評価:★★★ 3.0点
クイズです。
この映画でトム・ハンクスが流れ着いた島の名前は何でしょう?
それはそれとして・・・・・・・
この映画は大変チャレンジングな作品だと感じました。
心意気に打たれました。
たとえば現在のハリウッド映画の、シビアなコストと利益の差引勘定から考えれば、必然的にその内容は万人受けするものにならざるを得ません。
なぜなら何百億もの資金を投入して作る映画の確実な利益回収方法は、あらゆる世代対象に訴える力を持たねばなりません。
それゆえ、ハリウッド・ブロックバスター(大作作品)は、老若男女に受ける題材としてアクションが多く、一度当たった映画の続編が多くなる傾向があります。
さらに言えば、確実に集客できる「スター」の存在は欠かせません。
出演料に何十億も払うのは、伊達や酔狂ではなく、確実に出演料以上の収益が見込まれるからです。
そんな観点で見てみると、この映画はハリウッド大作映画の「コンテンツ=内容」として奇妙です。
飛行機の墜落によって漂流した、主人公の様子を2時間以上、BGMも、危険な事件も、驚くような展開もなしに、トム・ハンクス一人で演じています。
奇妙だというのは、こんな地味な映画の企画が良く通ったものだという・・・・・・
しかし、プロデューサーの名前を見て納得しました。
そこにはトム・ハンクスの名前があったのです。
つまりは、主演俳優のギャラと製作資金がトム・ハンクスがプロデューサーになる事によって、軽減されたに違いありません。
逆に言えば、トム・ハンクスにとって、私財を投げ打っても挑戦したい役であり映画だったと言えるのではないでしょうか。
たった一人の演技で映画を「持たせる」なんて事は、最近のハリウッドの現状から言って、有り得ない夢物語のように思います。
だからこそ役者として、トム・ハンクスは不可能に挑みたかったに違いありません。
下手をしてコケたりすれば、致命傷になりかねないチャレンジでしょう。
その勇気と情熱に拍手を送りたいと思います。
しかし同時に、役者として演技の「やり甲斐」を間違いなく感じていたように思います。
そう思えば、ハリウッド大作映画を自分の趣味として扱えるトム・ハンクスの「力」に羨望と憧憬を感じるのは、私だけでしょうか?
それで、映画としての感想ですが・・・・・
映画として面白くは無かったです・・・・私は。
実はこの映画を見ながら、別の映画の事を考えていました。
それは、巨匠ヒッチコック監督の「ロープ」です。
「ロープ」もノーカットの撮影と、映像時間と現実時間が一緒という、実験作でした。
その、チャレンジはヒッチコックならではと、高く評価されていたように思います。
しかしヒッチコックはその本「映画術」の中で言いました「もう2度とこんな馬鹿なまねはしない」と。
この言葉は、その撮影が信じられないくらい大変だったという意味合いと同時に、映画として観客に十分なサービスを成し得ていないという反省の弁でもあります。
そして、その理由として「モンタージュ」の重要性という話になるのですが、私個人として思うのは「ロープ」にしても「キャスト・アウェイ」にしても、作り手側の「都合=欲求」を満たすために作られている作品なのだろうと感じました。
つまりは上記2作品とも、観客を楽しませる目的よりも先に、製作者側の趣味趣向が優先されているように思うのです。
そう整理してみて、更に思い起こすのは日本の製造業です。
かつて、その安さと高品質で世界中を席巻した「メイド・イン・ジャパン」は、今や高額商品は「ヨーロッパのブランド」に占められ、安価な製品はアジアの人件費の安い国々に駆逐され、没落の一途です。
その理由は単純に言って、安価な高性能という日本製品の位置づけが、日本人の人件費の上昇と共に「高価な高性能」製品として流通させなければペイしなくなったという事情があります。
そんな背景はあったにせよ、日本の産業界は決定的なミスを犯します。
それは、良い製品=高機能な製品ならば、受け入れられるだろうという盲信です。
その盲信に従って、メーカーは次々と新しい機能や革新的な技術を、その製品に組み込んでいきました。
たしかに「素晴らしい製品」であるのかもしれませんが、それは世界中の大多数にとって「高価ないらない機能」にしか過ぎませんでした。
結局、「ユーザー」が求めているのは「必要な機能」が安価に供給される事だったのです。
こうして、作り手側の「自分勝手な=独善的」な製品は、ユーザーにとっては魅力のない製品になってしまいました。
こんな、ユーザーの意向を無視した日本製品は、いつしか「ガラパゴス製品」と呼ばれるようになりました。
ということで・・・・・・
この映画の主人公が漂流した島の名前は「ガラパゴス」という事で、いかがでしょう?
スポンサーリンク
【関連する記事】
- 映画『ピアノレッスン』美しく哀しい女性映画!再現ストーリー/詳しいあらすじ解説・..
- 映画『我等の生涯の最良の年』考察!本作の隠された主張とは?/復員兵ワイラー監督と..
- 映画『我等の生涯の最良の年』戦勝国米国のリアリズム!感想・解説/ワイラー監督の戦..
- 映画『シェーン』 1953年西部劇の古典は実話だった!/感想・解説・考察・スティ..
- オスカー受賞『我等の生涯の最良の年』1946年のアメリカ帰還兵のリアル!再現スト..
- 古典映画『チップス先生さようなら』(1939年)戦争に歪めれた教師物語とは?/感..
- 古典映画『チップス先生さようなら』1939年のハリーポッター!?再現ストーリー解..