2018年02月22日

映画『THE 4TH KINDフォース・カインド』未知と概知とポスト・モダン/あらすじ・感想・解説・恐怖のリアリティー

「列車の到着」の後に残る物

原題 The 4th Kind
製作国 アメリカ
製作年 2009
上映時間 99分
監督 オラトゥンデ・オスンサンミ
脚本 オラトゥンデ・オスンサンミ


評価:★★★    3.0点



映画の始祖、リュミエール兄弟が1895年に撮影した『ラ・シオタ駅への列車の到着』という作品は、劇場に来た観客をパニックに陥れたという。
『ラ・シオタ駅への列車の到着』

映画が真に虚像だと、観客が心理的に整理できていない時代に、遠くから列車が近づいてくるのだから、恐怖を覚えて当然ではないか。

もしそれが現実だったら間違いなく死ぬ。
たかだか娯楽の為に、命を賭けるわけにはいくまい。
そして、この映画『フォース・カインド』の根底にも現代人が持つそんな心理が反映され、恐怖として迫り来る映画だ。

映画『フォース・カインド』ストーリー

冒頭ミラ・ジョヴォヴィッチが語りかける。
この映画はアラスカ州ノームで実際に起こった事件を元に作られており、リアルに伝えるため記録された映像と、再現した映像の両方を使ってると。
アラスカ州ノーム。960年代から行方不明事件が頻発し、FBIによる捜査も2000回を超えていた。そんな地で、夫を何者かに殺害された心理学者のアビゲイル・タイラー博士(ミラ・ジョヴォヴィッチ)は、2年前に夫を不審な死で亡くしていた。そんな博士の元には、町の患者たちが不眠を訴え続々と訪れた。患者達は揃って、午前3時頃に目の大きなフクロウの夢を見ていたということが語られた。
タイラー博士は彼らの、夢の正体を突き止めようとしたが患者は記憶を喪っていた。しかし、1人の患者が催眠中に錯乱し、パニック状態となった。患者は催眠から覚醒後、逃げるように病院を後にした。状況を精査する中で、タイラー博士はノームの住民は"the 4th kind"(宇宙人による誘拐・拉致)に遭遇してると考え、夫の死も宇宙人によるものだと確信を持った。しかし、同僚のエイブル・キャンポス博士(イライアス・コティーズ)は、それを否定した。
ところが翌日(10月3日)睡眠状態でパニックに陥った患者が、家族を人質にして自宅に立てこもり、無理心中を図るという事件が起き、その事件の実態はビデオテープに録画されていた・・・・・・

映画『フォース・カインド』予告



映画『フォース・カインド』出演者

アビゲイル・タイラー博士(ミラ・ジョヴォヴィッチ)/オーガスト保安官(ウィル・パットン)/エイブル・キャンポス博士(イライアス・コティーズ)/アウォロワ・オデュサミ博士(ハキーム・ケイ=カジーム)/トミー(コーリイ・ジョンソン)/スコット(エンゾ・シレンティ)/アシュリー・タイラー(ミア・マッケンナ=ブルース)/ロニー・タイラー(ラファエル・コールマン)/ウィリアム・タイラー博士(ジュリアン・ヴェルゴフ)/デリーザ(ダフネ・アレクサンダー)/ジェシカ(サラ・ホートン)/シンディ(アリーシャ・シートン)/サラ(タイン・ラファエリ)/ライアン保安官補(エリック・ローレン)


スポンサーリンク


film1-Blu-ue.jpg

映画『フォース・カインド』感想・解説



この映画は、事件の記録映像と、ミラ・ジョヴォヴィッチら俳優による再現ドラマを組み合わせ、その映画内の事件が「事実」かを明かすことは無い。
つまりは、フィクションかノンフクションかを曖昧にした、フェイク・ドキュメンタリーの手法を用いている。
さらには、近年蓄積された「映像資料=映像リアリティー」の映像表象として刷り込まれた、画像・演出に満ちている。

ドキュメンタリーの手法や、再現フィルム、映像資料、個人撮影映像を積み重ねることによって、リアリティを構築しようとする努力が効果を上げている。
4th-pos1.jpg
つまりは映像スタイルによって、人にリアリティーを感得させる、「モキュメンタリー」や「POV」が見る者に「現実=ドキュメンタリー的リアリティー」の迫真力を持ちえるのは、人間の知覚・認識という物が如何に無意識の内に支配されているかの証左で在るだろう。
そもそもリアリティ表現とは、全ての表現物にとって永遠のテーマである。

単純に言って、人が殴られたシーンを傍観しただけでも多かれ少なかれ見た者は「傷」を受けざるを得ない。
ましてや観客にとって、在る表現が「リアリティ=現実感」を持って伝わったとするならば、それは見る者にしてみれば「実体験」として心と体に刻み込まれたことを意味するであろう。


そして、実感として「表現」が沁み込み得れば、それは観客の人生の一部と化して「表現」が永遠の命を勝ち得たと考えるべきだろう。

それゆえ、全ての表現は「リアリティ」を求めて苦闘せざるを得ないのである。

関連レビュー:映画とリアリティーの関係
『七人の侍』
黒澤明監督の古典的名作映画
西部劇へのリメイク多数の傑作

そういう意味でいえば、この映画の映像表現がもたらす目新しい効果は、明らかに現在のところ「リアリティー」を付与する効果を上げている。

4th-shout.gif
しかし更に進んで、冷静にこの映画を分析してみればストーリーは使い古されたモノであり、その演出は叫び、泣き、驚愕の表情を繰り返す演技によって、観客を驚かせることのみを目論んでいるように思える。

つまりは、映像的リアリティ表現の完成度以外、この映画で語るべきものはないというように思う。
それは『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』でも明らかなように、アマチュア的な映像のチープさがドキュメンタリー的な映像リアリティーにつながるという発見の、敷衍・延長としてあるように思う。
関連レビュー:POV とモキュメンタリーの誕生
『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』
近代ホラー映画の革命映画
以後のホラー作品に影響を与えた歴史的一本

Film.jpgしかし、これら近来の「ドキュメンタリー」や「映像資料」を模した映像リアリティは、演出やストーリーテーリングを語ることが出来ない。
なぜなら「ドキュメンタリー」や「映像資料」に演出や物語が持ち込まれたとき、それは「ヤラセ」と呼ばれる「嘘」となってしまうからだ。

従って、これらの表現は従来の映画的な話法を否定する形で、リアリティを確立したといえるだろう。
つまりこの映画の映像表現の「ユニークさ=新奇性」は、反映画的で在るが故に「映画的リアリティ」を得たのである。

そう考えたとき、この映像表現のリアリティーがどこまで効果を持ち得るかという点に、再び疑問を持たざるを得ない。
しかし、物語の本質を持たない「映像の新奇性」は、「ラ・シオタ駅への列車の到着」を見て現代では誰も逃げ出さないことで明らかなように、目前の危険が自らに害を及ぼさないと納得してしまえば、その刺激は効果を失う運命であるだろう。

冷静に検証すれば、この映画の映像的リアリティーが生む恐怖の効力は、早晩、力を失うという結論に達するに違いない。

そんな映像の効力の減少を見越してか否か、この映画ではさらに「従来の映画的な話法の否定」を更に重ね、映画内の事件が現実に発生したものかを曖昧にする。

それゆえ、観客によっては「現実世界の真実」だと誤認するものも出た。

映画『フォース・カインド』広告手法

本作の予告編は、映画の物語が「実際の事件」に基づいたものだと説明しているが、具体的な事件は明示していない。そのため、事件の証拠資料の存在やアビゲイル・タイラー博士が実在の人物であるかなどについてさまざまな憶測が流れた。
2009年9月1日付けで報告されたアンカレッジ・デイリーニューズの調査によると、映画が謳うノーム周辺の失踪事件に裏付けはなく、ノームにおける原因不明の死者の数は他のアラスカ州の都市と大差ないという。ノームを含む人里離れた地域では地形が厳しいのに加えアルコール使用障害患者の割合が高いことが、それらの地域での行方不明の多くに結びついているとするのが一致した意見である。
2009年11月12日、ユニバーサル・ピクチャーズは映画を実際の事件に基づいていると見せかけるためネット上のニュース記事や訃報を偽造したことを認め、「映画の宣伝のために偽造されたニュース記事に関する苦情を解決するため」アラスカ記者クラブに2万ドルの和解金を支払うことで合意した。(wikipediaより)

これらの広告でも明らかなように、この映画が追求したものは映画と現実の境界を曖昧にし、観客を騙すことで恐怖を生んだと言わざるを得ない。

結局この映画の本質は、現実のリアリティーを騙ることで、観客を映画的な仮想世界から離脱させようとしていると言える。
それは過去の映画が、複雑な現実を整理し理想を語るべく、その表現を深化してきたことを思えば、相反するベクトルにあるものだとしか思えない。

例えば、キューブリックの示した映像の純粋な「恐怖表現」の映画的な高い技術と較べると、この映画がもたらした恐怖とは単なる詐欺行為に過ぎないとすら感じる。
関連レビュー:モダンホラーの映像的表象
『シャイニング』
近代ホラー映画の古典
キューブリック監督と恐怖映画の歴史

しかし「映画的な完成度」が、自然世界に対する「人為的解釈=理想」によっていたのだとすれば・・・・・
人間社会が「ポスト・モダン」以降に自然世界を解釈し得ず、混迷の度を深めていることを考えれば、この映画の示した映画世界と自然世界の不分明な混乱は同じ現象であるのかもしれない。




posted by ヒラヒ at 17:28| Comment(0) | TrackBack(0) | アメリカ映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス: [必須入力]

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック