製作国 日本 製作年 2007 上映時間 130分 監督 三池崇史 脚本 武藤将吾 原作 高橋ヒロシ |
評価:★★★★ 4.0点
マンガを原作としたこの一本。
原作マンガを踏襲しつつも、映画としての世界観を確立しえた日本映画における稀有な例のように思う。
結果として、原作と映画の世界観が相互に作用し、この虚構世界をより豊穣で重層的な物語空間としていると感じた。
<目次> |
映画『クローズZERO』簡単あらすじ |
不良が集まる鈴蘭男子高等高校に、転入生、滝谷源治(小栗旬)がやって来た。親に暴力団・滝谷組の組長(岸谷五朗)を持つ彼は、鈴蘭の頂点に立つためにやって来た。高校は、芹沢多摩雄(山田孝之)の“芹沢軍団”、阪東ヒデト(渡辺大)の“阪東軍団”、一匹狼の“リンダマン”と呼ばれる林田恵(深水元基)、伊崎瞬(高岡蒼甫)、牧瀬隆史(高橋努)などなど群雄割拠の状態だった。そんな荒れた学校の覇権を目指し、源治は鈴蘭OBのチンピラ片桐拳(やべきょうすけ)と知りあって友情を深める。しかし片桐は、矢崎組に属し組長の矢崎(遠藤憲一)の命令で、源治を片付けるよう命じられた。同時期、源治の恋人のルカ(黒木メイサ)が拉致されてしまう。そして、鈴蘭内の抗争は一気にヒートアップする―
映画『クローズZERO』予告 |
映画『クローズZERO』出演者 |
小栗旬(滝谷源治)/やべきょうすけ(片桐拳)/黒木メイサ(逢沢ルカ)/高岡蒼佑(伊崎瞬)/桐谷健太( 辰川時生)/渡辺大(阪東秀人)/深水元基(林田恵)/高橋努(牧瀬隆史)/鈴之助(田村忠太)/遠藤要(戸梶要次)/上地雄輔(筒本将治)/伊崎央登(三上豪)/伊崎右典(三上学)/大東俊介(桐島ヒロミ)/橋爪遼(本城俊明)/小柳友(杉原誠)/松重豊(牛山)/塩見三省(黒岩義信)/遠藤憲一(矢崎丈治)/岸谷五朗(滝谷英雄)/山田孝之(芹沢多摩雄)
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映画『クローズZERO』感想 |
闘争本能を剥き出しにした、男たちの戦争。
これでもかとばかりに、延々と、次から次に、際限なく、画面一杯に、何十人もの野郎どもが、死に物狂いで、ムヤミヤタラニ、燃焼しつくさんと、肉弾戦を繰り広げる。
こんな暴力に満ちた映画を見ながら、どこか郷愁を覚えたのは私だけだろうか?
例えば、昭和という時代にあっては、男達というのは戦う存在だった。
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仕事といえ遊びといえ、常にどこか競い較べられ、何かに挑むかのような行動様式を持たざるを得なかった。
それは団塊の世代など、大集団の中で生存競争を強いられたことと無縁ではないだろう。
その、高度成長期にあって日本人は、圧倒的な活力を糧にして、戦争で失われた財や絶望感からの復興を果たした。
それはまた別の意味での「戦争」と、呼ぶべきだったに違いない。
その「戦争」の状況は、実は団塊の世代を超えて、バブル崩壊前の若者世代まで引き継がれた日本男児の伝統だった。
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しかし、その戦いもバブル崩壊を頂点として、終戦の時を迎える。
それは、1995年当時アメリカに経済力で肉薄し、人口比を考えれば、実質1位と見なされるほどの力を示した。
しかし、そんな経済力による勝利が、精神の充足を意味しないという、誠に切実な真実を日本人に思い知らせた。
同時にその真実は、男達の闘争の終焉をも意味しなかっただろうか?
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つまり、敗戦後の男達が「富=経済力」の戦争に勝利したにもかかわらず、富が幸福を担保しないという事実を突き付けられた時、男達にとっては戦う対象を見失ってしまった。
その結果、社会的な富の蓄積によって生きる事には困らないだけに、無駄な闘争を避けるという日本社会を成立せしめた。
「草食男子」とはまさに、戦いが不要とされた時代に成長した者たちだったに違いない。
こんな時代背景にあって、昭和のマンガやドラマの主役であった、ケンカに明け暮れた男達の物語は過去の遺物として忘れ去られようとしたかに思えた。
しかしこの映画である。
平成の世にあっても「男達の闘争」が、人の心にある種の感銘を与えることを、この映画のヒットが証明したように思う。
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映画『クローズZERO』解説・考察 |
そのギャップを埋めて現代に蘇らせるために、今が旬の「男」達を並べた事が成功の一因としてあげられるだろう。
だが何よりも現代にあって訴求力を持ち得たのは、この描かれた「戦い」の光景を、非現実的な一種のファンタジーであると割り切って描いた結果だと感じる。
この「格闘」シーンを純粋に、ストーリーや感情などを脇役として、徹底して描くことによって「格闘」の持つダイナミズムが自立的な拍動を刻み「象徴化」され、それは一種のアスリート的な美を生んだ。
それはあたかも、プルースリーのカンフーのごとく、脈動する肉体が発する輝きを思わせる。
アメリカ・香港合作映画:1973年 映画『燃えよドラゴン』 ブルース・リー主演による、カンフー映画の傑作 アクション映画の歴史を変えた、古典的名作 |
またこの映画から、古来より人が生きるという苦難に立ち向かう時、必要不可欠とされた「伝統的慣習」と同じ効果を観客にも及ぼすであろう。
その慣習とは「祭礼」である。
祭礼というものが、辛く苦しい日々の暮らし「ケ=日常」をはなれて、「ハレ=祭」という祝祭空間に突入する事で日常の苦痛を寛解しようとする行事と見る時、この映画の男達がもみ合いへし合いする姿は、そのまま「ハレ=祭」の姿に重なりはしまいか。
ここに描かれた「暴力と血」は一種神聖な、生きるという事、命を燃やすという事、その純粋なシンボルとして輝いているように思えるのである。
この時代にあっても、長い人生の「ケ=日常」を生きるためには、10代後期という溢れんばかりの命を「ハレ=青春」として燃やさねばならない事を、この描かれた「格闘」の運動エネルギーの内に見出すのは、あながち昭和の懐旧の為だけとは思われない。
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