評価:★★★ 3.0点
突然ですが、イタリアで離婚ができるようになったはついこの前、1974年のことです(でもないか・・・もう40年以上前ですね)
それまで、カトリック教国の総本山イタリアでは、「神の前で誓った聖なる婚姻を破棄するなんて言語道断」と言うわけで、離婚できなかったんです。
そこらへんの騒動を描いたマストロヤンニ主演の[イタリア式離婚狂想曲]を見ると、恋多きイタリア男も大変だというのが良く分かる映画でしたが・・・・そういえば同じイタリアで離婚できない話で言えば、ダスティン・ホフマン[アルフレード・アルフレード]というのも有りましたが、情け無い男をダスティン・ホフマンが好演していました。さらに言えば[クレイマー・クレイマー]というアカデミー賞を獲った「離婚映画」にもダスティン・ホフマンは出ていますが、この2本の映画を見てみると「離婚問題」のイタリアとアメリカのお国柄が見えてオモシロイと思います・・・閑話休題。
それほど、カトリックの教義が強く、信仰心も強いイタリアで撮られたとは思えないぐらい、この映画でのカトリック教会総本山・バチカンはダメダメに描かれています。
なんせ、コンクラーベ(新教皇決定会議)の教皇候補者達が、皆心の中で選ばれない事を祈るテイタラクぶり。
挙句の果てに、次の教皇に決まった司教は重責に耐え切れず、バチカンから逃亡してローマの街に隠れてしまいます。
結構笑えますし、実際にバチカンの「コンクラーベ」という、世界史を動かしてきた会議の実態を垣間見られたのは、大変興味深かったです。
主演のミシェル・ピコリの悲しげな顔が、なんとも痛ましく、思わず守ってあげたいなんて気になります。
しかし、笑いとともに、イタリアのような信心深い(迷信深い)国ですらこんな映画が撮られるほど、「宗教」というものが弱体化してしまったのだという事実に、正直びっくりしました。
カトリック教会=バチカンは、驚くほどキリストの権威を傷つける表現を嫌います(近年で言うと『ダ・ヴィンチ・コード』のボイコットなど呼びかけています)が、この映画には文句が出なかったと監督は語っています。
つまりバチカンとしても、この映画の内容を認めているということになるでしょうが・・・・・・本当にいいの?・・・・・・ちょっと心配になります。
実際「神よ、私を法王に選ばないで下さい」と祈るシーンから始まるこの映画は、この主人公がローマ法王に選ばれた瞬間、神に見捨てられたことを意味しませんか?
しかし正しい宗教心を持っていれば、どんな苦しい運命も「神の御心」なわけですから、喜んでその神の与え給う試練に立ち向かうのが聖職者としての正しい道です。
しかしこの映画では、法王に選ばれるような宗教人のはずなのに、主人公は神の下された運命に従えずに逃げてしまいますし、主人公の苦悩・混乱を癒すための手段が精神分析であると描かれています。
つまりは、宗教を極めた、信仰心の厚い聖職者ですら、神によって救われないと宣言したのも同然です。
さらにご丁寧に、監督自ら精神分析医を演じ、右往左往する聖職者達を仕切ったりします。
あたかも、現在宗教の混乱・迷走は、科学的な原理原則を宗教が無視しているからだと言わんばかりです。
ほんとに映画全体を通して、現代宗教の力のなさを、これでもかとばかりに茶化してくれます。
ホントにこの監督、カトリックに恨みでも在るんじゃないだろうか・・・・・
ホントにイタリアの皆さん、ここまで国教とも言うべきカトリックをオチョクられて平気なんですか?
もしこの映画に対し、宗教側からクレームがホントに出ていないんだとしたら、本格的に宗教の危機だと思ったりしますが・・・・・・
また、いやいやこの映画はそんな事言ってないでしょうと思っているのなら、それはそれで読解力に問題が有るんじゃないでしょうか・・・・・・
ま〜そんなこんなで、個人的には宗教の危機というものは、もうここまできているのだと思い知らされる一本でした。
蛇足ながら、日本題の「ローマ法王の休日」。
ウマイ!!この日本題だけで★五つ進呈しますと言いたいところですが、チョット困った所があります。
この題名は、かの名作「ローマの休日」をもじったモノですが、上で述べたようにストーリーもそっくりです。
しかし、「ローマの休日」の主人公アン王女は、自らの定めに殉じる決断をして、自らの玉座に戻ったが故に「休日」と呼べましたが、本作の「ローマ法王の休日」はそれとは反対の結末を迎えます。
それゆえ、細かいことを言えば「ローマ法王の休日」というよりは、実体を反映すれば「ローマ法王の逃亡」というのが正しい内容となっています。
そんなことを考えれば、原題「法王選定宣言」、英語題訳で「我等の法王誕生!!」なんて言うと、この映画のラストを考えたとき、さらに、今作の皮肉な風刺が際立つようにも思うのです。
関連レビュー「ローマの休日」:http://hirahi1.seesaa.net/article/402617039.html
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