評価:★★★★★ 5.0点
1989年ティム・バートン監督の「バットマン」。
この映画こそ、「マンガ」を実写化した映画の理想だと思っています。
え〜スミマセン・・・・今まで『マンガの実写ってホントに見たいですか』なんていって、散々ナンクセを付けてきましたが、今回は違います。
私は心を入れ替えました。
以前の『マンガの実写ってホントに見たいですか』で言わせて頂いたのは、「マンガと映画のリアリティーの違い」と「マンガ世界を映画世界に再構築することが困難」だという事でした。
(ご興味のある方は、『るろうに剣心』、『パラダイス・キス』のレビューをご覧ください。)
じゃ〜ド〜すりゃいいの?という問いに対する答を探し求めて、この映画です。
この映画は、バットマンの映画シリーズの第一作、ティム・バートン監督の成功の礎になった作品ですが、しかしそれ以上に、その後のヒーロー映画の原型=プロトタイプを提示した作品として画期的だと思います。
そしてこれはコミック版「バットマン」の物語世界に対する深い理解と尊敬があって、初めて可能だった「映画世界の構築」だと考えます。
まず、人物造型が素晴らしい。ヒーローや悪役の痛みや苦悩を描いて人間ドラマとしても、見応え十分です。
更に、物語の世界観の構築が、隅からスミまで完璧です。
しかしこのヒーローを描いた「映画世界の構築」において特筆したいのは、そのアクションです。
アクションの種類に、2種類あると思うのです。
分かりやすい例は、「ブルース・リー」と「ジャッキー・チェン」のアクションの違いでしょうか。
ジャッキー・チェンのような軽快なアクションは、スポーツ的な爽快感の印象からコミカルだったり軽い内容の表現に適します。
対して「ブルース・リー」の重く深い動きと間の取り方は、激しい感情と重いテーマを表すと思うのです。
実はこの映画は公開当時、日本では全然ヒットしませんでした。
その理由はたぶんこのアクションの違いのせいではないかと思うのです。
どういうことかといえば、日本のヒーロー物はTVの子供向け番組として軽快なアクションが主流です。
それ以上重いアクションになれば深いテーマ性がチラつきジャマになるでしょう。
そんな日本のヒーローの、軽やかでスピーディーなアクションの爽快感をこの映画に求めてしまった結果、つまらないという評価になってしまったのだと思います。
実際この映画のアクションの「重厚」さは凄いです。
その立ち姿の山のような揺るぎなさ。
静から一瞬の内に動へ変化する力強さ。
アクションの間のありかた。
一つ一つのアクションの存在感。
もうこれは「ヒーロー映画のヘビーメタル現象」と呼びたいくらいです。
私はこのアクションの描写スタイルを監督が選んだのは、原典コミックの「バットマン」の中に、このアクションがふさわしい物語を見出したためだと考えました。
そしていろいろ考えていく中で、発見したのです・・・・・・・・お互い対峙し、相手と一対一で切り結ぶ・・・・・・この静から動の間にプライドと勇気を示す、このアクションの原型は「中世の騎士物語」のように思います。
古典的な英雄譚、西洋の騎士物語、日本でいえば歌舞伎、それをこの映画で表現しようとしたと考えます。
こういう様式、表現をみれば、確かに原作の中に、騎士道精神から悪を退治し、騎士道精神ゆえにに苦しむという、ヒーロー像が潜在的に物語として或ることに気が付きます。
あまりにこの「バットマン」に対するヒーロー像の解釈がリアリティを持ってしまった故に、それ以後も決して騎士道に基づくとは思えないヒーローまで、この映画の様式に乗っ取った表現を模倣するほどです。
この映画に見られる、原作の「物語世界」にたいする深い解釈。
その解釈に基づく、「映画世界のリアリティ」の完璧な構築。
結果として、「映画世界」と「マンガ世界」まるで別の表現ながら、その物語の精神世界において通底し、それぞれ共通の「物語」を、違うメディア表現によって成立させる事。
こういう「原作漫画」と「実写映画」の理想の形が構築されたとき、その原型は豊饒な「物語世界」となって無限の広がりを獲得するでしょう・・・・・・そして、人々の心の中に永遠に「真実」として成立するに違いありません。
そんな「原作漫画」と「実写映画」の敬意と理解によって築きあげられた、そんな「マンガの実写だったら、ホントに見たいです」
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