地獄が表されているわけではない。
歴史的な資料から推し量られる現実的な遊里とは違う世界が展開される。
現実に立脚していないという点で、この映画は過去の歴史上にあった事実を元にしたファンタジーと見るべきだろう。
そう考えれば、「SAYURI」「KILL BILL」などと同様、現実を素材として架空の映画世界を構築したものと考えられる。
実際、漫画原作の世界観もそうだが、この作品にとって吉原は物語のモチーフ=素材としてある。
とすれば、どういい繕おうと虚構映画世界=ファンタジーである以上、その虚構を越えた「リアリティー=真実」を何らかの形で成立させなければ、見る者に届くだけの力を持ちえない。
結局ファンタジーという嘘の世界だからこそ、現実世界を描いた作品よりも、強い意思と創造力を持って、その作品を覆い尽さねば、あっという間に架空の世界は脆くも崩壊してしまう運命に在る。
したがってどれほど説得力がある表現が、この架空の吉原で繰り広げられるかという評価になるであろう。
例えば、椎名林檎の歌が昭和歌謡のファンタジーとして、リアリテイーを持って人の心に響くのと同様の力を、この映画のどこに求め得るかだとおもう・・・・
個人的には、極彩色の映像に表されるファッション性の細部に至るまでの構築に依って、この映画はその力を保持していると考える。
たとえ嘘の世界だと分かっていても、デティールの一つ一つが真実の光を示すならば、人は物語世界に没入する。
この映画は「ファンタジーとしての吉原」の人工美を成立させ得るに足る「細部=デティール」を持っていると感じたので、☆一つをプラスした。
またそれは、そもそも歴史的事実としても吉原が人工的に構築された「美と欲望」の「虚構世界」であったことを考えるとき、現代的なデザインと美意識で創られた華美な装飾が、「歴史的な吉原」という存在が持つ「人工美」の創造という点で共通していたが故に、強いリアリティーを持ちえたと思うのである。
さらに、この虚構内にある人間の心的リアリティを盛り込む事、それは現実世界の人間性を象徴する「虚構イメージ」となるはずだが、残念ながらこの映画にはそれを感じられなかった・・・・もし、このファンタジー世界に、確たる人間の存在感が描かれていたとすれば傑作になったのではないだろうか・・・・・・
関連レビュー「へルタースケルター」:http://hirahi1.seesaa.net/article/424620638.html
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