製作国 日本 製作年 1980 上映時間 119分 監督 村川透 脚本 丸山昇一 原作 大藪春彦 製作 角川春樹 |
評価:★★★★ 4.0点
この映画に関して言えば、昭和の男達を興奮させた大藪春彦という小説家の創造したヒーロー「伊達邦彦」を表現することよりも、役者・演技者としての松田優作を証明しようと作られた一本であるように思えてならない・・・・・・・
しかしまた原作に対する大幅な改編を成さねば表現し得なかった、松田優作の鬼気迫る演技は、間違いなく一見の価値がある。
個人的な印象で言えば、この映画こそ稀代の俳優・松田優作が、本当に演じたい役をとことん演じきった、最初の一作だと思う。


映画『野獣死すべし』予告 |
松田優作(伊達邦彦)/小林麻美(華田令子)/室田日出男(柏木秀行)/根岸季衣(原雪絵)/風間杜夫(乃木)/岩城滉一(結城)/泉谷しげる(小林)/前野曜子(沙羅)/佐藤慶(遠藤)/青木義朗(岡田)/鹿賀丈史(真田徹夫)/山西道広(黒岩)/安岡力也(峰原)/トビー門口(奥津)/井上博一(立花)/吉岡ひとみ(石島)/江角英(梅津)/岡本麗(エリカ)/草薙幸二郎(氷友)/関川慎二(白井)/加藤大樹(平井)/阿藤海(東条)/角川春樹(警官)/清水宏(銀行ガードマン)
映画『野獣死すべし』出演者
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映画『野獣死すべし』感想・解説 |
結局この映画の眼目は、松田優作が演技者として「ヒーロー」となり得るか否かだっただろう。

少し言葉が足りていないと感じるので補足するが、『野獣死すべし』の前年に主演した『蘇る金狼』は、アクション・スター松田優作が「ヒーロー」を演じる事でヒットした。
しかし、文学座に在籍した硬派の演技者としての欲望に抗えなくなった松田優作は、もう自らをスターダムに押し上げた、煌びやかな「アクション・スター」として存在したくなかったに違いない。
それゆえ、この「野獣死すべし」では、狂気を演じる事で役者としての松田優作を表現した。
その演技は鬼気迫るもので、見る者に強い衝撃を与え得るものだ。
しかし、同時に「スター」として「ヒーロー」として呼ぶべき対象としては、成立し得ていない。
なぜなら、スターでありヒーローであるというとき、世間大衆の「憧れ」として存在せねばならないだろうが、この映画の演技は故意にその期待を裏切ろうとしたように見える。
ここで描かれたのは、「アンチヒーロー」でもなく、アンチヒーローの精神構造の松田的解釈であったように思う。

いずれにしても、これ以降、松田優作は演技者としての純度を上げる方向に進み、ついに「スター」の座に戻ろうとはしなかった。(以降の作品からすれば唯一、遺作の「ブラック・レイン」でヒーローの香りを感じえるが・・・・)
振り返ってみれば、この映画が、松田優作にとっての演技者としての分岐点になったと感じる。
しかしそれ故でもあろうか、商業映画としての成功と演技者としての満足の両者を追い求めたが故に、個人的にはエンターテーメントとしては力がなく、芸術作品としては演技の過剰さが物語から遊離しているように感じられた。
やはり、どっちつかずの過渡的な作品と言わざるを得ない・・・・・・
しかし、それでも松田優作の持つ特異な演技のオーラだけでも★四つは十分あるので、ただのなんくせではある。
ついでに、さらにないものねだりを重ねさせていただければ・・・・・・
原作、大藪春彦の「野獣死すべし」は、戦争中の暴力と悪逆の中で少年期を過ごした少年が、兵士のまま成長し平時である戦後を戦い抜く物語だ。
そこに描かれているのは、戦争の狂気を統べて、現在を復讐の為に生きる鬼神である。
対してこの映画の主人公は、ベトナム戦争に従軍したカメラマンであり、その戦場の光景にショックを受けた、単なる「錯乱者」に過ぎない。
そんな現代のヒヨワナ坊ちゃんを演じたところで、やはり深い表現には達し得なかったと思うのだ。
関連レビュー:戦後日本へのルサンチマン 小説『野獣死すべし』 大藪春彦の大ヒット・アクション小説 戦後日本を作り上げた怨念 |
仮に、この原作小説の本質をそのまま表現し得たならば、鬼気迫る人物像とその戦いの相乗効果により、商業的な要請と芸術的な完成度の高さを、共に満たせたのでは無いかと夢想するのである。
そんな松田優作の「伊達邦彦」・・・・・・それを見たかったと夢想する。
なぜなら、松田優作の演技表現の根源的モチベートが、戦後日本の生んだ平和の代償として切り捨てられた少数者達の「ルサンチマン=怨恨」であったように個人的には感じられる。
そして、それこそ小説の中の伊達邦夫が、一貫して闘い続ける理由だったのだ。
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