2020年01月17日

アカデミー賞映画『英国王のスピーチ』吃音症と近代の苦悩・再現ストーリー/あらすじ・感想・解説・ネタバレ・ラスト

映画『英国王のスピーチ』(ストーリー・感想 編)

原題The King's Speech
製作国イギリス・オーストラリア・アメリカ
製作年2010年
上映時間118分
監督トム・フーパー
脚本デヴィッド・サイドラー

評価:★★★★  4.0点



「王権神受説」という言葉を、歴史の授業で学んだことを思い出した。

そもそも、かつて王とは神であった。
神ゆえに、国を統べる資格を持ったのである。


しかし、その神聖は20世紀に入り揺らぎ始める。
この映画の主人公ジョージ6世は人間でありながら、神々の王に挑戦しなければならなかった・・・・・・・
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<目次>
映画『英国王のスピーチ』ストーリー
映画『英国王のスピーチ』予告・出演者
映画『英国王のスピーチ』感想/近代と「王=神々」
映画『英国王のスピーチ』解説/受賞歴
映画『英国王のスピーチ』ネタバレ・結末

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映画『英国王のスピーチ』ストーリー

1925年の大英帝国博覧会。大英帝国の王子、ヨーク公アルバート(コリン・ファース)は、妻の公妃エリザベス(ヘレナ・ボナム=カーター)とともに、父王ジョージ5世(マイケル・ガンボン)の名代としてスピーチを行う。
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しかし、幼いころから吃音に悩まされてきた、彼のスピーチは聞くにたえなかった。

アルバートの妻エリザベスは車中にあって、ロンドンのとある住所に向かう。
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アルバートの吃音症の改善を求め、何人もの言語療法士を試してきて、今また、噂に聞いたオーストラリア出身のライオネル・ローグの元を訪れたのだ。エリザベスは彼に望みを託し、後日夫アルバートと共にライオネルの元を訪ねる。
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ライオネルは王子アルバートに対して、裸の人間として付き合えなければ治療できないと、お互いを愛称で呼ぶことを求め、アルバートを怒らせてしまう。懐疑的なアルバートに向かいライオネルは実験だとして、ヘッドフォンをした状態で本を朗読させ、その声を録音した。
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その途中でバカバカしいとアルバートは部屋を後にした。ライオネルは出て行くアルバートに「記念に」と、朗読したレコードを渡した。

英国王恒例のクリスマス・スピーチを、ジョージ5世が国民に向け語りかける。
そのBBCの放送が終わった後、ジョージ5世は同席したアルバートにスピーチの練習を強いた。
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父王は、アルバートの兄デイヴィッドが離婚歴のあるアメリカ女性と結婚を望んでいるのを知り、それでは英国教会の長である王にはなれないと危惧していた。
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スターリンやヒットラーとの戦いが迫る今、アルバートが王としてスピーチする日が来るとプレッシャーをかけた。
その父王を前にして、アルバートは必死に言葉を発しようとするが、焦るほどその口から出てこなくなった。

家に帰ったアルバートは、ライオネルの録音したレコードに針を落とした。
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するとそこには、流ちょうに流れる自分の声があった。

アルバートはライオネルの治療に希望を託し、愛称で呼ぶことは認めないものの、そこで行われるユニークな訓練に妻と共に向き合う。
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そして、徐々に自らの個人的な話をするようになり、親しさをましていった。

そんな中、1936年ジョージ5世が崩御し、長男デイヴィッドがエドワード8世(ガイ・ピアース)として即位した。king_edw.jpg
しかし、アメリカ女性との結婚を諦めきれず、公然とその関係を続けていた。議会はキリスト教の教義に反しており、英国王に相応しくないと、日々非難の声が高まっていった。

そんな中でライオネルとの訓練を続けるアルバートは、親しくなった彼に自らが王位につくことの苦悩と恐怖を語る。しかし、逆にライオネルから王になるべきだと言われ、激怒し絶交を告げる。
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そして、本当に彼の元を訪ねなくなり、心配したライオネルが城を訪ねても顔も見せなかった。

高まる批難の中、兄デイヴィッドは玉座よりアメリカ女性との結婚を選び、エドワード8世の治世は終わりを告げた。
アルバートはジョージ6世となり、王位継承評議会で宣誓をしたが、相変わらず言葉は上手く出てこない。

ジョージ6世は自分が王となる事態に、その苦悩を妻エリザベスに泣きながら語った。

【意訳】ジョージ6世:私は王ではない。/王妃:あああなた/ジョージ6世:私は海軍士官だ。それが分かっている全てだ。私は王ではない。私は王ではない。すまない。/王妃:いいえ/ジョージ6世:すまない。/王妃:いいえ、バカ言わないで。お願い。あなた。大切な、あなた。/ジョージ6世:すまない。/王妃:ねえ知ってる。私が最初あなたの2回のプロポーズを断ったのは、あなたを愛していなかったからじゃない。王家の生活を考えると耐えられなかったから。行幸の旅や、公的責務を考えると耐えられなかった。そう、人生は短いし、人生を本当に自分のものにしたかった。でもその時思ったの、その吃音がステキって。私達を自由にしてくれるって。

そして英国教会での戴冠式を前に、再び、アルバートはライオネルのもとを訪れる。

映画『英国王のスピーチ』予告

映画『英国王のスピーチ』出演者

ジョージ6世:ヨーク公アルバート(コリン・ファース)/ライオネル・ローグ(ジェフリー・ラッシュ)/エリザベス妃(ヘレナ・ボナム=カーター)/エドワード8世(ガイ・ピアース)/ウィンストン・チャーチル(ティモシー・スポール)/大司教コスモ・ラング(デレク・ジャコビ)/マートル・ローグ(ジェニファー・イーリー)/ジョージ5世(マイケル・ガンボン)/スタンリー・ボールドウィン(アンソニー・アンドリュース)/ネヴィル・チェンバレン(ロジャー・パロット)/ウォリス・シンプソン(イヴ・ベスト)/エリザベス王女(フレイア・ウィルソン)/マーガレット王女(ラモーナ・マルケス)/メアリー王太后(クレア・ブルーム)/グロスター公爵(ティム・ダウニー)/ロバート・ウッド(アンドリュー・ヘイヴィル)/ラジオアナウンサー(エイドリアン・スカボロ)

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映画『英国王のスピーチ』感想


かつて王は神であったといえども―
「神の絶対的権威」は近代において圧倒的な敵を前に、臨死状態を迎えることとなる。
即ち、共産主義といい、民族主義に基づく軍国主義といい、さらに決定的な役割を果たした民主主義という怪物は、ついに絶対者をも「多勢の声」を武器に解体せしめる。

この映画の主人公「ジョージ6世」は、「神の喪失」した時代に「王」とならざるを得なかった。

そう思えば、彼は「王」でありながら「神」ではないという、「自己存在の喪失」ゆえに、言葉を発する事ができず「吃音症」となったと解するべきであろう。
大衆は、過去の「神に連なる王」達を期待しつつも、同時に現代の王が「神ではない王」である事を知っている。
その大衆に向かって「神ではない王」は、生身の人間として「神に連なる王」に匹敵する存在である事を、証明しなければない。

それは、「人」でありながら「神」に挑戦することに等しい。
この不可能に挑戦することを義務づけられた、史上初の王こそ「ジョージ6世」であったろう。
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左/ジョージ5世:中/ジョージ6世/右:エドワード8世

神として存在した父王ジョージ5世は、その厳格さを持って神になることをその子供に強制した。しかし、既に神の時代が終わったことを悟った、兄エドワード8世はさっさと神の場所を放棄し人間として俗世に下りていく。残されたジョージ6世は、神にもなれず、俗人にもなれず、その中間で逡巡せざるを得ない。

この映画は、その「神ではない王」の苦闘とその克服を、繊細な演出と、存在感のある演技によって丹念に描き感動的だ。

生身の人間が「神」に近づくための道が、主人公とその協力者の言語療法士が取った方法に示されているように思う。

身分や生い立ちを消し去り、己を人間存在のまま認識すること。
素の人間存在となった時、自らの内に「神の似姿=徳性」を人は見出すに違いない。
その内なる「神の徳」を認識した人間の言葉は、自ずと「神性」を持って響くであろう。

この療法士は、それまで「平等の立場」として主人公の前に立ってきたにも関わらず、演説の後に初めて「陛下」と呼ぶ。

それは、主人公が過去のしがらみを捨て去り「素の人間」から、「己の神性」を発見し、真に「神につながる人間存在」=「王の属性」を、その「言葉」によって伝えたからに他ならない。

人は誰でも「自らの中に神性」を見出せるのだというメッセージが、静かに、だが確実に、物語の中に埋め込まれており、見る者の無意識にそっと染み込むようなその語り口も、大変魅力的だと感じた。

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映画『英国王のスピーチ』解説

受賞歴・アカデミー賞授賞式紹介

ゴールデングローブ賞、主演男優賞
第83回アカデミー賞、作品賞、主演男優賞、監督賞、脚本賞受賞他
2010年(第64回英国アカデミー賞、作品賞、主演男優賞、助演男優賞、助演女優賞、英国作品賞他
第35回 日本アカデミー賞、外国作品賞
第76回NY批評家協会賞 男優賞
第36回LA批評家協会賞 男優賞

第83回アカデミー賞・主演男優賞スピーチ

プレゼンターはサンドラ・ブロック
変な髪型でオスカーを取った(ノーカントリー)とからかいながらハビエル・バルデム(ビューティフル BIUTIFUL)を紹介/去年オスカーを取ったのに(クレイジー・ハート)まだ欲しいの考えなさいと、ジェフ・ブリッジス(トゥルー・グリット)を紹介/あなたの力はソーシャルネットワークでスパークしたと、ジェシー・アイゼンバーグ(ソーシャル・ネットワーク)を紹介/エリザベス女王がこの映画を楽しんだそうねと、コリン・ファース(英国王のスピーチ)を紹介/ドラマ『ジェネラル・ホスピタル』で子供を迎えに行く主婦に貢献したと、ジェームズ・フランコ(127時間)を紹介
受賞者はコリン・ファース(英国王のスピーチ)。

【受賞スピーチ・意訳】
キャリアのピークを終えたと感じています。アカデミーに深く感謝します。実は今お腹の辺りがゴロゴロとしています。喜びのあまり、今にも踊りだしそうな雰囲気です。ステージを降りる前に足に来るのを恐れています。それで、私の感謝の言葉は出来る限り手短にしたいと思います。最初にこの才能高き俳優たちの並外れたリストに載っていることに対して。これは非常に恐るべきことで、おそらくこれが最大の名誉です。

すべてのスタッフと、ここにいる、そして、いない仲間の俳優に。ジェフリー、ヘレナ、ガイ。その名声が、私が計画していたひどい演技をするのを非常に難しくしました。そしてデイビッド・サイドラー、彼自身の苦労(脚本家も吃音症だった)が非常に多くの人々に美しい声の恩恵を与えました。そしてトム・フーパー(監督)、彼が解釈した、並外れた勇気と明確な視野に。スクリーンで映画を洗練させた人たち、Gareth、Emile、Iain、Xavier、そしてもちろんHarvey。私が20年前にただの子供だったとき、最初に拾い上げてくれました。

そして、私を応援してくれ家いるすべての人々。友人のポール・リヨン・マリス、クリス・アンドリュースそしてジェシカ・コルスタッドも、恵まれない瞬間と幸運な瞬間を共に過ごしてくれました。そして、私自身、非常に大きな部分を占めているトム・フォードと私の非常に幸運な友情に。そして、私の家系を構成するアングロ-イタリア-アメリカ-カナダ系に。そして、リヴィア、私のつかの間の王族の妄想に我慢してくれた、そして私がその責任を負っている人。私の本当に良いことすべては彼女に会ってから起きた。さて、皆さんがすみませんが、舞台裏に行かなければならない衝動がきました。ありがとうございます。
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関連レビュー:オスカー受賞一覧
『アカデミー賞・歴代受賞年表』
栄光のアカデミー賞:作品賞・監督賞・男優賞・女優賞
授賞式の動画と作品解説のリンクがあります。
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以下の文章には

映画『英国王のスピーチ』ネタバレ

があります。
(あらすじから)
戴冠式が迫っていた。そのリハーサルにジョージ6世はライオネルと共に臨んだ。国教会の大司教コスモ・ラング(デレク・ジャコビ)は、ジョージ6世がライオネルを王室家族が座る貴賓席に座らせ、自分のスピーチを見守らせたいという言葉に難色を示した。
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しかしジョージ6世は押し切り、他の言語療法士を紹介すると言う大司教の勧めも断り、ライオネルを守った。
2人きりになり、ウェストミンスターの玉座の前でリハーサルに入る。そこで、ジョージ6世は自らの苦悩と恐れを語り、ライオネルは「あなたは誰よりも忍耐強く勇敢だ。立派な王になる」と励ました。
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戴冠式は無事済んだものの、その頃ヒットラーのポーランド侵攻があり、イギリスはドイツに宣戦布告した。
それを受けて、ジョージ6世はラジオで戦争開始のスピーチを行うこととなる。
ジョージ6世とライオネルは、演説に向け練習を重ね、ついに放送当日を迎えた。

その場には、国教会の大司教、チェンバレン首相(ロジャー・パロット)、そしてチャーチル海軍大臣(ティモシー・スポール)がひかえ、放送室に向かうジョージ6世を励ました。
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放送ブースの中で、ジョージ6世とライオネルは向かい合って演説に臨む。ライオネルは王を励まし、鼓舞し、リズムを刻んだ。
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エリザベス妃は緊張の面持ちで、放送を聞いていた。
ジョージ6世の演説は、BBCの電波に乗って、戦争前の不安に苛まれる人々の胸に、広がっていった。

映画『英国王のスピーチ』ラスト・シーン

放送を終えたジョージ6世は堂々とその歩みを進める。その周りから称賛の声が沸き起こった。
【意訳】BBC職員:おめでとうございます/ジョージ6世:有難う(座る)どうかな?/カメラマン:完璧です。/ローグ:あなたの最初の戦時下のスピーチです。おめでとうございます。/ジョージ6世:これから何度もやることになるだろう。有難う、ローグ。良くやってくれた。友よ。/ローグ:感謝いたします。陛下。/王后:信じていたわ。有難う、ライオネル。/ジョージ6世:行こう/おめでとうございます/立派でございました/素晴らしいです、陛下、言葉が有りません。/ジョージ6世:諸君。(娘を抱き)それで、パパはどうだったエリザベス?/エリザベス:最初はゆっくりだったけど、良くなったわパパ/ジョージ6世:福音だね/ジョージ6世:じゃあ、マーガレットはどう思った?/マーガレット:本当にすごかったわ、パパ。/ジョージ6世:もちろんそうさ/準備はよろしいですか/王后:みんな準備はいい、さあ娘たち。

そしてその後の二人の関係が、テロップで示される。
”王ジョージ六世は1944年にライオネル・ローグにロイヤル・ヴィクトリア勲章コマンダー章を授けた。そのライオネルに示された、王からの高い感謝を表す栄誉は、君主に対する個人的奉仕の行為、王に忠義な騎士に報いるために贈られる、唯一の勲章である。戦争スピーチには毎回ライネルが立ち合った。その放送を通じて、ジョージ6世は国民の抵抗のシンボルとなった。ライオネルとバーティー(ジョージ6世)は残りの人生を通じて友であり続けた。”




posted by ヒラヒ・S at 17:00| Comment(4) | TrackBack(1) | イギリス映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんばんは❗(ФωФ)しゃべりが下手くそだろうと国民はあなたの声を待っている。深い映画ですよね。トップがいい人だとサポートする人たちもいい人が集まるのでしょう、、、
Posted by ともちん at 2016年09月20日 18:29
>ともちんさん
ありがとうございます(^^)
いい映画でしたねぇ〜しかし、本当のジョージのほうがイケメンじゃないですか?
Posted by ヒラヒ・S at 2016年09月20日 18:31
コリン・ファースが名演でしたね〜。
なかなか心に残る良い映画でした。
実話っていうのが凄いですよね(*‘∀‘)
Posted by いごっそ612 at 2016年09月22日 06:24
>いごっそ612さん
ありがとうございます(^^)
王様は大変ですね〜父王に相当イジメられたみたいですし・・・でも戦争を乗り切ったことを考えれば、ちょっと泣きそうに(T_T)
Posted by ヒラヒ・S at 2016年09月22日 12:42
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