原題 arizona rising 製作国 アメリカ 製作年 1987年 上映時間 94分 監督 ジョエル・コーエン 脚本 イーサン・コーエン ジョエル・コーエン |
評価:★★★ 3.0点
コーエン兄弟の映画第二作目にして、メジャー第一作となる、ジェットコースター・アクション・クライム・コメディー
後年の作品で何度も登場するコーエン的な素材が、この映画ですでに出揃っているのも興味深い。
しかし、そのくせコーエンらしい味わいが、この映画には少ない理由を追求したい。

<目次> |

映画『赤ちゃん泥棒』あらすじ |
アリゾナ州で、コンビニ強盗の常習犯のハイ・マクダノー(ニコラス・ケイジ)は、刑務所で婦人警官、エド(ホリー・ハンター)と出会い恋に落ち、出所後結婚した。ハイはまじめに工員として働き、郊外のトレーラハウスでエドと楽しく暮らしていた。
しかし、悩みの種は子宝に恵まれないことで、ついに病院を訪れるとエドの不妊症が判明する。エドは絶望のあまり警察をやめた。
ハイに前科があるため養子も取れず、夫婦は沈鬱ない日々を過ごす。
そんな時、地元家具チェーン店の社長、ネイサン・アリゾナ(トレイ・ウィルソン)に5つ児が産まれたとニュースが流れた。
エドは不公平だと憤り、1人盗んできてとハイに命令した。
ハイは、ついにアリゾナ家に忍びこみ、1人の赤ちゃんネイサン・ジュニアを連れ出した。エドは喜びハイも幸福を覚える。しかし、そんなハイのもとに、刑務所から脱獄してきたハイの受刑者仲間のゲイル(ジョン・グッドマン)とエベル(ウィリアム・フォーサイス)が転がり込む。
アリゾナ家のジュニア誘拐はTVでも連日報道される中、ハイの上司グレン(サム・マクマリー)とその妻ドット(フランセス・マクドーマンド)が騒がしい5人の子供を連れ、遊びに来た。
子供たちにエドはうんざりし、更に上司グレンから夫婦交換(スワッピング)を求められ、思わず殴ってしまいハイは首を宣告された。さらに、グレンは赤ちゃんが誘拐されたジュニアだと感づいていた。
その頃アリゾナ家に不気味な賞金稼ぎのレナード・スモール(ランダル・テックス・コブ)が現れ、ジュニアを金にするため動き出した。
再び上司のグレンが現れ、妻が子を望んでいるから、訴えられたく無ければ、ジュニアを渡せと迫まった。それを盗み聞いたゲイルとエベルもジュニアが金になると知った。
二人はハイに銀行強盗に加われと強要した。しかし応じないハイにゲイルとエベルは襲い掛かり、ついにハイを椅子に縛りつけ、ジュニアをさらい銀行強盗へとし出発した。
そこに帰ってきたエドは、事の成り行きを知り、ハイとともにジュニア奪還に向かう・・・・・

映画『赤ちゃん泥棒』予告 |
映画『赤ちゃん泥棒』出演者 |
ハイ・マクダノー(ニコラス・ケイジ)/エドウィーナ・マクダノー(ホリー・ハンター)/ネイサン・アリゾナ(トレイ・ウィルソン)/ゲイル・スナーツ(ジョン・グッドマン)/エヴェル・スナーツ(ウィリアム・フォーサイス)/グレン(サム・マクマレイ)/ドット(フランシス・マクドーマンド)/レオナルド・スモールス(ランドール・“テックス”・コッブ)

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映画『赤ちゃん泥棒』感想 |
この映画は公開当時、そのアクションに追従するカメラの動きが話題になった。
これはカメラマン、バリー・ソネンフェルドの力量が大きいように思える。
当時としてはぶれないスピード感のあるカメラワークは画期的だったろうが、今となっては更に撮影技術のレベルが上がっているため、その点での驚きは正直少ない。
関連レビュー:先進のカメラワーク 『ゼログラビティ』 革命的映像体験! 極限のスペース・サスペンス・サバイバル! 出演サンドラ・ブロック, ジョージ・クルーニーのアカデミー受賞作 |
そんなこともあって、今の目で見れば、映画全体としての評価は、アクションコメディーとしては、標準よりも若干良いかという印象。
一回は楽しいと思う・・・・・・でも何度も見るかといえば・・・・・という作品。
では、なぜ紹介するかというと、巨匠コーエン兄弟のメジャー第一作だからだ。
ジョエル・コーエン(Joel Coen, 1954年11月29日 - )とイーサン・コーエン(Ethan Coen, 1957年9月21日 - )は、アメリカ合衆国の映画監督、脚本家、映画プロデューサーである。コーエン兄弟(コーエンきょうだい、Coen brothers)として共同で映画製作に携わっている。
便宜上、『ディボース・ショウ』(2003年)までは監督・脚本にジョエル、脚本・製作にイーサンがそれぞれ別個にクレジットされてきたが、実際はどちらも兄弟の共同作業であり、『レディ・キラーズ』(2004年)からは監督・脚本・製作はすべて兄弟の連名となっている。また、コーエン兄弟はロデリック・ジェインズ(Roderick Jaynes)という変名で映画の編集作業も行っている。
コメディ色の強いスリラー映画、もしくはスリラー色の強いコメディ映画、特にユダヤ的な笑いを用いたものを得意としている。作品のテーマとして犯罪、特に誘拐や恐喝を取り扱うことが多い。(wikipediaより)
この映画『赤ちゃん泥棒』ですでに、後の映画のモチーフとなる、誘拐だとか、悪夢的イメージ、女性警察官、アイロニー、どこか調子の外れた犯罪者などが、出てくる。
間違いなくコーエン映画なのだが・・・・・・・しかし映画全体として、映像のリズムや、演技の間、時間感覚などコーエン的とは言い難いのである。
たぶん最も大きな理由は、編集作業がコーエン兄弟ではないため、その他の作品とは映像のつなぎが違う点が最も大きいとは思う。
関連レビュー:コーエン作品の編集力 『ノーカントリー』 超難解!コーエン監督の傑作映画 第80回アカデミー賞4部門を受賞 |

本作のテーマを見れば、善悪というのが犯罪行為によるものでなく、愛を他者に持てるか否かだとか、善悪の中間にいる主人公達が赤ん坊の持つ力で善に戻るなど、結構しっかりとコーエンらしからぬモラル性の高いテーマが語られる。しかし、そのテーマは、映画全体で浮遊し、不安定に見え隠れする印象なのである。
これは、コーエン兄弟がメジャーデビューという事で、娯楽性を優先したせいなのか・・・・
または、まだまだ発展途上で習作に近い作品なのか・・・・・
それとも、この作品では例えば、プロのハリウッド映画監督(?)になれるか試したのだろうか・・・・・
たぶん、無視し得ないのは、金を出した映画会社側の意見が強く、思うように撮れなかったという・・・・・
やっぱりこの兄弟が万人受けする作品で満足できるほど、協調性があるように思えないし(ほめ言葉です)
いずれにしても、素材、テーマがコーエン的で、しかもコーエン兄弟作品でありながら、コーエン的でないという変な映画だった。
興味があればお試しください。

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映画『赤ちゃん泥棒』解説タイトルの意味とテーマ考察 |
アリゾナはアリゾナ州と赤ちゃんの生まれたアリゾナ家にちなむだろう。
そこでライジングである。
rising<音節ris • ing発音ráiziŋ> [形]1 上昇する,上がる;〈太陽・月・星が〉出る;増大[増加]する,強まる;増水する;〈温度が〉高まる;昇進する,出世する;〈坂が〉上りの 2 成長している,発達中の [名]1 上昇,上がること,登ること;(太陽・月・星の)出;起立,起床;出現 1a 突起,隆起,突出(物),高台,上り坂 1b (パンを焼く前の)発酵期間 2 蜂起,反乱 |
上の意味からすれば、つまり原題「アリゾナ・ライジング」は、「アリゾナ家の子供を育てる」ととも、「アリゾナの騒動」「アリゾナの夜明け」なんて意味も思い浮かぶ。
「ライジング」という単語の持つ語彙しだいで、この題名は幾つにも解釈が可能だろう。
個人的に好きな解釈は、「アリゾナの成長」という和訳だ。
つまり、ジュニアの成長と、主人公ハイの成長を表していると見たい。
そしてそれは、更に深読みすれば、アリゾナという辺境の州で、半分犯罪者の不完全な主人公ハイが、完璧なアメリカン・ファミリーを構築しようとして苦闘する物語だと解釈できる。
そして、アリゾナで成長したハイは、ラストで理想の家族を持つ夢を見るのである。

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映画『赤ちゃん泥棒』考察地元アリゾナ大ブーイングとユタ |
ニコラスケージの英語もアリゾナの南部ナマリだというし・・・・
なんか「アリゾナ」にアメリカ人なら知っている話があって、そのヒネリだったりするのだろうか・・・・・・
そこで調べてみました。
アリゾナ州(英: State of Arizona [ɛərᵻˈzoʊnə, ærᵻ-] ( 音声ファイル)、ナバホ語: hoozdo hahoodzo [xòːztò xɑ̀xòːtsò])は、アメリカ合衆国の南西部にある州である。地域区分としてはロッキー山脈西部およびアメリカ合衆国西部にも含められる。世界遺産のグランド・キャニオンを擁することで知られる。元来銅と綿花の生産がさかんで、1980年代に南部サンベルトの一角として発展したが、1990年代に入るまで、ハイテク産業の発展に追いつけなかった。今日ではハイテク産業の一大拠点となっており、カリフォルニア州からの企業流入が著しい。
州都および最大都市はフェニックス市である。第2の都市はツーソンであり、その後に続くのはフェニックス都市圏に入っている8都市、すなわちメサ、グレンデール、チャンドラー、スコッツデール、ギルバート、テンピ、ピオリア、サプライズ、さらにユマ郡のユマである。
アメリカ合衆国の州になったのは1912年2月14日で、48番目の州であり、合衆国本土では最後の州だった。非常に暑い夏と温暖な冬の砂漠気候が特徴であるが、北部の松林や山岳部では低地の砂漠よりもかなり涼しい気候になる。
ということだが、実は、アメリカ国内においてアリゾナとは、「どこを見てもベージュ」の荒涼としたど田舎だと思われているらしい。
あまり・・・・・人気はなく・・・・2020年の調査でも下の図のようにその魅力のなさは明らかだと思う。
残念ながら、アリゾナがワースト1。アリゾナの上の州ユタは30位と中位に位置する。
こんな不人気で、虐げられた地を舞台にこの映画は選んだ。

しかしそんな可哀相な地を、この『赤ちゃん泥棒』は、ある映画評によれば「農村部のアリゾナを容赦なく陽気に描いた」と書いた。
え〜と、笑いものにしちゃったのである。
それに対して、アリゾナ州民が素直に反応した。
つまり激怒した・・・・・はあ・・・
テンペ市周辺で撮影が行われている時、地元新聞がシナリオを入手し、その時点で地元新聞は映画に対し強い否定的なレビューを掲載した。
批評家は、物語の不快な犯罪的要素に加えて、完成した映画は州の居住者を「服の趣味の悪い小人」として描いていると、全面拒否。
そんなに地元が怒っちゃったもんだから、ジョエル・コーエンは公式声明を発表。
彼は、映画が「心(想像)のアリゾナ」が舞台で、実際の場所とは似ていないと釈明し、何とか撮影も無事終了した。
しかし、テンペ市のスコデール市長の怒りは収まらず、映画の「社会的価値」の欠如と州の評判への潜在的な損害について、文句を言い続けていたらしい。
コーエン兄弟やらかしました・・・・
映画自体はコーエン映画としては珍しいくらい公序良俗に則ったモラル性の高い映画なのに・・・・
その陰で田舎イジリが・・・・ほんと人騒がせ。
そして下のラストシーンの項目に書いているが、最後の最後に、夢の中で幸せな家庭が築かれたのは「アリゾナ」ではなく、「ユタ州」だと言っちゃてるのである―
・・・・・ダメダ、コリャ。

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映画『赤ちゃん泥棒』解説キューブリックへのオマージュ |
洗面所にスプレーでペイントされる頭字語「POE」と「OPE」
博士の異常な愛情(1964)
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文字が鏡に反転表示
シャイニング(1980)
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ベートベン第九交響曲
「時計仕掛けのオレンジ」(1971)
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どれも、スタンリー・キューブリック監督の大・大・大・大傑作ばかりなので、ぜひご覧ください。

以下の文章には 映画『赤ちゃん泥棒』ネタバレがあります。 |
(あらすじから)ゲイルとエベルは銀行強盗に入り、逃走する際ジュニアを置き忘れた。逃げる車中でカラーボールが爆発し窓の視界を奪った。そこにハイが到着しジュニアが銀行に残されていることを知る。賞金稼ぎスモールズが一歩先にジュニアを手にしたが、何とかエドが救い出したものの、スモールズが襲い掛かる。ハイは身を挺してエドを逃がそうと奮闘する。しかし、スモールズの戦闘力は桁外れで、ついにハイにトドメを刺す瞬間が来た。
しかし近づく、スモールズはハイの手の中に手榴弾のピンがあるのを発見する。スモールズは、体中に装備した武器が誘爆し粉々に吹き飛ばされた。
映画『赤ちゃん泥棒』結末 |
ハイとエドはジュニアをアリゾナ家に戻したあと離婚すると決めた。
二人がアリゾナ家に忍び入ると、ネイサン・アリゾナに見つかってしまう。しかしネイサンは子供を欲する夫婦に同情し、警察へ引き渡さないばかりか、離婚を決意した2人を諭し、同じベッドで寝なさいとアドバイスした。
映画の最後は、エドと共にベッドに入ったハイの夢で終わる。
【意訳】俺は老夫婦が、訪ねてくる彼らの子供と全ての孫を待っているのを見た。老夫婦は、成功し、それは子供も孫も同様だった。でも分からない。教えてほしい。この夢の全ては、願望に過ぎないのか?現実逃避の、俺のよくやるやつか?でも、俺もエドも幸福そうだ。そして、それは本当のように見える。それは俺たちのようだ。そして、それは立派に見える・・・俺たちの家。アリゾナでなければ、遠くない所にある土地で、すべての親は強く、賢く、能力があり、すべての子供は幸せで愛されている。はっきり分からないが、たぶんユタかも・・・・
とりあえず、アリゾナに謝れ・・・・・
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