製作国 日本 製作年 1986年 上映時間 132分 監督 深作欣二 脚本 神波史男 深作欣二 原作 檀一雄 |
評価:★★★★ 4.0点
この映画は昭和の家族のある種の典型を描いて、今なお力があると思う。
本作品は1986年に公開されこの年の数々の映画賞に輝いた。
この映画は壇一雄の実体験を赤裸々に語った、同名小説を元に映画化された。

<目次> |
映画『火宅の人』簡単あらすじ |
昭和31年の夏、小説家桂一雄(桂一雄)は、妻ヨリ子(いしだあゆみ)を娶り、一郎(利根川龍二)、次郎(一柳信之)、弥太(大熊敏)、フミ子(米沢由香)、サト子(岡村真美)と5人の子供を授かっていたが、新劇女優、矢島恵子(原田美枝子)と恋愛関係に落ちた。一雄の身辺に不幸が重なり、次男・次郎が障害を負うなど、家庭が落ち着けない状況で、一雄は恵子を旅行に連れ出しそのまま彼女のアパートで同棲を始めた。妻ヨリ子は夫の不在の中、障害を持つ次郎を抱え、新興宗教にすがるようになっていた。一雄は若々しい恵子と狭いアパートの一室でお互いの体を貪り合う。一方のヨリ子は、一時家出をしていたが、次郎と子供たちのためと家に戻った。しかし、一雄と、恵子の間にもいざこざが絶えず、様々な事件が起こる中恵子が妊娠した。中絶を決意した恵子の付き添いに一雄は現れず、激しい喧嘩をした末一雄は、旅に出て五島列島行の連絡船にとび乗った。彼はそこで、京都で知り合った女性、葉子(松坂慶子)と夜を共にする。再び東京に戻った一雄のもとに、次男次郎の死が知らされる・・・・・・
映画『火宅の人』予告 |
映画『火宅の人』出演者 |
緒形拳(桂一雄)/いしだあゆみ(ヨリ子)/原田美枝子(矢島恵子)/松坂慶子(葉子)/利根川龍二(一郎)/一柳信之(次郎)/大熊敏志(弥太)/米沢由香(フミ子)/岡村真美(サト子)/谷本小代子(信子)/浅見美那(滝)/檀ふみ(桂一雄の母)/石橋蓮司(桂一雄の父)/伊勢将人(一雄の幼少期)/岡本大輔(若い大学生)/宮城幸生(刑事)/蟹江敬三(主任)/野口貴史(幹事)/相馬剛三(医師)/下元勉(病院の主事)/伊藤久美子(女郎屋の女A)/鈴木なつ子(女郎屋の女B)/井川比佐志(壷野)/荒井注(苅田)/谷口孝史(林)/徳永ますみ(看護婦)/下絛アトム(中島)/伊庭剛(佐々木)/山谷初男(葉子の養父)/宮内順子(葉子の養母)/真田広之(中原中也)/岡田裕介(太宰治)
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映画『火宅の人』感想 |
人気小説家が家庭を持ちながら、別の女性と暮らす日常を、作家の目線から描いた物語である。
主人公役の作家に緒形拳、その愛人役の原田美枝子、その愛人との関係が上手く立ち行かなくなって、ともに逃避行する相手に松坂慶子。
その原田美枝子と松坂慶子は「燦然」という言葉がふさわしい。若く、そして下世話な話だが裸体も美しい。
緒形拳はこの映画で高度成長期の日本の父親たちを、極端ながらも象徴している様に思う。
即ち、優先順位として一に仕事、二に自分の遊び、そして最後に家庭という行動様式である。実際現在の60歳以上の男達に尋ねれば、相当数の割合で子供を抱いた事が無いというであろう。
男は外で仕事し家庭を養えさえすれば、それ以外を大目に見るのが、日本社会における暗黙の了解だったのである。
しかしそれを可能にしたのは、この映画でいしだあゆみが代表した日本の母が、家庭を完璧に守る力を持っていたからである。
母達は父親が家庭を捨てて逃げてしまえば、たちまち家族を抱えて路頭に迷う事を知っているがゆえに、男たちの自由気儘を忍耐する以外方法が無かったのである。それを含んで、いしだあゆみの演技を見るとき、その押し隠した情念の凄まじさに慄然とする。
鬼はこういう状態の積み重ねによって生まれるのだと、そう思う。
監督深作欣二の演出も情念の深さを画面のそこここに埋め込む。それは、言葉によらず、間であったり、照明の陰影だったり、空の色に仮託されたりする。それまでの深作作品の動の演出と違い、静かにじっくりと撮られた映像は、この物語を語るのにふさわしい演出だと感じた。
じつはこの演出様式は「小津安二郎」を、どこか摸しているのではないかと疑っている。
関連レビュー:日本の家族の姿 『東京物語』 世界的にも高く評価される小津監督の名作 日本的な世界観、美意識が映像として定着 |
「小津」は「日本の家族の美」くしき部分のみを、慎重により分け、悪しき部分が見えたにしても、それは美しさを際立たせるための戦略的な汚れであった。
対して深作は、同じ様式を使いながらも「日本の家族の醜」い部分を際立たせた。
その結果、あたかも、小津のネガフィルムの様に見る者に迫ってくるのだ。
それは、かつて仁義という美名に偽装した組織暴力団の本質を白日のもとに曝したのと同様、過去に描かれた「日本の家族」が持つ美しき共同幻想を否定するものとして見える。
関連レビュー: 深作欣二の描く仁義なきヤクザ 『仁義なき戦い』 タランティーノにも影響を与えた名作 リアルな欲望を描いて、衝撃を呼ぶ! |
この映画においては、近代以降「日本の家族」が宿命的に持たざるを得なかった、その構成員の忍従が、小津的「美徳」ではなく仁義なき「悪徳」であることを明確にしめしている。
即ち「重くて困った」・・・・この主人公の最後の言葉が「家族」の本質だと・・・・・
その結論は、深作監督の人生もまたスキャンダルに彩られたものだった所から想像すれば、男の本音のように響くのである。

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映画『火宅の人』解説作家壇一雄と『火宅の人』考察 |
檀 一雄(だん かずお、1912年(明治45年)2月3日 - 1976年(昭和51年)1月2日)は、日本の小説家、作詞家、料理家。私小説や歴史小説、料理の本などで知られる。「最後の無頼派」作家・文士ともいわれた。また、西遊記の日本語抄訳もある(東京創元社ほか)。
代表作は、律子夫人の没後に描いた『リツ子 その愛』『リツ子 その死』、時代娯楽作品も人気があり『真説石川五右衛門』(1950年、第24回直木賞受賞)、『夕日と拳銃』など、また20年以上に亘り、書き継がれライフワークとなった遺作『火宅の人』(1986年、東映で異父弟のプロデューサーの高岩淡の企画、深作欣二監督、緒形拳主演により映画化)など。
女優の檀ふみは長女。エッセイストの檀太郎は長男。太郎と同じくエッセイストの檀晴子は太郎の夫人。妹に左翼活動家でイラストレーターの檀寿美がいる。(wikipediaより/写真:妻・ヨソ子、娘・檀ふみ、檀一雄)
小説は20年に渡って、死の直前まで書き続けられ、愛人の新劇女優入江杏子を含め、複数の女性との交際や、世界中を旅する放浪癖や、酒を飲み続ける放蕩の様子が、随筆的に描かれている。
通読すると超人気作家だった檀の「男の我儘」と、その我儘が生む軋轢に困り果て逃亡する己を、一種諧謔を持って描いている。人が自らの欲望に、素直に従ったならばどうなるかという実例として、実人生を通した壮大な実験を自ら記録した物とも思える。
その小説に書かれた檀の姿を通して見えるのは、ある人間がその「欲望を満たそう」とするとき、その人間の周囲の人間は「欲望をがまん」しなければならないと言う事実だ。
これは、一家の主「家父長」がその世帯の「経済力の源泉=唯一の稼ぎ手」であるがゆえに、絶大な権力を行使し得たからこそのワガママであったろう。
しかし、第二次世界大戦後の昭和の時代の男達にとっては、「稼いでいるのだから遊んでも構わない」というのは、一種の常識として社会に認知されていた。
それゆえ、檀一雄ほどの流行作家の稼ぎがあれば、家族を養う義務を果たした上で、野放図に欲望を開放し省みない、その姿はむしろ時代の男達の究極の「理想像」であったはずだ。
そして、しばしば、その時代の価値観の理想を体現した者は、憧憬と尊敬を集めるものなのである。
それゆえ、個人的な想像になるが、この檀の存在は自他ともに認める、魅力的な存在として周囲を魅了していただろう。
その証拠に、妻のヨソ子に取材した、沢木耕太郎の著書『檀』で、その檀の妻は夫にとって愛されるべき妻ではなかったと悔いを述べており、それは、もっと愛されたかったという心情の吐露に他ならないだろう。
やはり、檀は好き放題していて、周囲に不充足を感じさせたにしても、それにも増して愛されていたのである。
更に愛人である入江杏子も、15年に及ぶ交際の果て捨てられた相手に対し、その著書『檀一雄の光と影』の中では、思慕の情を述べている。
それはやはり、その時代の「価値観=理想形」にもっとも合致したキャラクターを保持していたがゆえの、人間的魅力ゆえではなかったか?
昭和の貧しい時代、男達は精一杯働き、家庭を省みず、精一杯遊んだ。
その時代の典型として檀一雄という作家は記憶されるべきだろう。
そんな、昭和の男の仕事と遊びの心情が、この「火宅の人」に記された、作家の述懐に込められている。
そして昭和の男達を遊ばせるために、女達は妻であるよりも母として、子供と共に夫の面倒を見るのが義務だった。
そんな昭和の時代ゆえに、妻ヨソ子という母の下に檀は戻り、愛された恋人・入江杏子は別れざるを得なかったと思ったりする。
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