映画評価:★★★ 3.0点
小説評価:★★★★ 4.0点
戦国の時代を描いて、娯楽作品として楽しめる映画になっているように思います。
この映画は秀吉が全国制覇を成し遂げんとする途上、北条征伐の一環として北条方の支城である行田忍城の攻防戦を描いて迫力が有ります。城を守る成田長親の指揮の元、武士団と領民が立てこもる城を、石田三成が攻めます。
その我彼の戦力差は2万対2千という隔絶したもの。
この圧倒的な戦力差を、成田長親=のぼう様の統率力で勝つというストーリーです。
歴史の埋もれた事実を掘り起こして、劇として組み立てて展開する力は素晴らしいと思いました。
この映画は最初に和田竜の脚本が在って製作が決定され、それを機に自ら小説を執筆したものです。
私は小説を先に読んでいました。
そのため、この映画に関しては、見る前から自身の物語像を持っていたのは、間違いありません。
私はこの小説を読んだ時に、成田長親=のぼう様の人物造形に感心し、この主人公に魅力を感じたのです。
大きな空。
遥かに広がる海。
そんな果てのない、つかみ所がない、茫漠とした、それで居て見る者を惹き込む強い力をこの主人公が持っているように思いました。
だからこそ、この物語が説得力を発揮し得ると感じました。
この籠城戦の死さえ覚悟しなければならない戦いに、将士足軽、果ては領民まで巻き込むほどの、大いなる磁力を小説の主人公が確かに持っていたからです。
そういう意味で、私にとって、この小説は魅力的なキャラクター「のぼう」と同じ時間を共有させてもらった、幸せな小説でした。
それではこの映画はどうでしょう。
語られるストーリーは同一著者なのですから、当然ながら小説とほぼ同一です。
しかし小説ほどの爽快感を感じませんでした。
よくよく考えてみましたが、結論としては野村萬斎の「のぼう」が、私の中の小説の「のぼう」と、決定的に違うということに尽きるようです。
イメージを映画にフィットさせるため、何度か繰り返し見ていっても得心が行かず、ついに野村萬斎の「のぼう」ではこの物語が成立し得ないとさえ思うようになりました。
誤解のないよう言わせて頂ければ、演技に問題があるわけではありません。
出演者の中でただ一人、舞台的=狂言的なしっかりした芸をし過ぎたかもしれませんが、それも映画全体を壊すほどの浮いたものだとは思いません。
逆に言えば、舟上で舞うシーンは伝統芸継承者のこの人でなければできない踊りだったでしょう。
しかし違うのです。
この「のぼう」が、三千人を一手にまとめて、命を投げ出させるほどの魅力を、光芒を、オーラーを、放っているとは感じられないのです。
そんな事はないというかもしれません。
この映画の「のぼう」のために、おれなら死ねるというかもしれません。
しかし、小説に描かれたキャラクターと比べた時に、どちらがより命を賭けられるかは、私はハッキリしていると思います。
もう一度言いますが、これは野村萬斎の責任ではないでしょう。
正直言って、こんな「でくの坊」でありながら、誰もが魅了され思わず助けたくなってしまう人物を演じる事が可能な人物がいるでしょうか?
これはもう演技のレベルの話ではなく、人間的な魅力「カリスマ性」の問題です。
そもそも接する人全てを虜にし、命さえ自由に扱える「カリスマ」を、演じる事が出来るものでしょうか?
例えば日本の俳優ハリウッドスターまで考えてみても、この主人公を演じられる役者がいるでしょうか?
トム・ハンクスの爽快さはいいようにも思いますが、命まで捧げられるかどうか。
いっそオーラだけなら、市川海老蔵という手もありますが、逆に全ての人間が助けてあげたいというキャラクターかどうか。
チャールズ・チャップリンなら人恋しくてソワソワした感じが、思わず助けてあげたくなる雰囲気ですが、武士としての凛とした部分をどうするか。
いっそのこと、マンガ家の蛭子さんあたりが、イメージに近い気もしますが、侍役ではないデスネ。
結局、小説であれば読者各自のイメージの中で成立する「カリスマ性」は、生身の役者となってスクリーンに出てきた瞬間、見る者が感じるか否かという二者択一になってしまうように思います。
そう考えた時に方法としては、個人の演技者の「カリスマ性」に依存するのではなく、主人公の周囲の人間の反応や、状況証拠を積み重ねることで逃げるしかないのではないでしょうか?
そういう意味では、脚本がそこら辺を丹念に表現した方が、現実的な映画表現だったように思います。
そんなこんなで、表現メディアが違うと、表現すべき力点がかわってくるのだなぁと思いました。
あ!思い出した!
「のぼう」そのままの人!
それは、若き日の長島茂雄その人です。
考えてみればこの人こそ、日本史上最高のカリスマではないでしょうか?
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