製作国 日本 製作年 2012年 上映時間 111分 監督 降旗康男 脚本 青島武 原作 森沢明夫 |
評価:★★★★ 4.0点
俳優高倉健が没した。
享年83歳だったという。
その軌跡は日本映画の衰退期にあって、一人日本映画の孤塁を死守したというべき生涯だった。
そんな日本映画界の至宝の遺作として、相応しい一本になっていると感じた・・・・・

<目次> |
映画『あなたへ』簡単あらすじ |
妻を喪った富山刑務所の刑務官・倉島英二(高倉健)のもとに、絵葉書が届く。それは亡き妻・洋子(田中裕子)からで「故郷の海に散骨してほしい」と記されていた。倉島は亡き妻の真意を確かめるために、同僚の塚本(長塚京三)に退職願を出し、洋子の故郷である長崎県・平戸に向けて、車で長い一人旅を始める。途中、杉野(ビートたけし)という、妻を亡くして一人旅をする元国語教師の男と出会い、俳人・山頭火の句集を貰った。しかし杉野は車上荒らしで、警察に逮捕された。大阪では実演販売をする田宮(草g剛)と知り合い、彼が妻の浮気の真相を知るのを恐れていると知る。田宮の部下・南原(佐藤浩市)は平戸出身者で、一夜島倉と酒を酌み交わす中で、故郷への複雑な事情を思わせたが、最後に散骨の船の手配に窮したら、連絡するようにと知人の電話番号を残した。平戸に着いた倉島は、散骨の船を探すが、南原の知人の漁師・大浦を含め、拒否された。平戸で台風に見舞われた島倉は、その地で食堂を営む濱崎多恵子(余貴美子)と娘の奈緒子(綾瀬はるか)に出会い、一夜の宿を供された。多恵子は夫が行方不明で、娘の奈緒子が結婚すると、倉島に話した。翌朝、島倉は妻の遺志を果たすため、再び大浦を訪ねる・・・・
映画『あなたへ』予告 |
映画『あなたへ』出演者 |
倉島英二(高倉健)/倉島洋子(田中裕子)/南原慎一(佐藤浩市)/田宮裕司(草g剛)/濱崎奈緒子(綾瀬はるか)/濱崎多恵子(余貴美子)/大浦卓也(三浦貴大)/漁協の役員(石倉三郎)/お好み焼き屋の客(岡村隆史)/笹岡紀子(根岸季衣)/大浦吾郎(大滝秀治)/塚本和夫(長塚京三)/塚本久美子(原田美枝子)/警官(浅野忠信)/杉野輝夫(ビートたけし)

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映画『あなたへ』感想 |
<高倉健の歌う『唐獅子牡丹』>
さらに下って、社会が安定し高度成長時代に入ってからは、TVに主役を奪われた映画界にあって『新幹線大爆破』、『八甲田山』、『南極物語』など、映画だからこそ可能な大規模スペクタクル作品の主役として、堂々たる演技を見せた。
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そしてまた『幸福の黄色いハンカチ』、『鉄道員(ぽっぽや)』、『居酒屋兆治』などの作品を通じて、高倉健という俳優の持つ佇まいの説得力で、時代、時代の男達の理想型を表現してきた。
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そして、その「男の形」は高倉健と同年代の男性のみならず、高倉健に己れを仮託した団塊の世代にも強い影響力を持っていたように思う。
やはり希有の俳優であり、映画スターとしては絶後の存在であるだろう。
そんな高倉健の遺作となった『あなたに』ににも、日本の男達の姿が鮮明に顕されているように感じた。

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映画『あなたへ』解説 |
この映画全編を通して、愛する者を失ってしまった人間の哀しみが胸を打つ。
愛するものから我が身と心を離していく行為は、痛切な思いを呼ぶ。
しかし、この映画にはそれだけでない、日本の男達の特殊性も描かれているように思える。
たとえば主人公のその心境は、劇中で俳人山頭火になぞらえられている。
すなわち「漂泊」である。
ひょう はく へう− 【漂泊】 ( 名 ) スル @ 一定の住居や生業なしにあてもなくさまよい歩くこと。さすらい。 「 −の旅」 「日本中を−して歩く」 A 流れただようこと。船が投錨せず、機関を停止してただようこと。(三省堂 大辞林 より) |
種田 山頭火(たねだ さんとうか、1882年(明治15年)12月3日 - 1940年(昭和15年)10月11日)は、日本の自由律俳句の俳人。山頭火とだけ呼ばれることが多い。佐波郡(現在の山口県防府市)の生まれ。「層雲」の荻原井泉水門下。1925年に熊本市の曹洞宗報恩寺で出家得度して耕畝(こうほ)と改名。本名・種田正一(たねだ しょういち)(wikipediaより)<山頭火紹介動画>
高倉健に代表される団塊の世代の男達にとっては、妻に先立たれてしまえば根無し草のように、漂うしかないのだという事に気づかされる。

そしてまた、あらゆる年代の男達が劇中に描かれているが、そのいずれもが妻との絆を喪っている。
妻に先立たれ男。
家を捨てた男。
妻に浮気された男。
結局この男達は、妻という支えがないが故に漂わざるを得ないのだと語られていると感じる。
それは老年夫婦を演じる長塚京三・原田美枝子の、落ち着いた充足した生活と対比を成すものだ。
そう思うとき、この映画で描かれた日本の夫婦関係は、夫がいかに妻に依存しているかという事実を示している。
死んだ妻が、自分の死後に夫の精神的自立を促すために、手を貸すなどというのは、コッケイにすら感じられる。
しかし、実際過去に日本の男達が敗戦後の焦土から、奇跡の復興を成し遂げる為には、妻たちの忍従と献身なしには有り得なかった。
つまり、高倉健がかつて演じた男の中の男とは、妻の、母の、日本の女達の支えがあってこそ成立した。
そんな昭和の妻たちは、名目的には『妻』だが実質は『母』としと在ったように思える。
外で元気に遊ぶ子供たちを、優しく見守る母親の心情が『妻』たちに在ったであろう。
そう思えば、この映画で高倉健が辿る旅とは、母を求める旅路であったろう。
日本の男が男であるためには、『妻』という名の『母』を必要とし、その『母』を喪失する事がどれほどの衝撃を持ち得るのかが表わされている。
そして図らずも『妻=母』に対する依存を描いたこの映画は、日本の戦後を支えた本質が「女=母としての献身」にあったのだと、証明していると思う。
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昭和を背負って立った高倉健の遺作として、見事に昭和を総括し得た映画だと感じる。
彼の残した「男の栄光」を描いた作品の残照として、哀切な余韻を残す映画ではないだろうか。
それはまるで、男が男でいられた昔に、惜別を告げているように思える。
高倉健という俳優人生の終焉としても、完璧な句点として在るように感じる。
その魂の安らかならん事を・・・・・・・・
追悼<高倉健CM集>
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