2020年12月23日

映画『雨上がる』黒澤時代劇の残照/感想・解説・ネタバレなし簡単あらすじ・考察・本家取りの作法とは

黒澤組の新たな時代劇映画

製作国 日本
製作年 2000年
上映時間 91分
監督 小泉堯史
脚色 黒澤明
原作 山本周五郎


評価:★★★☆  3.5



この映画は巨匠・黒澤明の遺稿を、その弟子ともいえる 小泉堯史が監督を勤め、黒澤組が揃った、骨太の日本映画となっています。

出演の寺尾聰と宮崎美子も、作品世界にしっかりと溶け込んで、映画として高い完成度を見せ「日本アカデミー賞」の各賞に輝く、本当に黒澤作品が思い起こされる秀作です。

そして、この映画は「時代劇」の新たな地平を切り開く作品となったように感じます・・・・
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<目次>
映画『雨あがる』ネタバレなし簡単あらすじ
映画『雨あがる』予告・出演者
映画『雨あがる』感想
映画『雨あがる』解説
映画『雨あがる』考察・批判

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映画『雨あがる』あらすじ


江戸幕府治世下の亨保。武芸に秀でていながら浪人の境遇にある武士・三沢伊兵衛(寺尾聰)はその妻・たよ(宮崎美子)を伴い仕官を求めて旅をしていた。長い大雨で足止めをくらった二人は、ある宿に長逗留せざるを得なくなる。その宿には雨で仕事も得られない日雇い労務者や貧しい人々がひしめき、長引く雨に苛立ちが募り喧嘩が始まる始末だった。そんな投宿者の心を和ませようと、人の良い伊兵衛はご法度の賭試合で得た金で、宴会を開き喜ばれた。翌日、雨が止み外に出た伊兵衛は若侍同士の決闘に遭遇し、仲裁に入りその場を収めた。その地の藩主・永井和泉守重明(三船史郎)は、伊兵衛の力を認め剣術指南番に登用しようと、御前試合を行った。そこで藩主とも立ち会い池に落としてしまう・・・・・・・・
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映画『雨あがる』予告

映画『雨あがる』出演者

寺尾聰(三沢伊兵衛)/宮崎美子(三沢たよ)/三船史郎(永井和泉守重明)/吉岡秀隆(榊原権之丞)/原田美枝子(おきん)/仲代達矢(辻月丹)/檀ふみ(奥方)/井川比佐志(石山喜兵衛)/松村達雄(説教節の爺)/加藤隆之(内藤隼人)/山口馬木也(野田又四郎)/若松俊秀(鍋山太平)/森塚敏(犬山半太夫)/長沢政義(警護の武士)/下川辰平(宿屋の亭主)/奥村公延(お遍路の老人)/大寶智子(おとし)

映画『雨あがる』受賞歴

第24回日本アカデミー賞
最優秀作品賞/最優秀脚本賞(黒澤明)/最優秀主演男優賞(寺尾聡)/最優秀助演女優賞(原田美枝子)/最優秀音楽賞(佐藤勝)/最優秀撮影賞(上田正治)/最優秀照明賞(佐野武治)/最優秀美術賞(村木与四郎)/優秀監督賞(小泉堯史)/優秀助演男優賞(三船史郎)/優秀主演女優賞(宮崎美子)/優秀録音賞(紅谷愃一)/優秀編集賞(阿賀英登)
第43回ブルーリボン賞
優秀主演女優賞(宮崎美子)
第56回ヴェネツィア国際映画祭
緑の獅子賞

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映画『雨あがる』感想


映画に古典的な風格というものがあるとすれば、この映画こそその一本でしょう。

故黒沢監督は遺稿の他に絵コンテまで描いたんじゃないかと疑うほど、ファーストシーンから故黒沢監督そっくりの重厚な映像を見せてくれます。
それもそのはず、このスタッフは監督を含め黒沢組が再結集して撮り上げた黒沢監督へのオマージュであり、そのレスペクトと愛が色濃く表れている作品です。

雨の描写や、群衆劇のカメラの移動シーン、演出も浮いた所も無く実直で誠実、まさに昭和日本映画の古典的な古風を写して感動的です。

役者陣も、松村達雄、隆大介、仲代達也など黒沢映画で常連の懐かしい顔が嬉しかったです。
日本映画:1962年
黒澤明監督『椿三十郎』
黒澤時代劇の痛快娯楽作品!黒澤時代劇のルーツとは?
三船敏郎と仲代達矢、その壮絶なラストの決闘を見逃すな!

また、その立ち回りのシーンにも、黒沢監督へのオマージュが入っていると感じます。
<『椿三十郎』を思わせる殺陣>

主役の、寺尾聰の素直な演技にも好感を持ちました。
そして、それ以上に感銘を受けたのは妻役の宮崎美子、武家の妻としての気品と大らかな楽天性が同居したその人品が、この映画を一段高い作品としているように思います。

この映画の持つ、人々を助けるために、自己犠牲を厭わない主人公の姿にも、日本的な美徳の形として心打つものがあります。

さほど派手な立ち回りがあるわけでもないこの作品を、ここまで滋味溢れる作品にしたのは、間違いなく黒澤監督に対する篤い思慕の想いが結実したからでは無いかと感じます。

その、長所を総合して☆3.5です。
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映画『雨あがる』解説

製作の経緯と新たな時代劇の萌芽

1998年9月6日に88年の生涯を閉じた黒澤明監督の通夜が営まれました。
その席で、黒澤プロダクションの黒澤久雄氏と、アスミック・エースの原正人氏の2人のプロデューサーは、黒澤の残した脚本『雨上がる』を、黒澤監督の下で長年助監督を務めた小泉堯史氏の監督デビュー作として製作をするという話がまとまったそうです。

50歳になっても監督デビューを果たしていない小泉堯史氏の姿が、映画の主人公の浪人と重なり、黒澤組の総意として応援してやろうという声が上がったと言います。

しかし4億5千万円の製作費を集めるため、50歳を過ぎた新人監督で、映画としても地味な題材という事で、資金集めは難航したようです。
世界配給権のプリ・セール(前売り)で1億を得て、アスミック・エースや角川書店と住友商事、テレビ東京や博報堂など計9社からなる製作委員会を立ち上げて、残りの3億5千万円を集めることに成功します。

それを受けて黒澤組スタッフが結集し、監督輔・野上照代、撮影・上田正治、撮影協力・斎藤孝雄、美術・村木与四郎、照明・佐野武治、録音・紅谷愃一、衣裳・黒澤和子、音楽・佐藤勝、編集・阿賀英登が携わりました。

俳優陣も黒澤後期映画『乱』『夢』『まあだだよ』に出演した寺尾聰、その妻役に『乱』の宮崎美子、そして仲代達矢、井川比佐志、原田美枝子、松村達雄、隆大介、頭師孝雄、吉岡秀隆、そして三船敏郎の息子・三船史郎まで登場し、黒澤作品を彩ったスターも結集します。
関連レビュー:三船敏郎を世界的スターにした映画
『七人の侍』
映画史に永遠に刻まれた日本映画
黒沢映画の時代劇と西部劇との関係?

そういう意味で、この映画は、今は無き黒澤監督の遺徳を継ぐ人々が撮り上げた、恩人に対する敬意ゆえに温かく情の籠もった映画になったのだと思います。

そして、この映画は営業的にも、批評的にも成功したことで、黒澤監督が築き上げ、日本映画の代名詞となった「時代劇」の新しい潮流を作るきっかけを作ったと思います。

それは、この地味な「時代劇」が映画的成功を得られると証明されたことで、アクションシーンのまるで無い、更に地味な「時代劇」が生まれるきっかけとなったと思えるからです。

その映画とは2010年『武士の家計簿』で、そろばん侍というサラリーマン的な悲哀を描き、新たな時代劇ジャンルを確立したのです。
日本映画:2010年
『武士の家計簿』
森田芳光監督の加賀藩・経理侍の実話歴史映画
平凡な武士階級の家族の記録

そのプロデユーサーこそ『雨あがる』を作り上げた、アスミック・エース原正人プロデューサーでした。

さらに2013年『武士の献立』、2016年『殿、利息でござる!』など、チャンバラ抜きの時代劇は日本映画に確かな地歩を得ました。

黒澤監督は本作品を通じ、没後も日本映画界の発展に寄与したと言うべきでしょう・・・・・・
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!以下の文章には当作品に関する批判があります!
この映画を愛してらっしゃる方々は、ご注意ください。
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映画『雨あがる』考察・批判

本家取り

以降の文章には、個人的に感じた物足りなさを書かせていただきます。

和歌に本家取りという、創作の作法があります。
古歌の趣を残して新しき趣向を盛り込んで歌を詠むのですが、古来の歌に対する敬意と、古典と向き合って格闘する作者の志が、しばしば佳品を生み出してきました。

しかし偉大な作品との戦いとは、大いなる先人と向き合うことを意味し、しばしばその偉大さに飲み込まれ模倣に陥る例も見られます。
たとえばその苦悩は、名匠・森田芳光監督ですら『椿三十郎』のリメイクで見て取れます。
日本映画:2008年
森田芳光監督『椿三十郎』
黒澤監督の名作のリメイクは成功したか?
リメイクとは「絶対的存在 = 神」との格闘

そしてこの映画も黒澤監督に対する「愛」ゆえに、黒澤監督から外れまい外れまいとしているように感じられます。
その愛ゆえに自縄自縛に陥ってしまったと感じました。

結局「クロサワ」という「様式」を守ることに固執するあまり、新しい表現をなしえなかったように感じてしまいました。

藤原定家の本歌取りに関する教えにいわく「本歌取りをしようとするときは、本歌とは異なる主題でで詠むのが理想的」とあります・・・・・

実は、最近の小泉堯史監督作品を見ると、黒澤作品を基礎としつつも独自の色が出て「小泉様式」の完成に向かっていると、個人的な印象を持っています。
<小泉堯史監督『蜩ノ記』予告>

そんなわけで、2020年の今、同監督の来年の新作も楽しみにしています。
<小泉堯史監督『峠 最後のサムライ』予告 2021年6月公開!>




posted by ヒラヒ at 17:00| Comment(0) | 日本映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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